第3話 僕と彼女の召喚恋愛が始まる

 不思議なカードによって異世界へ召喚された僕。状況が飲み込めないまま、僕と僕を召喚した美少女チヒロさんの前に巨大な虎が現れた。


 ウガォー!


 虎が大きく吠える。僕の膝はガクガク震えている。一方、チヒロさんは


「あわわわわわわわわ」


 腰を抜かして、餌を食べる鯉のように口をパクパクさせていた。


「さっき失敗したやつが今頃出てきたみたいだね」

「お、お師匠様……」


 チヒロさんの側にいる老婆だけが冷静に状況を把握しているようだ。


「でも、暴走してるみたいだね」


 虎の目が異常に血走っている。次の瞬間、虎がチヒロさんに飛びかかってきた。


「危ない!」


 僕はいつの間にかチヒロさんと虎の間に立っていた。虎の大きな口が眼前に迫る。


 グシャ!


 虎の牙が僕の身体を貫いた……はずだった。しかし、不思議と痛みは感じられない。目を開けると、僕の目の前で牙をなくした虎が倒れていた。


「すごい、すごいよ、鬼くんの鎧!」


 後ろのチヒロさんの声が弾んで聞こえる。どうやら僕の身につけた鎧が虎の牙を砕いたようだ。


「グロロロ……」


 虎は力なく唸ると、一瞬黒く光り、そのまま消えてしまった。虎がいたところには1枚のカードが置かれていた。僕はカードを拾い上げる。


「それは召喚カードよ、あなたもカードから召喚されたの」


 チヒロさんは僕の手からカードを奪い取った。なぜかチヒロさんは僕の前でうつむいている。


「さ、さっきは助けてくれてありがとう……」


 チヒロさんの声が少し小さい。


「でも、召喚獣ならマスターを守って当然だからね!」


 チヒロさんが急に大きな声をあげたので、僕は目を丸くしてしまった。すると僕の身体が光り始めた。お師匠様が口を開く。


「ホッホッホ、どうやら時間切れのようじゃな」

「えー?もう?」


 チヒロさんは口を尖らせている。残念がってるみたいだ。僕の周りの光が徐々に強く光りだす。


「またねー!」


 チヒロさんが大きく手を振る。あまりの光に一瞬目をつむると、元のカードショップに戻っていた。古びたカードは金色に輝いていた。


「これいくらですか?」


 僕は金色のカードを買うことにした。1,500円だった。


 家に帰って、部屋でカードを眺めながら、夢のような出来事を思い返していた。


『異世界に召喚されたなんて本当だったのかな?もしや白昼夢?』


 すると、頭の中から少女の声が聞こえてきた。


『汝、我が求めに応じ現れたまえ… …』


 カードが光りだす。


『出でよ!』


 まばゆいほどカードが光った瞬間、僕は木の壁に囲まれた部屋にいた。目の前には見覚えのある少女と老女がいた。


「や、お久しぶり!といっても数時間しか経ってないけどね」


 チヒロさんがピースサインをする。僕は頰をつねる。やはり夢ではないようだ。


「ところで何のようですか?」

「鬼くんの名前が決まったから召喚したのよ、あなたの名前は……」


 僕は慌てて両手を振る。


「ちょっと! 僕の名前はハルアキ、安倍ハルアキって言うんだけど」

「え?名前あるの?」


 チヒロさんの大きな目がさらに大きくなった。チヒロさんがため息をつく。


「そっか、名前あったんだ…… ハルアキね、まあまあいい名前ね」

「フォフォフォ、チヒロ残念じゃったな」

「お師匠様!」


 チヒロさんが口を尖らせる。その姿を見た僕の胸の音が高鳴った。


「じゃあ、よろしくね、ハルアキ!」

「よろしくお願いします」


 僕は深々と頭を下げた。すると、僕の身体が光り始める。


「また明日ね!」


 チヒロさんとお師匠様が手を振る。強い光で目をつむった次の瞬間、僕は部屋に戻っていた。


「疲れた……」


 僕はそのまま深い眠りについた。次の日から日に何度も召喚される忙しい毎日を送ることも知らずに。

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