その後

俺たちは海の家のお兄さん達にめちゃめちゃ怒られた後、東雲が気を失っているという事もあり旅館に戻ることにした。旅館に戻る道中、片岡と四十川に何があったのかを話した。


「本当にすまなかった」


「ゆうが謝ることじゃないだろ?それに僕もシノリンの行動含め多分それが一番最善だったんだと思うよ。それが仮に正解じゃなかったとしても状況が状況だ仕方なかったよ」


片岡は喋り方がいつもと違う、あの一件の後でいつもと同じテンションで色というのも無理な話だ。


そして四十川はというと。


「りぃぃん...っ」


俺がおぶっている東雲の横でずっと泣いている。それもそうだ大事な親友を失いかけたのだ四十川の性格を考えるとこうなるのも仕方ない。話を聞くと俺や東雲も大変だったが片岡と四十川もかなり大変だったそうだ。

俺と東雲がなかなか海の家に来ないのを心配して四十川がパラソルの方を見ると俺たちの姿はなく東雲の性格をよく理解している四十川は最悪を想定し片岡に状況を伝えた、そして浮き輪を持っていた片岡は俺たちの捜索、四十川は海の家にボートを出して貰えないか頼みに行った。そのおかげで俺と東雲と男の子は助かったのだ。


「本当に悪かった」



そこからは会話もなく旅館の部屋まで戻った。時刻はまだ1時半を回ったところで夕食までかなり時間が空いておりそもそも昼食さえも取っていないので買い出しに行くことになった。通常であれば男子である俺と片岡という組み合わせなのだろうが気を利かせて四十川が俺の代わりに行ってくれる事になった、俺は別に気を使わなくてもいいと言ったが四十川は「気にしないでください、それよりもりんを見ていてあげてください」といい結局買い出しの役目は譲ってもらえずに2人は出発してしまった。


パタン、という乾いたドアの閉まる音を最後に部屋には沈黙が訪れた。ここから最寄りのコンビニまでは早く見積もって徒歩10分、往復20分もかかってしまう。始めの5分は外の景色を見たり、スマホを見たりで時間を潰したがすることがなくなってしまった俺からすればこの約15分という時間は永遠のように思えた。しかし何故だろう落ち着かない、1人になってからだんだん増してくる心のざわめきこれは何だろう。


「何やってるんだろう、なぁ東雲」


しかし問いかけた本人からの返答は返ってこない。それもそうだ目の前の少女は眠っているんだから当たり前だった。東雲を見ていると心のざわめきがさらに増す、それは俺の心というバケツに水を貯めていくように少しずつでも着実に。そしてざわめき大きくなるにつれ少しずつその正体が分かってきた。


この感情は恐怖だ。


俺の中に「もしこのまま東雲が目を覚まさなかったら」という可能性を俺は無意識のうちに何度も何度も意識してしまっていたのだ、この不安は俺の中で蓄積され恐怖に変わった、そしてそれに気づいたとき俺は無性に怖くなってしまった。


「あれ?...」


涙が出ていた。泣いたのなんていつぶりだろうかそう考えるほど涙を流したのは遠い記憶で自分でも驚いている。そう、とても怖かったのだろう、周りの大切な人がいなくなるのが、もう会えなくなるというのが。今までなるべく考えないように生きてきた、周りの人が急にいなくなるなんて、当たり前は当たり前じゃないなんて。


しかし世界は残酷でそんな日は今日来てもおかしくない、そう俺に投げかけているようだった。もしそんなことになれば、俺は...


そこまで考えたときだった。


「ごめん、心配かけて」


さっきまで眠っていた少女は布団から体を起こしており申し訳なさそうに俺の顔を見つめていた。


「東雲!良かっt!?」


「ごめん」


そういうと東雲は俺の背中に腕を回し抱きついた、東雲の体は小さく震えていた。


「少しだけ、こうさせて」


言葉はそれだけ、俺と東雲は東雲が落ち着くまで少しの間そうしていた。




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