第15話 これからの通学路

結論から言おう、穂海は無事試験に合格できた。点数としては下から数えた方が早いが、合格ギリギリというわけではなかった。

合格とわかった時の穂海の喜びようと言ったら、それはもう凄かったとしか言い様がない。

心配なのが、そのテンションのまま制服の採寸と入学手続きに行ったこと。学校で変な人扱いされないといいのだけれど。

そんな心配をしてるとは思いもよらない穂海は、そのテンションのまま学校に着いていた。


「来年度ご入学の皆様、まずは入学手続きについてご説明致しますので体育館の方まで移動願います。」


ガタイが良く声が大きい誘導係の先生が、浮かれている中学生とその保護者を誘導していた。

幸いにも人数的にはそこまで多くないので、一人でもどうにかなっている。


「あと十分で説明会が始まります。速やかに移動お願いします。」

「お母さん、あの人体育の先生かな?」

「はいはい、そんなことどうでもいいからさっさと体育館行くよ。説明会遅れても知らないわよ?」


説明会は粛々と進み、保護者と生徒で別れることになった。

保護者は視聴覚室に移動、そこでPTAや入学に関する書類の受け渡し、説明が行われている。

生徒側は、空き教室で制服やジャージ、学校指定のシューズの採寸を行っている。

この時に、制服の種類も選ぶことになっているのだが、入学後には購買部の方で別途注文すればいつでも購入可能ではある。


その後、教科書や電子辞書の購入手続きを保護者同伴で行い、この日の予定は終わりである。

後は、入学式の時に今日買った教科書類の受け取りと、校内案内があるくらい。

制服類に関しては、入学式前に各家庭に送られる。


「ふっふ〜ん、これでゆき姉と一緒の学校〜。制服楽しみだなぁ。」

「一緒の学校はそうだけど、学年違うんだからあんまり意味ないわよ?」

「あっ!そうだった……。」

「入学式までそこまで日にちないんだから、準備はしときなさいよ。」

「はーい……。」


「ただいまー」

「おかえり、穂海ちゃん。学校どうだった?」

「思ってたより広かったかな?それよりゆき姉、制服はどれにしたの?」

「制服?セーラー服の方を買ったよ。」

「私ブレザーの方を買っちゃったよ!」

「中学校もろくに行けなかったし、本当は両方着てみたかったけど、セーラー服に憧れてたの。」

「セーラー服って分かってたらそっちも買ったのに……無念。」

「二つとも買うつもりだったの?どっちも買うのは大変だと思うのだけど。」

「違うの!ゆき姉と一緒のがいいから、それが悔しいだけ。それに、中学校はセーラー服だったし。」

「そ、そうなの……。」


穂海の情熱はどこか変な方向へいってるのではないかと、不安になってくる雪乃。

でも、嫌な感じは不思議としない。こうやって誰かに好かれるのは嬉しい。

雪乃は、穂海を本当の妹だと思えるようになってきたし、悠誠は兄のように。二人もまた雪乃のことを実の兄妹だと思って接している。

出会った当時は、色々と大変なこともあったけど今となってはいい思い出である。

それでも、今は本当の家族のようになっている。

まだまだ家の手伝いとか肉体労働のようなことは出来ないけど、それでも立派に中野家の一員になっていた。


「ゆき姉?ゆき姉、大丈夫?」

「……ん?どうかしたの?」

「急にぼーっとしたから、びっくりしちゃったよ。」

「あー……、ごめんね。ここに来た時のこと思い出しちゃって。あの頃は迷惑ばかりかけてたし。」

「どうして急に?」

「それは……、秘密!また今度話してあげるね。さ、ご飯食べに行きましょ。」


夕食の席では、穂海が今日あったこと、制服を雪乃の同じにできなかったことを話していた。


「ん?知らねーの?入学後ならいつでも制服買えるぞ?」


悠誠がこの発言をしてから、穂海のテンションに拍車がかかった。

なんというか、態度がうるさいと言うのだろうか、存在がうるさいというのだろうか。そんな感じ。

賑やかでいいのだけど、両親に怒られるのは目に見えていた。


これからは雪乃と穂海、二人は御山高校へ通い始める。

悠誠は今年度で卒業となるが、家の仕事を手伝うので寂しくはない。

できれば、三人で学校に行ってみたかったけど、こればかりは仕方がない。


数日後、制服を着て高校へ通う。

新しい世界、新しい環境、新しい出会いに、これから起きるだろうたくさんの思い出。

まるで、自分が小説の主人公になった気分であった。

別に、事件が起きたりとか物語的な危険なことは望んでいない。

ただ、みんなの言う普通でいいのだ。

今まで出来なかった、その普通を全力で楽しむ。

これから歩む通学路は、特別でもなんでもない。

ほとんどが初めての日々が始まる。

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