第19話 新しい仲間

 雪乃が家庭文芸部、略して家芸部に入部して一週間が経った。

 家芸部は元から三人と人数が少ないこと、うち二人が同じクラスであることから雪乃が馴染むのは早かった。

 二年生以上は身体測定や検査が既に終わっており、本格的な授業に入っている。

 一年生は検査事項が他学年より多いことと、オリエンテーションがメインだった為ようやく授業に入ろうかとしている所だった。


「ついに、この時が来た。」

「文成部長、何が来たんですか?」

「あー、確かに」


 怜と美咲は理解出来たようだが、言葉足らず過ぎて雪乃には全く意味がわからなかった。


「今日から一週間、一年生の部活体験週間が来たのだ。」

「あっ、なるほど……!」

「まぁ、雪乃は直ぐに部活に入ったし、何より二年生だからピンと来ないわよね。」

「何はともあれ、ある程度は部員数を確保しないと部の存続が難しくなるからな。」

「そういうことだ!怜の妹君が入ってくれる確証もないしな。無理やり集めるつもりは毛頭ないが、それでもできる限りは努力せねばならない。」

「今年もビラでも配りますか?」

「いや、部活説明に行ってはいるからビラを配る必要も無いだろう。説明を聞いても忘れているなら元々興味がなかったということ。そういう無駄なことはしたくはない。」

「無駄というか、面倒臭いだけなんでしょ?」

「美咲君?面倒臭いとは人聞きが悪いぞ……?」

「文成先輩、図星なのバレてますよ。」


 呆れた様子の二人に文成は罰が悪そうな顔をした。


「雪乃君は二人のようになっては行けないよ。もはや、私の唯一の癒し要素なのだから。」

「は、はぁ……。わかりました……?」

「雪乃、あまり真剣に聞かなくていいからな。」

「この人、決してバカでは無いんだけどね。バカと天才は紙一重なんて言うしね。」

「全く、二人はなぜ先輩を敬わない。そしてもっと優しくしてくれない。」

「普通逆でしょ?雪乃もそう思うでしょ?」

「ど、どうなんだろ。わたしにはあまりわかんない……かな?」

「雪乃あんまり深く考えなくていいぞ、美咲もあまり押し付けない。雪乃も次第に先輩の扱い方に慣れるから心配しなくていいぞ。」


 ピンポンパンポーンと校内に放送が響く。


「只今より、部活動体験を始めます。一年生は各部室に向かってください。」

「このまま話が終わると負けた気がするが仕方ない。正直期待はしてないが何かの間違いで一年生が来るかもしない。気楽に行くぞ。」


 やれやれと、念の為の受入準備を始めた頃、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します、おにい遊びに来たよ。」

「なんだ、玲奈か。適当に座ってくれ。」

「おにいそんな態度でいいんだー。今日は入部希望者連れてきたのに。」


 ドヤァと実際に腰に手を当て胸を張る可愛い生物がそこに居た。


「失礼しまーす。って、ゆき姉ここに居たんだ!」

「穂海ちゃん!部活体験って家芸部だったんだ。」

「とりあえず、落ち着いて座りたまえ。」


 二人に席に座るように促すと、自己紹介を始めた。


「では、自己紹介をしよう。私がこの家庭文芸部の部長、藤原 文成だ。右から中川 怜、川上 美咲、三好 雪乃。この四人がこの部活のメンバーだ。良ければ軽く自己紹介をしてくれると嬉しい。」

「じゃあ、私から。中川 玲奈です。そこの怜の妹です。」

「私は中野 穂海です。ゆき姉の妹です!」

「という事は全員身内か。雪乃に妹が居たとは知らなかった。」

「妹と言うか、従姉妹です。一緒に暮らしてるので姉妹みたいなものですけど。」

「なるほど、その従姉妹と中川妹が友達だったと。もはやこれは運命だな!」


「ゴホン、では気を取り直して。単刀直入に聞こう、二人はこの部に入る気はあるか?」

「私は入ります。」


 玲奈は即答、穂海は真剣な顔をして考えていた。


「はい!質問です!」

「はい、質問どうぞ。」

「この部活って兼部ありなんですよね?」

「どちらかに偏って来なくなるのは体裁上困るが、別に禁止したりはしていないな。やりたいことがあるのはいい事だ。」

「兼部が出来るなら私も入ります!ゆき姉、これで学校でも一緒だね!」

「うん、一緒だね。」

「では、二人ともこの書類に学年とクラス、出席番号と名前を書いてくれ。書類は後で俺の方から提出しておくから書けたら渡してくれ。それと、この部活は互いに名前で呼び合うことになってるから慣れて欲しい。俺のことは名前でも部長でもいいからな。」

「「はーい」」


 書類を書いてもらい、この場にいる全員が部員となった(予定)ので正直やることが無くなった。


「さて、やることが無くなったぞ?」

「先輩、人増えたしUNOでもやりません?」

「美咲ちゃんにさんせー!」

「こら、玲奈。学校では先輩だぞ。」

「そうだねぇ……、敬語ができない子に配ってもらおうかしら。」

「うぅ……、ごめんなさい。」


 この三人も仲がいいようで、とても見ていて微笑ましい。穂海ちゃんが、「えっ、私も!?」とオロオロしてるのがちょっと可愛いので、ニコッと笑顔を返しておいた。

 しばらくしてから、「雪乃先輩……」と涙目になって言ってきた時は少し焦った。


「ごめんごめん、可愛いからからかっちゃったの。いつも通りでいいからね」


 しれっとハグを要求してくる穂海の頭を撫でながらあやしていく。みんなから見られてるけど、こういうのは気にしたら負け、だよね。


 その後は特に問題なく時は過ぎていった。

 この2時間くらいUNOをして分かったことは、文成がとても強いということ。ずっと一位まではいかないものの、基本的に負けることがない。

 本人曰く、「強いんじゃなく負けないように立ち回っているだけ。」らしいが、それが強いってことなんじゃないだろうか。

 勝ち抜ける度にうつ向けになって寝ようとする文成を見る度に、この人はどれだけ眠いのだろう。と疑問に思う雪乃であった。




 少し遅くなっちゃったけど、今日から日記を書こうと思います。

 今日は初めての後輩が出来ました。

 一人は穂海ちゃんで、たまたまわたしが入部している部活に体験に来ました。そして、もう一人は中川 玲奈ちゃん。

 なんと偶然にも怜くんの妹さんの玲奈ちゃんが穂海ちゃんのお友達だったのです。

 なんだかとても縁を感じます。

 学校に行けるだけでも楽しいのに、こんなにも楽しくて、幸せでいいのでしょうか。

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