第7話

「そうだった、思い出した。初めてこの仕事は慣れてはいけないものだったと思った日。あのおばあさんがきっかけだった」


 きっかけは、とても些細なことかもしれないけど。人の死から学ぶなんて、本当に世間様から思われている通りの残忍な学び方かもしれないけれど。

 確かに、死神さんに人の命は尊いものだという考えを植え付けた。


「……さて、過去ばかりに浸っていないで今日の仕事へ向かうとするか。今日の人数はーっと……二人か。」


 それから、気持ちを切り替えるために、真夜中独特の鋭く尖った、少し冷たい空気をひゅっと吸い込んだ。


「よし、行こう」


 魂というのは、肉体から離れてから一日は死んだ場所の近くにただよっている。一人目は、病院で亡くなったらしい。病院は一番回収しに行く場所だ。


 「もうお年寄りだったのか。幸せな人生であったならいいな」


 死が身近な死神さんたちとて、決して全員が慣れる、なんていうことはない。過去の死神さんは慣れていた……というよりは、作業化していたのだが。

 一人一人感情を持っているから向き不向きもある。現に死神さんの友達はこの間、精神的にきつくなった、と言って長期休暇をもらっていた。

 仕事は辞めることはできない。


 死神としてこの世界に存在してから、少なくとも一世紀以上は離れられないのだ。この仕事―――もとい、運命から。


 小さい小瓶に魂を入れて、かばんのなかに入れる。これで魂の回収は完了。

 簡単で楽そうに見えるが、魂の思いも伝わってきて、精神的に辛くなることも結構ある。


「あまり辛い過去ではありませんように」


そう願いながら、魂を瓶に入れようとする。

すると映画のように、セピア色の人生の一部が映し出される。





――――――て。

―――――おきて。


―――――――――ねえ、おきて。

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