第二章:未来昔日 ― Days of Future Past ―

(1)

 結局、あたし達は解放され、勇気の自宅に帰り付いた。何故か、「靖国神社」の「従業員」から奪った銃器をお土産にもらって。

「私達だ」

「次のいちご狩りは?」

「来年の2月」

 部屋の中に居た「香港のクソ金持ちの子供」が玄関のドアを開ける。

「正義くん達は?」

 荒木田さんは首を横に振った。

「そう……」

「すまん……お前のモバイルPCを使わせてもらえるか? その事でらんと相談したい事が有る」

「まだ……正義くん達が助かる可能性が有るの?」

「まぁ……何とかな」

「ところで、聞くの忘れてたけど……何で、ここが判ったの?」

「お前が、ここに置いてった鞄」

「えっ?」

「あれに瀾からもらったヌイグルミを入れてただろ……万が一の為に、あの中にGPSを入れてた」

「……ええッ? ちょっと待ってよ……」

「お前のせいで博多で、どんだけの騷ぎが起きたか忘れたのか? その位の用心はするに決ってるだろ」

 部屋の中に入ると、「香港のクソ金持ちの子供」は、モバイルPCを鞄から出して立ち上げ、更にビデオ・チャットを起動。

『その顔だと、うまく行かなかったようだな……』

「えっ? こいつが……さっきの電話の相手? どう見ても……中学生……」

 勇気が率直かつ喧嘩売ってるようにしか思えない感想を述べる。

 たしかに、画面に映っている女の子のは、中学生かまでは不明だけど、少なくとも、あたしより年下っぽい。

『その馬鹿は無視していいか? ともかく、あの後、何が起きた?』

「馬鹿ってなんだよ⁉」

「馬鹿でしょ」

 勇気のツッコミに更にツッコミを入れるあたし。

 荒木田さんは、これまでの経緯を説明した。今度は、嘘も隠し事も無しで。ただし、「担当弁護士のスタン・ガンさん」は省略。

『その「魔導師」の情報は丸っ切りの嘘とも思えんが……多分、その情報を元に行動すれば、結果として、そいつは、自分の手を汚さずに、利益だけを得る事になるだろうな。「利益」が何かまでは判らんが……』

「だが、手掛かりは……それしか無い。で……私達は、どうやるのが正解だったと思う?」

『すぐに行動した事は正解。でも、考え得る限り巧くやっても合格点ギリギリだっただろう。そもそも、メンバーが……』

『あ〜、光さん、どうしたの?』

 妙にニヤニヤしながら画面に手を振る荒木田さん。やれやれと云う顔の「香港のクソ金持ちの子供」。

 画面の中には、もう1人女の子。先に映ってた方より若干、年齢は高そう。

「いや、ちょっと……面倒事に……」

ヒゥ君が、また、何かやったの?』

「なぁ、その、応援に……」

治水おさみを、そっちに送れって? すまん、ウチは、今年、初盆で、明日が法事だ。あと、もう1つ』

「何だ?」

『海の真ん中に有る人工の浮島に「水の神」の力を使える奴を送るのか……。治水おさみが何かポカやったら、島ごと沈む』

「じゃあ、そっちの……その……」

『下関と筑豊の「正統日本政府」のシンパに変な動きが有って、使えそうなのは出払ってる……らしい』

「じゃあ、攫われた子供が少年兵として『出荷』されるのも……」

『それと関係が有るかもな……。あと、そっちの港で手荷物検査が有る以上、銃も刃物も無しで、そこそこ戦える人間じゃないと……』

「銃なら有るよ」

 あたしは、モバイルPCの画面に映ってる女の子に、「靖国神社」の従業員から奪った銃を見せる。

「これで、ほんの一部」

『なら、心当りを探してみるが……期待はするな。で、話を元に戻そう……。少年兵にされそうな子供は、漁船に偽装した船で「出荷」されると言ったな……。なら、「出荷」日は……明後日……一六日の夜まで延びる可能性が有る』

「どう云う事だ?」

『近隣の海産物の卸売市場は盆の間休みで、一七日から営業。卸し先が営業してないのに、漁船が海に居たら、あからさまに怪しまれる』

「じゃあ……まだ……取り戻すチャンスは有る訳か……」

『ああ。だが、もしやる気なら、その時に、必要なモノが有る。それも、こっちで手配出来なかったら、あと1日2日じゃ入手困難なモノがな……』

「何だ?」

『さっき、当のあんたが言ってたモノだよ。応援だ。あんた達に協力してくれる「そこそこに強いが化物級チートって程じゃない誰か」だ』

「私達だけじゃ、やっぱり無理か……」

『そうだ。あんた達はゴジラみたいなモノだ。「強い誰か」と戦う事には向いてても、「弱い誰か」を護る事には向いてない。ゴジラには平気でも、人間には致命的な「何か」を見落してしまう危険性が有る』

 そうだ……それこそが、この数時間で何度も起きた事だ……。

「なら、方法が有る」

『ちょっと待って、心当りが有るから、今、電話する』

 モバイルPCのこっちと向こうで、同時に声。

 こっちの声は勇気で……向こうの声は2人目の女の子だった。

『待て‼ 今、誰に電話してる⁉』

『望月君と今村君が、今、「千代田区」の中古電子部品の即売イベントに行ってるでしょ』

「ええっと……あと……こっちには……強化服パードスーツが1つ有るんだけど……」

『見せてみろ……待て……それ……‼』

「駄目元で聞くけど……修理する方法なんて……」

『制御コンピュータは生きてるか? あと、3Dプリンタは有るか?』

「えっ?」

『なら、セルフ・チェック・プログラムを走らせて、そのログを送れ。あと、欠けてる装甲がどこか洗い出せ。一〇〇%の性能は望めんし、思いっ切り暴れた後に完全にブッ壊れてる事になる可能性が高いが、それでもいいなら……方法が有るかも知れん』

「そもそも……この……偉そうなチビ……誰なんですか?」

 勇気は荒木田さんに聞いた。

「えっと……その……色々とややこしくて……」

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