第14話 もうゴミなんて言わせない
「おい、あれって『ゴミ拾い』のフィナンシェだろ? なんであんな新品の荷馬車に乗ってるんだ?」
「それに見ない顔……って、あの兎の獣人はこの前、薬草とか売ってたやつだろ?」
「おいおい、あの旗を見ろよ。『処分に困る不用品がありましたら、こちらへお持ちください』って書いてあるぞ。なんだ、フィナンシェの奴『ゴミ拾い』から『廃品回収』に転職したのかよ」
「マジかー『ゴミ拾い』から『廃品回収』かよっ!! 笑っちまうぜ!!!」
「おもしろそうだ。どうせなら、この壊れて使えない短剣とかゴミだし、あいつに押し付けるか。おーい、フィナンシェ!!」
俺たちの荷馬車を見てニヤニヤしていた冒険者たちが呼び止めてきた。
すぐに荷馬車をおりて、彼らのもとにいく。
「おい、フィナンシェ。お前、ついにゴミ拾いやめて廃品回収するようになったのかよ」
冒険者の男が明らかに俺を侮蔑した顔で見ていた。
そう言えば、この姿で廃品回収してるとそう思われちゃうか……。
どのみち汚れ仕事だと思い、ラビィさんが新調してくれた綺麗な服から着替え、いつもの擦り切れた革鎧を着込んできていた。
でも、ボロボロの革鎧を着てても、自分のスキルがラディナさんのおかげでスゴイって理解できた俺には、もう下を向く理由はない。
だから、今の俺にはそんな嘲りに視線なんて意味がないさ。
「はいっ! 俺は廃品を蘇らせる仕事も始めたんで。みなさん、いらない邪魔な不用品ないですか? どんな物でも引き取りますよ」
「チィ、ゴミスキルしか持ってない上に、冒険者としてのプライドも捨てたのかよ。恥ずかしい奴だな」
「いいえ、冒険者としての仕事も捨ててませんよ。むしろ、冒険者をするために皆さんの廃品を集めてますから!」
堂々と顔を上げ、声を強めて冒険者に言い放つ。
俺はもうゴミスキル持ちと言われ、ゴミ拾いしかできない底辺冒険者なんかじゃない。
ゴミなんかじゃないんだ! 俺はゴミなんかじゃない!
ラディナさんと出会った今、俺だって冒険者として輝けるんだ!
「お、お前、本当にフィナンシェか?」
「はいっ! フィナンシェですよ!」
いつも下を向いて小声で喋っていた俺が、ハキハキと明瞭な言葉で話す姿を見て、顔見知りの冒険者たちが戸惑っていた。
「じゃ、じゃあ。これをやるよ。どうせ刃こぼれして使えないしな。ゴミみたいなお前にはお似合いな武器だろ?」
気後れした一人の男が、俺に刃こぼれした短剣を手渡した。
これも、ラディナさんと俺の力にかかれば、新品同然に変わるのでタダでいただけるだけありがたい。
タダでもらえた喜びに思わず笑みがこぼれる。
「あ、ありがとうございますっ! こんないい物を頂けるなんて……いつも俺を馬鹿にしてたかと思ってましたけど、案外いい人ですね」
「ひぃ、お、お前。本当にフィナンシェかよ」
「オ、オレはじゃあ、この千切れた革のベルトやるよ。こんなのゴミだしな」
別の男が差し出した革のベルトは使い込まれ、擦り切れボロボロに千切れている物だった。
けど、そんなのは全然関係ない。
「あ、ありがとうっ! 革のベルトまでもらえるなんて、君たちのこと嫌いだったけど、おかげで好きになれそうかもっ!」
俺は男の手を取って、感謝の気持ちを精いっぱい伝えていた。
「ひぃいっ! お前、だ、大丈夫なのか? 頭とかぶっ壊れたのか?」
「な、なにか悪い物でも食ったのかよ。ニヤニヤして気持ち悪いなぁ。お前はゴミ拾いしとけよ。ほら、このクズ魔結晶やるよ」
昨日俺にクズ魔結晶を投げた男が、再び同じようなクズの魔結晶を足元に投げた。
俺はすかさず魔結晶を拾うとニコリと笑いかけた。
「あ、ありがとうございますっ! 大事に使わせてもらいますねっ!」
「お、おぅ。そ、そうか。大事にしてくれ」
今まで、胸糞悪い奴らだと思ってたけど、タダで物をくれる人だと思えると自然に顔が綻ぶな。
感謝、感謝。
これで俺の借金も減るし、スキルも成長するしありがたい。
「やっぱ、お前頭おかしくなっただろっ! 付き合ってられねえよ。おい、みんな行こうぜっ!」
微笑むのをやめない俺に不気味さを感じたのか、冒険者の男たちが後ずさりして逃げ出した。
「んーもうっ! フィナンシェ君も腰が低いわね。あんな奴等、ガツンと言ってあげればいいのに」
「いや、でも廃品をくれたり、クズとはいえ魔結晶くれたりしたんで、怒りよりも感謝の気持ちしかでてこなくて……」
「お前はお人よしやなー。まぁ、タダで金になるもんをもらえれば、ワイでもニヤケるのはしゃーないけどな」
「すみませーん。いらない物を引き取ってもらいたいんですけどー!」
俺たちが話していると、街の方から旗を見た人たちが不用品を引き取って欲しいと手を振っていた。
街の人たちからは、壊れた鍋、傷んだ農具、割れた食器、破れた衣服、布の切れ端、革の端切れ、壊れた家具、粉々のガラス瓶、しなびた薬草類、壊れた武具、腐った木材など次々に荷馬車に持ち込まれる。
あっという間に荷馬車には廃品で埋まっていた。
俺たちは荷馬車を別の場所に移し、その不用品を次々に解体再構成をしていく。
壊れて使い物にならなかった品物は新品同然になっていた。
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