第21話 球技大会前のいざこざ

 球技大会の話し合いの結果、グラウンド競技はサッカーとソフトボールに、室内競技はバレーとドッジボールに決まった。

 これは各クラスの体育委員が提出した競技を紙に書き、それを箱に入れクジ引きをした結果だ。

 クジ引きは男女別で行った為、二競技ずつとなっている。

 男子のグラウンド競技はサッカー、女子はソフトボール。男子の室内競技はバレーに、女子はドッジボールという内訳である。

 本校は人数が少ないため、全学年参加で球技大会は行われる。

 もはや、球技大会ではなく体育祭なのではと言う声も上がっているほどだ。

 基本的に対戦する相手は同学年ではあるが、競技やその年によっては全学年合同チームのようなことも起きる。


「今年の球技大会は学年対抗戦に加えて、三学年合同チームをA組とB組で一つ作ることになりました。」


 しっかり者の坂上はテキパキと会議で決まったことを朝のHRのわずかな時間に共有していく。


「球技大会は秋の体育祭と文化祭と同じくポイントがあるので絶対に勝ちに行くわよ。」


「ねぇ、桃百ちゃん。ポイントって何?」

「この学校はね、昔から春の球技大会、秋の体育祭と文化祭の三つの大きなイベントでの貢献度や勝利点を競うの。一年間を通して行うことで互いに切磋琢磨して……なんとかー、だった気がする。一年間で総合的に勝ったチームと、貢献度が高かったクラスは三月の終業式の日に表彰されるんだよ。」

「そうなんだ、なんかすごいね。」

「特に男子が勝つために必死になるから、運動できない組は足でまといにならないように必死だよ。」

「わたし、参加出来るかなぁ……まだ身体弱いし。」

「女子はソフトボールだし、バッターだけでもしたらいいんじゃないかな?さすがに学校側も配慮してくれるだろうし……。」

「放課後に先生に確認しに行こうかな。」

「出来れば早い方がいいと思うよ、お昼休みとか。もしかしたら放課後には打順とか決まっちゃってるかもだから。」

「そう……?なら、お昼休みに聞くね。」


 午前の授業を終え、お昼休みになった。

 いつも通り、怜と美咲がお昼ご飯に誘ってきた。


「今日はご飯先食べてて、ちょっと橘先生に球技大会のことお話してくるから。」

「そうなのか?じゃあ、先食べとくぞ。」

「怜、何言ってんのよ。雪乃、体調のこと話すんでしょ?私達も一緒に行くわよ。もしダメだって言われたら一緒に説得しましょ。」

「じゃあ、お願いしてもいいかな?」

「もちろんよ!ほら、怜も行くよ。」


 職員室へ向かうと、橘先生は片手でサンドイッチを食べながら小テストの丸つけをしていた。

 学校の先生はそんなにも時間が無いのか、橘先生が時間の使い方が悪いのか。


「失礼します、二年A組の三好です。橘先生少し時間いいですか?」

「三好か、どうした?」

「あの、球技大会のことで。女子はソフトボールに決まったじゃないですか、でもわたし、まだ身体が弱くて激しい運動とかキツイんです。でも、どうしても出たいのでバッターだけとか、出来ませんか?」

「もしバットが当たった時はどうするんだ?少なくとも一塁までは走ることになるぞ?」

「一塁までは走ります。けど、そのあとは代走?とか誰かに代わってもらえたらなって……。」

「ふむ……。三好は体育もまだ基本は見学だったな。分かった、私の方から先生方には掛け合ってみよう。クラスの方は自分達で説得してみなさい。クラスの仲間を納得させれないのなら大人しく見学だ。いいな?」

「分かりました、ありがとうございます。」

「どうする?このまま体育委員に頼みに行く?もう打順とか決めてるかもだし。」

「うーん、そうだね。」

「なぁ、俺がついてくる意味あったか?女子のチームの話に男いても意味無いだろ。」

「細かいことは気にしないの!」

「痛って、美咲おまえ今思っいきっきり叩いただろ!」

「知りませーん、雪乃あんなやつほっといて行こっ。」

「うん、でもいいの?」

「いいのよ別に、あんな意気地無し。」


「あ、あの……坂上さん少し時間いい?」

「三好さんどうしたの?」


 女子の中では運動が得意な坂上が球技大会のメンバー表に書き込んでいた。

 雪乃とはタイプが全く違うというか、勝ち負けにこだわるタイプの人間ではあった。


「球技大会のことでお願いがあるんだけど……」

「球技大会?見学するんじゃないの?」

「わたし、みんなと一緒にソフトボールやってみたいなぁって。だから、打席だけでも立たせて貰えたらなぁって。」

「どゆこと?打席立ってバット振ってはい終わりってこと?」

「違うよ坂上さん。雪乃が言いたいのは、打席に立ってもし当たったらその時は走るから、もしセーフだったら代走にしてくれないってことよ。」

「なにそれ、あんたのためにレギュラーメンバーを控えに下げろってこと?勝つ気あるの?」

「だからそういうんじゃなくて」

「あんたに聞いてるんじゃない!三好さんに聞いてるの。」

「勝つとかじゃなくて、わたしはただ……」

「勝つ気がないんだったら我儘言わないでくれる?それとも何、負けたら責任とってくれるの?」

「坂上さん、何もそんなこと言わなくてもいいんじゃない?雪乃はただ、みんなと一緒にソフトボールしたいだけで」

「だけって何!?したいだけなら放課後にでもやればいいじゃない。」

「あの……美咲ちゃん、わたしもういいよ……?諦めるから……」

「でも……」


 情報のすれ違いから段々とヒートアップしていく二人。

 大声を出したりしているので、教室内はともかく外からも野次馬が集まってきていた。


「はいはい、二人とも落ち着いて。一体何を言い争ってるの。」


 そこにはもう一人の体育委員、山口 朋美がいた。


「で、何で言い争ってたのか話してくれなきゃどうしようも出来ないよ?」


 美咲と坂上は我先にと話し始めた。

 山口は器用なもので、そんな二人の話を理解し妥協策を用意してくれた。


「要するに、舞は代走のために強いひとをベンチに入れたくない。でも、三好さんは一回でもいいから打席に立ってみたい。ってことでしょ?まずソフトボールのルールがわかってないね。いい?ソフトボールは何回だって代打とか代走の交代ができるの。同じ人が何回も交代するのもあり。だからベンチにいる限りあまり強い人とか気にする必要はないよ。」

「ソフトボールは野球とルールが違うのか?」

「当たり前じゃない、だって別の競技だし。これでも私、中学生の時はソフトボール部部長だったんだよ?」

「確かにそれだと信憑性が……」

「そのルールが本当だとしても、打てても走れないやつを打席に立たせるのはリスキーすぎる。」

「舞、私それなりに強い自信があるんだけど?それでもダメかしら?なにより、三好さんが可哀想じゃない。今までろくに運動が出来なかったんだから。そんな子が自ら進んでやってみたいと言ってるんだから、それを叶えてあげるのも体育委員の仕事じゃないかしら?」

「それはそうだけど……」

「それじゃあ決まりね、三好さんはこれでいい?」

「あっ、はい!ありがとうございます。」

「その代わり、打席に立つのは一回だけね?さすがに何回もチャンスは逃したくないから。」

「一回だけでも、嬉しいです。ありがとうございました。」

「舞は勝ちにこだわりすぎよ。クラスメイトのことも少しは考えてあげなさい。川上さんも友達想いなのはいいけど、過保護は程々にね?」

「わかったわよ……。」


「おい、二人とも大丈夫だったか?言い争いになってるって聞いてきたんだが。」


 何が起こってるのか理解しきれていない怜が二人の元へ戻ってきた。

 心配して走ってきてくれたのだろうか、息切れしている。


「遅いわよ……ばーか」


 不満そうに言いながらも美咲は少し嬉しそうだった。

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