(ⅷ)

「着装は終ったか?」

 「ニワトリ」男がそう聞いた。

「ああ」

「制御コンピュータにアクセス出来ました。じゃあ、起動コマンド打ちます」

 今度はメガネっ娘の声。

 両眼立体視型の小型モニタに制御コンピュータの起動ログが次々と表示される。見た所、大きな異常は無いようだ。

 そして、表示が、「水城みずき」のヘルメットに有る視覚センサからのものに切り替わる。

「試しに動いてみろ」

 パンチや蹴りの真似を何度かする。

「あんまり……なっちゃいない動きだな……」

「そうか?」

「でも、強化服パワードスーツそのものには問題は無さそうだな」

 ガラガラガラガラ……。

 その時、台車の音がした。

「何だ、そりゃ?」

 台車に載っていたのは、片側が斧、もう片側がハンマになってる武器。柄の長さは一・二mぐらい。

「持ってけ。そこそこの魔力が込められてるが……『九段』の結界を通過すると『靖国神社』にバレるんで、その『魔力』は不活性化してある。一緒に行く2人のどっちでも活性化する事が出来る筈だ。魔力を活性化した状態なら……並の死霊や式神は倒せる」

「判った……しかし、総帥グランドマスター自ら、肉体労働か?」

「……たしかに……あんたの親父を殺したのは、私だが……でも、この『島』は、この『島』の人間の手で守るしか無い。『本土』の連中は、どう言い訳しても『他所者よそもの』だ……。いつ、居なくなるか判らん奴らに下手に頼る訳にはいかない」

「何が言いたい?」

「忘れるな……これからやる事は、お前の弟と妹を助けるだけの話じゃない。『秋葉原』の英雄の息子であるお前が……『秋葉原』を守る新しい英雄になる第一歩だ……。しっかりやれ」

「わかった……」

「じゃあ、そろそろ行きます。『靖国神社』の連中を『九段』の港で待ち伏せします」

「よし、古臭い言い方だが……そいつを一人前に……『男』にしてやれ」

 しかし、何故か、俺の頭の中では、あのチビのメスガキの言葉が谺していた。

『何かを成し遂げた者を別の誰かが英雄として扱ってくれるだけだ』

『英雄に祭り上げられて……あんたの親父さんは幸せだったのか?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る