ねこ

第16回書き出し祭り用(一話目だけ公開して、匿名で競う企画です)に書いた作品で、現時点で二話目の予定はありません。ご注意ください。

最後に簡単にその後が書いてあります。

近未来コメディです。


四つの会場に分れて全100作なんですが、会場で3位、総合13位でした。

なかなか良きな結果で、満足です(*^_^*)



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 時は三十世紀。ある時期を境に、動物病院にネコの患者が急増した。

 それは日に日に増していき、待合室にはハムスターすら入る余地がない程、膨れ上がった。医師たちは懸命に治療を施したが、落命するネコが後を絶たない。

 原因が掴めぬままにネコの数はどんどん減少し、恐ろしい病に全てのネコ好きが恐れおののいていた。

 にゃんにゃんと鳴きながら衰弱する様子から、この病はこう呼ばれるようになった。


『ネコにゃんにゃん病』


 にゃんにゃんウィルスは致死率が八割に及び、感染力も強いが、ネコ以外は発症しない。

 ネコの数は千分の一を切り、ついには路上で見かけなくなるまでに減っていく。

 ネコは希少種となりつつあった。ネコの誘拐事件も後を絶たず、飼いネコを守ろうと飼い主は必死になっていた。

 

 日々不安を抱えるネコ好きに向け、塀で囲まれて外部から切り離されたネコの楽園、日暮里にっぽりグレイトビレッジが誕生する。コンビニもレストランもホームセンターもスーパーも入居した、外に出ずとも暮らせるビルだ。

 コの字型のビルの中庭には巨大キャットタワーが立ち、ネコ専用の病院を初めとしたネコ施設が併設されている。一大ネコ都市として脚光を浴び、富裕層がこぞって入居を希望した。

 グレイトビレッジのビルの周囲には農地が広がり、食品工場やごみ処理施設、鋳物、焼き物、ガラス細工職人などが住む職人街、中華街まであり、さながら中世の城と城下町のような様相であった。


 日暮里グレイトビレッジに住むことはネコ好きセレブの証とされ、ビレッジを建設した男は“村長”と呼ばれ、絶大な人気を誇った。

 今やグレイト村長は、ビレッジ内外から支持される存在となった。いずれグレイト村長を担ぎ上げ、日暮里が『州』として独立するのでは、との噂まで囁かれている。


『臨時ニュースです』


 グレイトビリッジの中庭にある、巨大スクリーンに唐突にニュース映像が流れる。スクリーンの前で椅子に座って待機していた人たちが、ざわめいた。

 彼らは午後二時からの村長談話を楽しみにスクリーンの前で陣取っていた、熱狂的な村長支持者達である。ビレッジテレビ(有料)でも視聴できるソレを、巨大スクリーンで仲間と眺める為に毎日集まるのだ。


『連日お伝えしている、“ネコにゃんにゃん病”ついての続報です』


「ネコの病気のワクチンが開発されたか!?」

「一歩でも前進するといいな。ついに隣の家の白ネコが亡くなった……」

「早く治療法まで確立して欲しいわ……、上の階のお宅ではチャトラちゃんが病に伏したばかりでしたもの……」

 ニュースキャスターの言葉を聞き洩らさないよう、雑談しつつもスクリーンに意識を向ける住人たち。キャスターはまず今日の感染状況をアナウンスしてから原稿をめくり、ニュースを続けた。


『にゃんにゃんウィルス抗体の分析を勧める為、抗体を持つとされるケット・シーが住む王国の捜索を、CLUねこらぶゆにおんが全会一致で可決しました』


 ケット・シーとは、伝説のネコ妖精。見た目は普通のネコだが、人間の言葉を発し二本足で移動する。世界で数匹しか確認されていない、貴重なネコだ。人語もネコ語も解すので、ネコ語の通訳としても貴重な存在である。

「ついにケット・シーの王国を探すのか!」

「我らの楽園への道は示されるのか」

 ネコ好きが集まるこのビレッジ内において、そのしらせはまさに福音であった。

 CLUは全世界にまたがるネコを愛する者の集まりで、創始者は教祖と呼ばれ崇められている。別名ネコ教と呼ばれ、急激に人口を増やしている宗教としても挙げられる。


『さて、ネコの避難場所として昨今注目を浴びている、パプアニューギニアにある研究施設と中継が繋がっています。ネコタさーん』


『はーい、ネコタですニャ! こちらネコたちがようりょう……ようりょう……、療養している、ネコ研究所のネコネコ施設です。ネコネコ施設には今日もネコがいっぱいいっぱいです。明日は煮干しが降るでしょう』


 ビレッジテレビの特派員を務める、ケット・シーのネコタ。

 彼は普通の薄茶色のネコに見えて、実はケット・シーなのだ。今やビレッジテレビ一番人気のキャスターだ。彼の雄姿をリアルタイムで見たいが為に、ビレッジテレビと契約している世帯も多い。

 ちなみに誘拐の恐れがあるので、ファンのマッチョチームが自主的に手弁当で護衛をしている。

 ネコタ動画は、再生数百億を誇る。彼を売り出したビレッジ村長の手腕は、とても評価されている。元々ネコタは村長の飼っていたネコ。ついうっかり喋って、シーバレ(ケット・シーだとバレること)をしてしまったのだ。

 その後せっかくなので、就職してアナウンサーをしている。


『ケット・シーの王国を探すことになりましたが、そのことについて、現役ケット・シーであるネコタ特派員は、どう思われますか?』


『はいニャ。ボクは外で生まれて外で育ったんで、王国の場所も他のケット・シーも知らないニャ。でも、イギリスとジャパン、それからコートジボワールにもあると母から聞いたことあるですニャ』

 ネコタの母親は純血のケット・シーだった。普通のネコである父と結婚し、ネコタが生まれた。今確認されているケット・シーはみんな、二世や三世になっている。誰も王国の場所を知らない。

 彼女が存命であったなら、ケット・シーの王国への大きな手掛かりを掴めただろう。


『ありがとございます。では、施設のネコたちの様子はどうですか』


『聞いてみますニャ! ニャン、ニャニャン、みゃあ』

 丸まっている黒いネコに、慣れた様子でマイクを向けるネコタ。

『フシャア、ニャア、ブニャ』

『……具合が悪いから寝てるに決まってんだろうが。静かにしてろ、俺はご主人と離れて気が立ってるんだ……、だそうですニャ。ネコタ、怒られました……』

 ネコタの耳はシュンとした。


 いくつかのやり取りを経て、中継は終了した。そして十五分遅れで、村長談話が始まった。

『ネコ好きの同胞よ、王国への最初の一歩が踏み出された!』

 わああああぁ、と割れんばかりの歓声が響き渡った。

 満場総立ちになり、額の高さで惜しみない拍手を送っている。村長の一言が放たれると毎回スタンディングオベーションが起きるので、村長は五秒ほど沈黙してから談話を始める。

 今回は日本にあるケット・シーの王国の捜索を支援しよう、という熱いメッセージが届けられた。加えてネコ缶の保管庫を一ヘクタールから五ヘクタールに増やす、という決意も語られた。


 ケット・シーの王国。それはいにしえの時代から語り継がれているのに、人間は誰一人として足を踏み入れたことがない未知の世界。前人未到の領域だ。

 その王国を本格的に探そうと決まったきっかけは、パナマ在住のケット・シーの証言だった。パナマ運河を通行する巨大船籍を眺めることが趣味の彼女いわく、


『人間は王国の隣を歩いても分からないけど、悪魔なら見抜けるはずよ。古来よりネコは、悪魔と人間を仲介したりしていたの。実はケットシー感知に関しても、悪魔はキツネ以上なのよ』

 とのこと。


 ケット・シーの王国は探す手段がないと、なかば諦められていた。悪魔が発見できるという新事実に、世界中に衝撃が走る。

 この貴重な証言を元に、CLUが主体となり悪魔召喚が試された。

 実体を持たない悪魔を人形やロボットなどの依代よりしろに憑依させる実験が続くが、上手く依代を動かせなかったり、五感が働かなかったりして、実験は難航していた。

 そこで新たに開発されたのが、悪魔憑依用アンドロイド『ヨリシロ』。

 アンドロイド本体ではなく、アンドロイドの中枢たるAIに悪魔を憑依させる実験が始まった。

 この実験はビレッジテレビが独占配信する。ビレッジテレビの契約数は、また一気に増える結果となった。


 夕方四時から開始される配信に、多くのネコ好きと悪魔好きがかぶりついた。

 四面がガラス張りの小さな部屋には、ヨリシロと召喚をする者だけが入っている。ヨリシロの下には不可思議な文字と五芒星模様が描かれ、依頼を受けたサタン教会ジャパン支部の神父、洗礼名ジュゼッペが召喚を担当した。

 彼は別名『空飛ぶ神父』と呼ばれているが、実際に飛べるかは不明。


 香を焚き祈りを捧げて儀式をおごそかに続けるものの、変化はなかなか起きない。

 何度も祝詞のりとを唱えていると、ヒュウッと冷たい風が吹いた。ジュゼッペ神父の祭服と首に掛けたストラという帯が揺れる。

 見守る関係者も、ビクリと震えて息を吞む。


「悪魔よ、肉体を持たぬ者よ、速やかに姿を現せ!」

『……ググ……これは、なかなか、いいボディだな……』

 ヨリシロが低い声を発した。指がギギギとゆっくり動き、まばたきをしてから目を移動させ、視線を動かす。

 ついにりつくことに成功したのだ。


「名は、名を名乗るんだ!」

『急ぎなさんな。……さて、生贄いけにえを用意してあるかい?』

 悪魔の不穏な発言に、周囲が息を飲む。人間を生贄として提供するのは、禁止されている。

「橋を建設して、一番に渡った者の魂でどうだ」

『大昔の詐欺の手口だ。それで犬を渡らせるんだろ?』

「正解だ。ともにケット・シーの王国を探そうぜ」

『会話が通じてないぞ』


 誤魔化しも効かない。軽口を叩きながらも、ジュゼッペはひどく緊張して冷や汗をかき、息を呑んだ。

 この交渉を、成功させねばならない。

 ネコの病を撲滅する為に。自分の身の安全の為に。

 そして成功報酬を得て、借金を返済する為に!



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



悪魔との契約は、CLUの幹部百人の寿命半年ずつで契約できました。

悪魔が「おい、いいのかよ。同意がないと寿命はもらえない決まりだ」と心配しますが、「おねこ様のためになるなら、本望だ~! 半年だけなんて少なすぎる!!!」と、逆に怒られます。


ジュゼッペはサタン教会の「己に素直に生きよ」という教義に従ってギャンブルで借金をし、返してはまたギャンブルで使い切ります。エンドレス。


王国を探す際の交通費を請求しておいて、飛んだりフライング自転車で移動し、交通費を浮かせるというセコい手段を使ったりしています。


ケットシーの王国は見つかり、実は王国では住ケットシーが増え過ぎていたので、日暮里グレイトビレッジに一部が移住し、第二の王国を作ります。

そんなにゃんにゃんで病も収まります。


ちなみに近年は人間の世界に渡航禁止だったため、人間の世界には純血ケットシーがいませんでした。理由は、人間に全てやらせる生活が快適すぎて、王国に帰って来なくなるからです。


ネコタはキャスターとしてテキトーなことを言ったりしますが、ファンが「お告げが降りた!」と再現するので、必ず当たります。煮干しも降るよ!


「シーバレ」はケットシー用語で、うっかり喋ってバレたことで、馬鹿にされます。

自分からバラすのは「シーカム」(ケットシーカミングアウト)といいます。なんだこれ。


最後はCLUの一本締めで。

ねこにゃん、ねこにゃん、ねこにゃんにゃん!!!(にゃんにゃん病を克服するという、決意が込められている)

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短編集 神泉せい @niyaz

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