第10話 ビアンカさんが来た

「ララちゃん、すっかり元気になりましたね!」

薬剤師ギルドにあるハヤトの研究室でマルセルが嬉しそうだ。魔力供給の間隔が空いて通常出勤出来るようになったのでザザとララを連れて薬師ギルドに通っている。

「ああ。悔しいがロボのおかげだ」

「ハヤトさんと僕の2人で外国のフェンリルのコミュニティに問い合わせまくりましたっけ…」


 ロボの体から出た何かをララに入れたくない。そんな思いで、あちこちに問い合わせた。

 問い合わせた結果、ロボの言う通り小さなララは同族から免疫をもらう必要がある。しかもララの状態から判断すると待ったなしだと返信をもらった。あの日の絶望は忘れない。


「問い合わせたフェンリルの女医のビアンカさんは、ロボさんのことを知っている様子でしたね」

「フェンリルは数が少ないからコミュニティも付き合いが濃いらしいな」


 ロボはフェンリル基準で見るとかなりレベルの高いイケメンらしい。それを聞いたマルセルと俺とザザの表情がチベットスナギツネみたいな顔になった。テレビ電話の向こうのビアンカ女医は、それだけでいろいろ察してくれた。

 ビアンカさんは旦那さんが人間なので人間の考え方に理解がある良い人だ。


「おーい! ハヤトにお客さんだぞ」

豊作ほうさくギルマスに呼ばれた。

「今日は来客の予定は無かったはずですが…」

「いってみるか。ザザ、ララを頼む」



受付にいたのはビアンカ女医だった。


「ずっと気になっていてね。抱えている患者たちの状況も落ち着いて、やっと会いに来られたよ。元気そうで良かった」

ビアンカ女医に抱っこされてララがご機嫌で尻尾をぶん回している。ザザもビアンカ女医に心を許しているようで、側でリラックスしている。


「会いに来てくださって、ありがとうございます。しかも外国から…」

「こちらこそロボが迷惑かけたね。それに今回はもともと学会で、この近くまで来る予定があったんだよ」


「ビアンカさんはロボと親しいのですか?」

「母親同士が従姉妹なんだ。フェンリルは数が少ないから少し遠い親戚でも交流が盛んで会う機会が多いんだよ。

ロボはS級冒険者で高身長なイケメンでスタイル抜群な筋肉質ボディでランクが高くて高収入で家事能力に長けていて人気なんだが…これまでの経緯を聞くと台無しだな…」


ビアンカ女医は話の通じる人のようだ。


「もしも他に方法があったら頼りたくはありませんでした。いくらロボが高潔な人格者しか成れないというS級冒険者でも…。

 僕らもいろいろ調べて、フェンリルの寿命が長いとかツガイについてとか、初めて知ったこともあります。フェンリルのロボにとっておかしな行動では無かったようですが、僕らには受け入れ難いです」


「うん。そうだよね。…ララちゃんも元気になったことだしフェンリル族のコミュニティに遊びに来ないか? うちの息子たちはララちゃんより少し年上だけど、近い年齢の子供達と会ってみるのも良いんじゃないか」


「それは願ってもないです!」


「…ちょっと待ってハヤトさん。休暇をとって遊びに行くだけですよね。外国の製薬会社に転職して移住はしませんよね! ね!?」

涙目でアワアワするマルセルと豊作ギルマスがハヤトの肩をガクガク揺らす。



── それは行ってみないと分からないなぁ。

外国の製薬会社について、念の為調べておこう。念の為だ。

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