第19話 倉庫の積まれた不用品は宝の山だった
「……えっと、未鑑定品から鑑定済みになった品を全部資産価値したと売却するやろ……そうすると、ざっとの計算で五三〇万ガルドってところやな……。もとより品質も上がってる品も多いし、かなりの儲けが出とるわ」
俺が資産価値の値札を付けた鑑定再構成品を、ラビィさんがソロバンで計算していた。
五三〇万ガルド……すぐに売れる先があるわけじゃないけど……もう、借金三〇〇万ガルドの清算は済んだようなものだよなぁ。
他の人がゴミだって言って捨てる物からだけで、すごいお金が手に入っちゃうなんて、俺のスキルはやっぱりとんでもなさそう。
これは調子に乗ってると神様の罰が当たるやつだよね……。
「ラビィさん……借金返済まではまだ期限もありますし……さすがに俺も五〇〇万ガルド以上の大金をもらっていくのはとっても心苦しいですから、再構成料ってことで一割ほどの品物だけにしておきたいのですが……」
「そりゃあ、フィナンシェの力やから、ワイはなんも言う気はないがなぁ。解呪料リスクから冒険者が放っていった物やし、あのおっさんには利益しかないでぇ。フィナンシェのした仕事から言えば、いただく利益は一〇〇万ガルドと幸運の腕輪ってくらい取っても感謝の言葉しか言われへんわ」
冒険者として経験が長いと言っているラビィからしてみたら、俺の取り分要求は少ないらしい。
でも、鑑定不能の呪いでどうしようもなかった粗大ゴミをリサイクルしただけしな……。
「フィナンシェ、謙遜は美徳やけどな。度が過ぎれば、嫌味になるでぇ。お前の力はすごいんや。それに見合った金をもらう権利は当然あるんやで。それに、金がなきゃ、お前の大事な狂暴女も養ってやれへんぞ」
ラ、ラディナさんを養うって!? それはけ、結婚するって意味――
「あたしはフィナンシェ君と一緒なら貧乏でも気にならないわよ。元々貧乏だったし、お金がなくてもフィナンシェ君と一緒にいられるなら大満足なんだから」
ラディナさんは俺の方を見て、ニコニコと笑顔で貧乏暮らししても大丈夫だと言っていた。
そんなラディナさんの姿を見た、ラビィさんが俺の肩を引き寄せて耳打ちする。
『フィナンシェ、あの女と二人だけの生活ならそれでもええがな。子供が出来たらどうすんねん。子供にも貧乏させる気か。貧乏の辛さはお前もよう分かっとるやろ。よう考えて自分の力を使わんかい』
ラディナさんとの子供……っ!?
想像したら一気に顔が真っ赤になってしまった。
でも、うちも結構貧乏してきたんで……ラディナさんとの子供にはそんな苦労はさせたくないなぁ……。
って、もう結婚して子供がいる想像してるけど、俺の勝手な妄想でしかないんだよな。
チラリとラディナさんの方を見ると視線が合った。
彼女にニコリと微笑まれると、心臓の鼓動が早くなってしまうのが分かった。
「フィナンシェ君、どうしたの? 顔が真っ赤よ?」
「な、なんでもないですからっ!」
微笑んでいたラディさんから急に声をかけられて、自分の妄想が読み取られたかと焦ってしまった。
「ラビィ、フィナンシェ君になんか変なこと吹き込んでないでしょうね! 変なこと教えてたら承知しないわよっ!」
「あほか! お前にとっても大事な話をフィナンシェに教えてやっとんのや!」
「ラディナさん、大丈夫です! ラビィさんは大事なことを教えてくれただけですから。ラビィさん、やっぱり一〇〇万ガルドと幸運の腕輪をもらうことにします」
ラディナさんとの未来のため、少しだけお金を多めもらうことにした。
テリーさんに鑑定不能の呪いが解けた品物を返すため、鑑定屋の店舗に顔を出した。
「おぅ、フィナンシェ。倉庫の不用品は片付いたか?」
昼を過ぎていて、店舗には鑑定待ちしている冒険者たちもまばらであった。
「はい、片付いたことは片付いたんですが……実はこちらのラビィさんがあることに気が付いたらしくて」
「おう、おっさん。お前の目は節穴やな。普通に鑑定できる品物まで不用品に混じって積んであったでぇ」
ラビィさんの眼帯をしていた方の目が赤く光る。
昨夜、酒宴の最中に赤く光る目の意味を教えてもらっていた。
眼帯を外し左目が赤く光る時は、ラビィさんの持つ『
『
ただ、洗脳とかいうレベルではなく、ラビィさんの喋る内容に対して警戒心を持ちにくくなる程度の力だそうだ。
けど、持ち前の話術と合わさると、『
「はぁ? あの不用品の中にか? そんなわけ……わしはちゃんと鑑定して不能って判断をした上で解呪料を支払いたくないやつらが勝手に置いていったやつを積んでたはずだが――」
「ほら、これ見てみい。どう見ても呪われてなさそうな品やぞ。ちゃんと鑑定したんか?」
ラビィさんが鑑定再構成された金の彫像を、テリーさんの前に置いた。
「そんなわけが……おっと、こいつは鑑定ができるぞ……」
「そやろ。こんなもんがぎょーさん転がっとったでぇ! ワイらが倉庫整理せんかったら、おっさんは大損しとるとこやな。そこに置いてあるもんは全部鑑定できそうなもんや」
「本当か!? いやー、すまんな、助かったぞ!」
テリーさんは全く疑った様子もなく、ラビィさんの言葉を信用しているようだった。
カウンターの上に置いた品々は、本当は呪われていた物だが、再構成して呪いが解けた物であった。
「これも、これも、こっちもか……わしはこんないいものを鑑定せずに倉庫に積んでたのか……」
テリーさんは目を細めてカウンターに並べられた品の鑑定をしているようだ。
総額四〇〇万ガルドにものぼる品々であるため、テリーさんの鼻息も少し荒くなっていた。
冒険者なった時の恩人であるテリーさんに、少しでも恩返しできてよかった。
俺も再構成した品物のうち一〇〇万ガルド分はいただいたし、テリーさんはゴミとして積んでた品から四〇〇万ガルド分以上の品を得られてどっちも得できていた。
「フィナンシェ……お前らが倉庫整理してくれてなかったら、大変な品を捨ててたかもしれん。今日は本当に助かったぞ! これは少ないが駄賃だから受け取ってくれ」
「いえ、不用品として何点か回収できたので、こちらとしても大助かりしてます。なので、報酬は……」
駄賃としてテリーさんから現金を差し出されたが、すでに十分な報酬を頂いたので辞退していた。
「そうか……残念だな……。そうだ! お前らのことを街で商店を開いてるやつらに伝えておいてやるぞ! 廃品回収してくれる上、倉庫整理までしてくれるって」
ああ、確かに商店街の顔役っぽいテリーさんからお願いしてもらえば、いろんなお店のゴミをリサイクルさせてもらえるようになるかも。
そうすれば、色々とまた別の発見もあるかもしれない。
「テリーさん、その話お願いできますか! 俺はもっと廃品集めたいのでお願いします」
「おぅ、分かった。じゃあ、荷馬車にうちの廃品積んだら、次は鍛冶屋のアレックのとこ行け。先に話は通しといてやる」
それだけ言うと、テリーさんは店番を店員に任せると店舗から駆けだしていった。
「フィナンシェ君、次は鍛冶屋さんみたいだね。急いで引き取る品を荷馬車に積み込んだら、鍛冶屋さんへの案内よろしくね」
「はいっ! すぐに荷物積みます!」
「おぉい、もう昼過ぎやで。鍛冶屋は昼飯食ってからやぞ。みんないっぱい働いたから、昼飯はフィナンシェの奢りで豪勢な飯食うでぇ~」
そういえば、夢中で仕事しててお昼時を過ぎてることを忘れていた。
みんなには荷物運ぶの手伝ってもらってるし、ご飯くらいは奢れるくらいの稼ぎは出せたからお腹いっぱい食べてもらわないと。
「やったぁ! 頑張った甲斐があったわ」
「何食べようかなぁー」
「……お肉」
「食べ過ぎて太っちゃいそう。ラディナは何食べる?」
「ラビィさんと一緒のお昼♪~」
「ほらー、みんなあんまりフィナンシェ君にたかっちゃダメよー」
ラディナさんは、俺の懐事情を心配してくれているが、お昼を奢るくらいどうってことない。
なにせ、半日で一〇〇万ガルドは稼げたし……。
「大丈夫ですよ、ラディナさん。午後もみなさんにはお手伝いしてもらいますし、日当とお昼代くらいは俺が出させてもらいます。それにラディナさんも食べたい物あったらガンガン言ってくださいね。費用は俺が全部持ちますから」
「そんなの気にしないでもいいのに……でも、フィナンシェ君と一緒にお昼が食べられるのは魅力的な提案だわね。じゃあ、ごちそうになりましょうか……」
「よっしゃ、決まったな。フィナンシェ、この街一番の飯屋連れてけやー。それくらいの店で飲み食いしてもお釣りくるやろ」
「あ、はい。分かりました」
その後、俺たちはミノーツで一番のレストランで一人一万ガルドのコース料理を堪能し、腹を満たした後でテリーさんが話を付けてくれた鍛冶屋へと荷馬車を走らせた。
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