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 あたし達は、身体検査をされた後、会議室らしき所に連れて来られた。もちろん、「靖国神社」の「従業員」から奪った銃器類は全て取り上げられた。

 いや、しっかし、この部屋は、マジで普通の会議室。飾り気の無い長机に、飾り気の無い椅子。まぁ、どっかの会社に有るモノと云うより、お洒落っぽい喫茶店あたりに有りそうな感じの木製の机と椅子だけど。

 よく見ると、机には電源とLANの口がズラズラと……。

 そして、部屋の奥には、プロジェクターにスクリーンにTVを兼ねてるらしい大型のモニタ。

 壁はシンプルな白系統の色で、床も模様なしの絨毯。

 えっと……ここ……魔導師会……だよね……。並んでるのも普段着の人達がズラっと……。

「本名は黙秘しても良いか? と言いたい所だが……」

「先に、その小僧に言っておくべきだったな……『うかつに身元を明かすな』と」

 荒木田さんと、リーダーらしい女の人は「ところで、会議のメンバーはこれで全員ですか?」みたいな感じの口調で、そう話す。

「で、こっちは本名を名乗らなくてもいいよな? 良く知られてる『身元』は『薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ』総帥グランド・マスター・7=4……早い話が、ここのリーダーだ。『魔導師』としての名は被免達人アデプタス・イグセンプタス『エメラルドの永劫アイオーン』」

「中学生が考えたラノベの設定か? そもそも、あんたに話しかける時は、その大仰な名前を使わなきゃいけないのか?」

「……総帥グランド・マスターでいい」

「判ったよ、『お山の大将』」

「イキった所で、爆弾を使い果たした『爆弾魔』に何が出来るんだ?」

 そうか……確か、荒木田さんが言ってた。

 この人達の「魔法」と、あたしや荒木田さんの「能力ちから」は……傍目には似てるけど、実は全然違うモノ……。あたし達は、この人達が「魔法」を使った気配みたいなモノを感じられないし、この人達の「使い魔」は見えないが……逆も成り立つ。

 この人達にとっては、あたし達がやった事は……「誰も魔法を使ってないのに、何故か爆発が次々と起きた」。その状況では、まぁ、あたし達を日本に二〜三〇人しか居ない「能力ちから」の持ち主だと考えるより「爆弾魔」だと考える方が自然だろう。

「で、一体全体、あんた達が、どう云う意図で何をやったか、洗いざらい白状ゲロしてもらっていいかな?」

「話してもいいか……?」

 荒木田さんの問いにうなづくあたしと勇気。

 そして、荒木田さんは、これまでの経緯を話した。ただし、一部脚色有り。あたし達の「能力ちから」については「爆弾」と云う事にした。個人情報も既にバレている勇気の身元以外は極秘。

「何か隠してる事有るだろ?」

「黙秘する」

「ここは警察で、お前らは弁護士を呼べて、私達が無茶をやれば検事か裁判所からクレームが来るとでも思ってるのか?」

「身体検査が甘いな……。はい、紹介しよう。私達の担当弁護士のスタン・ガンさんだ」

 荒木田さんの手にはは、キーホルダーが握られていた。……いや、一見、百均でも売ってそうなLEDライト付のキーホルダーの少し大きめのヤツだけど……。

「だから、イキがって何の意味が有る? それが本当にLEDライトに偽装したスタンガンだとしても、その大きさでは、一発使えば電池切れで、しかも威力は小さい。ついでに本当に使う気が有るなら、何故、わざわざ見せた?……どうやら、本物の馬鹿か、さもなくば、こっちが想像も付かない隠し玉が有るかのどっちかのようだな……」

 そう言って、その「総帥グランド・マスター」だか「お山の大将」だかはTVのリモコンらしきものを操作した。

 大型モニタには「島」内向けのケーブルTVのニュース専門チャンネルが映った。

「『九段』地区で起きた爆破テロは依然として犯人は不明。目的も不明です。『九段』地区の自警団の発表では、『魔法』『超能力者』系の異能力によるものでないと見られており、爆弾を使用したらしいものの、爆薬や部品の種類・入手先などは不明です。これを受けて、明日より、『有楽町』の港では手荷物や車の貨物の検査が行なわれる事になりました。また、犯人のものらしきトラックに『秋葉原』の自警団のマークが有ったとの情報も有りますが、『秋葉原』の自警団は、これを否定しています」

 TVのアナウンサーはそう説明していた。

「と言う訳で、今や、お前らは、この『島』の台風の目、生きたお宝マクガフィンだ。お前らが、ただのイキがった馬鹿だとしても、『靖国神社』の関係者や、『靖国神社』に恩を売りたい誰かに『爆弾魔』だとバレれば、どうなるか判ってるよな?」

「そして、たまたま、『九段』に潜入してたここの下っ端が、私達を追っていたネズミに憑依してた式神だか何だかの気配を感知して……結果的に私達を見付けた訳か……」

「そう言う事だ。とは言え、助けてやったはいいが、私達にとっても、あんた達は扱いに困る。慈善事業じゃないんで、当然ながら、その坊主の弟や妹を取り戻す事はしない。しかし、『靖国神社』にあんた達を引き渡す気は無いし、かと言って、このまま、あんた達を自由にする気も無い」

「あんた達にとって、私達をどう利用すべきかは……今後の状況次第って事か……」

「判ってるじゃないか。なので、解放はするが……監視は付けさせてもらう」

 そして、「魔導師」の1人が立上る。あたし達を、ここまで連れて来た人だ。しかし、手には……「魔導師」らしからぬ玩具おもちゃの銃器のようなナニか……。

「小僧……動くなよ」

「えっ?」

 その男は勇気の後に立って、片手で勇気の頭を押さえ、もう片方の手で、勇気の首筋に「玩具おもちゃの銃器」の「銃口」を近付ける。

 そして、その「銃口」は何かを探しているように動き……続いて「玩具おもちゃの銃器」から電子音。男は「引き金」を引いた。

「いてっ‼」

「終りました」

「何の……呪いだ?」

「『魔法』じゃない……科学技術の産物だ……。その小僧の首筋に小型GPSを埋め込んだ。一週間は動作し続ける。言っておくが、頚動脈のすぐそばなんで、素人が下手に取り出そうとしたら……ちょっと手元が狂っただけで面白い事になるぞ」

「やれやれ……で、あの子供達はどうする?」

「ほとぼりが冷めたら、こっちで家族を探すか……『本土』の児童養護施設に送る。確か……佐賀の鳥栖だったかに……良心的な所が有るみたいなんでな。ああ、そうだ……1つだけ良い事を教えてやる……。『靖国神社』が攫った子供を『島』外に『出荷』する時は……通常、『九段』の小型港から、漁船を装った船を使う。流石に奴らでも、普通のフェリーに攫った子供を満載したトラックを乗せたりはしない。……貨物検査が有る時は特にな……」

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