第20話 文藝コンテスト
「では、再来週に控えた球技大会の球技を何にするか決める。学級委員司会を頼むぞ。」
「はい、まず初めにやりたい球技を皆さんに言っていただきます。」
一週間に及ぶ部活体験期間が終わり、一年生のオリエンテーションが全て終わった頃、最初の学校行事が始まろうとしていた。
「では、やりたい球技がある方、挙手願います。後でグラウンド競技と室内競技で分けるのでなんでも言ってください。」
「はい、私バレーがいいです。」
「俺はサッカーだな。」
その後、次々と案が上がりいくつかの候補に絞られた。
「では、グラウンド競技はサッカーとソフトボール。室内競技はバドミントンとバスケに決まりました。」
「よし決まったな。体育委員、男女二人で放課後の会議に行ってこい。今日の会議で決まったことは明日の朝にでもみんなに共有してくれ。」
あと二週間で球技大会が始まる。
雪乃からすれば、高校に入って初めての学校行事。クラスのみんなと一緒に何かができるだけで、わくわくする。
「今日のホームルームはこれで終わりだから日直は日誌を提出しに来るように。では解散。」
「雪乃、悪いけど先行っててくれる?私と怜掃除当番だから。」
「うん、分かった。先行ってるね。」
「あれ、まだ誰もいない。」
雪乃が部室に着くと、そこにはまだ誰も居なかった。いつもの席に座って待っていると一人の来客が来た。
「藤原、居るか?」
「橘先生……?」
「あぁ、三好か。藤原が来たらこのプリントを渡しておいてくれ。それじゃあ私は職員室へ戻る。」
「は、はい。」
渡されたプリントを何気なしに見ると、『高校生、夏の文藝コンテスト!!』とイラスト付きの大きな文字で書かれていた。
「雪乃か、怜と美咲はまだ来てないのか?」
「部長、こんにちは。二人は掃除当番で遅れてきます。それと、これ……」
「あぁ、橘先生だろ?そのプリント。」
「はい、これを部長に渡すようにって。」
「あの人も諦めないなぁ、コンテストには出す気はないって言ってるのに。」
「前に自分でも書いてるって言ってましたね。」
「素人の趣味程度にな。あの人、小説家志望だったって話はしただろ?俺にはそれなりの才能があるらしくて、それが勿体無いと言ってコンテストの知らせを渡してくるんだ。」
「一回くらい出してみたらいいんじゃないですか?」
「一度出したさ、結果は散々だったよ。だからもう、いいんだ。好きな時に好きな物を書く。それで満足さ。」
「そう……なんですね」
「この話は終わりだ、辛気臭くなっちゃったしな。」
この気まずくなってしまった空気の中、どうすればいいか分からなくなっていると、掃除当番を終えた怜と美咲が部室に来た。
その後ろに穂海と玲奈が部室に向かって来ているのが見えた。
「思ったより掃除に時間かかってしまった。」
「おまたー、雪乃。」
「怜くんに美咲ちゃん、おかえり。」
「ゆき姉、やっと会えた!」
「こんにちは」
「二人ともおかえり。」
「よし、全員揃ったな。今日は橘先生より文藝コンテストの知らせがきている。我が家芸部はこのコンテストに作品を出そうと思う。それにあたってまずは部内で選考をしようと思う。もちろん俺は審査員をするから作品は出さないが、部内選考を通った五人のうち誰かが、この夏の文藝コンテストに作品を出すこととする。」
「はいはいはーい、質問です。その文藝コンテストってどんな作品を作るんですか?」
「そうだな、今年は『高校生の青春』がテーマとなっている。例えば、今過ごしてる高校生活のことを書いたり、作ったりしてもいい。」
「なるほど……」
「まぁ、とりあえず書いてみなければ分からない。最悪完結しなくてもいいから、一週間後に持ってきてくれ。」
「文成先輩、そのコンテストって賞金とか出るんですか?」
「もちろんだ、最大五十万円出る。」
「という事は出ないこともあるんですね。」
「もぉー、怜は夢がないなぁ。」
「美咲は夢を見すぎだ、もう少し現実を見ろ。」
「ゆき姉、五十万円だって、どうしよう!」
「どうって、貰えると決まったわけじゃないから……。まずは書いてからだよ?」
「ここにも、いたな……。美咲と同じやつが。」
それにしても、文成部長は本当に作品を出す気がないんだ。やるだけやってみたらいいと思うのだけど……、過去にそれだけ嫌なことでもあったのかな……。
家に帰り、雪乃は自室の机でノートを開いた。
そこには『夏の文藝コンテスト』と書かれ、これから書き始めようとしているのが分かった。
「青春かぁ……、わたしにはまだわかんないなあ。」
高校に通い始めて、まだ二週間ほど。
まだ学校行事の一つも終わってない。
正直、青春なんて辞書を引いたら出てくる言葉くらいしか雪乃には知りようがなかった。
けど、雪乃は思うがまま書きたいことを箇条書きにした。
書き方は分からないけど、書いてみたいことは出来た。
まだ何も知らない少女は、当たり前であるはずのことを書く。
それはきっと、少女には眩しい憧れなのだから。
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