危機一髪

「おい!東雲!」


「っ!!」


俺の声は届いているのかいないのか東雲は足を止めない、それにさっき四十川を追いかけている時よりも数段早くなっている。


「クッソ!追いつけない!東雲!どうしたんだ!」


俺は東雲にどんどん距離を離されていく、俺よりかなり先を走っている東雲は片岡と四十川が飛び込んで遊んでいた岩場までたどり着くと「だぁぁぁ!!っ」と掛け声を出して泳げないはずにも関わらず海に思い切り飛び込んでいった。


「何してんだ!」


当然俺の声は東雲には届かず、届いたとしても手遅れだった。数秒遅れで俺も海に飛び込んだ、海の底を見ることができるものの相当深く当然足はつかない。周りを見渡すと小学3年生くらいの子供を抱えた東雲がおり半分溺れているような状態で水面に顔を出しなんとか息をしていた。俺は東雲に近づき子供を受け取った。


くそ!どうすれば助かる!?探せ、3人ともが助かる方法を!


波はそこまで強くない、でもじっとしていれば少しずつ流されていくだろうし体力も失う、それに東雲は泳げない俺もこの子を抱えたままじゃ長くは持たない。岸はほぼ垂直で登れないし、ここから浜まで泳ぐことも100メートル以上ある!正直、絶望的だ。


「東雲!岸に掴まれ!」


「うん!」


俺は今取れる最善策は岸に捕まり体力を温存することだと考え東雲に捕まるように指示した。しかしこれはただの一時凌ぎに過ぎないし長くは持たない、これしかない!


「東雲!少しでいい!この子を抱えたままここで粘れるか!?」


「す、少しなら!」


「頼んだぞ!俺は必ず戻る!それまでなんとか耐えてくれ!!」


俺は浜の方に向かって泳ぎ始めた。俺が考えたのは唯一泳げる俺が浜まで泳ぎ助けを呼んでくるというものだ。


この案には2つ欠点がある。


まず1つ目はそもそも俺が浜まで泳ぎ切る前提での作戦だということだ、俺は泳げはするが得意なわけじゃないし海にくることなんて今までほとんどなかった、だから正直はままで泳ぎ切れるのかわからない、しかし俺が泳ぎきれなければそこで3人ともゲームオーバーになるだからなんとしてでも泳ぎきらなければならない。


そして2つ目、俺が泳ぎ切ったとして東雲の体力が持つかどうかということだ、自分でも泳ぐのは苦手だと言っていた東雲の体力がそう長く続くとは思えない。俺が泳ぎ切っても東雲が溺れてしまっては意味がない。要するにこの作戦は俺がどれだけ早く浜につけるかが鍵になってくる。


俺は泳いだ、ただひたすら浜に向かって、おそらく今までもこれからも絶対にないくらい全力で。さっきまで自分の横で泳ぐのが苦手と言っておきながら誰かのためならリスクなんて顧みず海に飛び込むお節介な馬鹿野郎のためにも...。


俺が泳ぎ始めて少し時間が経ち半分くらい泳ぎ切った頃だろうか、浮き輪が俺の真上に落ちてきた。


「!?」


「ゆう!掴まれ!!」


声の主は片岡だった。


俺が片岡の声だと気付いたのとほぼ同時くらいだろうか俺の横すれすれの位置を水上ボートが通過した。乗っているのは海の家の人だろうかアロハシャツの上にライフジャケットをつけている。


「こちら1番、さっきの女の子が言ってた通りの場所に子供を抱いている女の子とその近くに男の子を発見した。救助行動に移る」


状況を理解できない俺はただ空から降ってきた浮き輪に捕まり東雲と男の子が救助されていくのをただぼーっと見つめていた。






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