第5話

 その日の真夜中、死神さんは、本来の仕事である魂の回収にむかっているときに、考えていた。

 自分が、人の命を救いたいと思ったきっかけは何によってなのか、ということを。

 そのきっかけができる前は『一般的な死神』として仕事しかしていなかったはずで。

 確か、冬の、雪がたくさん降っていた夜だった。



「あぁ~、今日もこの仕事………ニンゲンの魂の回収なんていう仕事、慣れてきてはいるけど単純に疲れる」

 一人で愚痴を吐きながら、回収場所に向かう。

「今日は……一人だけか。しかもおばあさん。そんなに長生きできれば幸せだっただろうな」

 表に書いてある、プロフィールを一瞥しながらに言う。

 と、そんなこんなで目的地に着いた。普通の、変わり映えしない一軒家。

「お邪魔します」

 一応、挨拶はしておく。見えていないとはいえ、他人の家に入るのだ。


 寝室に入ると、回収する魂の所有者――おばあさんと、おじいさんがいた。

「……お疲れ様、でした。おやすみ」

 そう、一応労いの言葉をかけてから魂をもらう。


 魂というのは、基本的にふわふわとしていて白くて、綿あめのような見た目だ。それぞれに色がついていて十人十色なわけではない。もちろん、ニンゲンは見ることが出来るわけでも、触ることが出来るわけでもない。

 ただ、時々灰を被ったように黒くなっている魂もある。それは穢れている魂の証拠だ。

 そういう魂は、早く回収してやらないと、世間一般で言われている不運な事故を引き起こす原因にもなってしまう。

 死神さんたちは、死んだ生き物の魂をちゃんと運んでいる。運ばないと彼らに見つけてもらうまで、海月のようにふわふわと漂って、魂が穢れて天国に行けなくなってしまう。

 そのような理由があって死神さんたちは存在しているのだ。

 特に、自殺願望のあるニンゲンの魂は穢れやすい。だから、早く死んでもらうように仕向けて、早いうちに回収しているのだ。傍から見たら残酷で力任せかもしれないが、仕方ない、と大方の死神たちは思っている。

 自分たちの酷評を代償に、世の中の安定を保たせている、というなんともダークヒーロー感満載のことをやっているのだ。




――――――ふわっとした感触が、魂切り取り用の鎌から伝わってきた。

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