【調理】告白のチョコレートドーム

【依頼人】

鳥人と人間の亜人



ここ、人肉を扱うとは聞いているけれど、チョコレートも扱えるのよね。意外。

ちゃんと、オーダーのようにしてくれると良いけれど。チョコレートにはしていたけれど、勿論中の肉にはちゃんと合うようにブレンドして欲しいわ。


そのスパイスは肉桂……柑橘も良いけれど、勿論、私が食べられるようにしてくれているよね? この手だもの、口で啄むしか出来ないのだから、そのくらいの気遣いはあって当然よ。

そしてメインディッシュに……あの人の手も、忘れてなければいいわ。

チョコレートに会うとしたら、精々燻製かローストだろうし……この大きさだと、手首から先までかしら。それでも肉の好き嫌いはないから安心して。

食べ方は見苦しくなるでしょうが、そこに手さえあれば良いのだから。「人間の凶行」その印であるそれを、私の腹の中に収めればそれで良いのだから。


……そう、それで、お母様達は満足して頂けるわ。私は、そうね、少し別の理由だけれど……それはどうでもいいわ。

鳥人は、その生息地と見目から多くの生物に命を狙われているとご存知かしら。私は、母や父の代はかなりマシだった方だけれど、それでも、他と比べて集団意識も縄張りも強いわ。

亜人だから、というのもあるかしら。鳥としては狩る者として敵と見なされ、人間として狩られるものとして敵に追われる。集団意識が強かった分、自らのあり方をどう示すかを考えるのも自然よ。

それで、曾祖母様は今のお父様に手を切り落とすことを命じた。それが「仲間入り」の印よ。


お父様は人間。だから、狩る者としてある手は不浄で野蛮なものとされているの。そうして、お父様はその約束を守って……私の代に至るわ。

私の彼も例外はないけれど……少し、先進的な方だった、と言うべきかしら。彼は私に対して二人で逃げよう等と仰っていました。

とは言っても、おかしな話ですわ。私達は自らを守る為に過ぎない。お祖母様だってお父様を嫌っていた訳ではなく、信頼の証としてお父様の目の前で鉈を差し出したのです。

だから、おかしいことはこれっぽちもなかったのに、彼は首を横に振りました。

腕を切り落とすのが怖かったでしょうか。

それも首を振って、ただここから逃げよう……と言うのです。いつもはあれほど優しかったのに、急に態度を変えて、私の羽を鷲掴んで……怖くて、そのまま逃げてしまいました。

その後のお話は、大祖母様から教えてくださいました。皆で始末はしたと。


曰く、彼は私を唆して人売りに出そうとしていたと。

確かに、その数日前に彼がどこかよそよそしかったのはあります。そして私が血相を変えて逃げ込んだ時に、お祖母様がそう合点がいったと。

始末したと言いましたが、その時は夜で、仮に手練たお母様でも腐心したことです。致命傷を残していた、が正しいのでしょう。彼が本当に息絶えているか、近くの茂みに足運び、そして……伝書鳩を使い、あなた方に彼を預けて、今に至ります。彼がどんな姿かは、分からない。ただ持ち上げた時に思ったより軽かった、まるで手だけを掴んでいた、ような感触でした。死後硬直でしょうか、何か持っていた物を懐に押さえたまま。手首だけが、彼の重さでしたわ。

だから、あの日何を持っていたのかは分かりませんが……まあどうでもいいことでございます。

私が貴方に依頼したのは、彼の償いを示す為にあります。人売りは確かに行われていても、お祖母様から反対された相手であっても、私の風習を疎んじていても…お父様が手を差し出したように、彼の手も然りです。


だからチョコレートドーム、そろそろ溶かしてくださいますかしら。

しかし、これもいいですわね。どんな形でお迎えなさるのか。大祖母様は体調でお休みになされたけれど、この溶かして中が見えるさまを一緒に見たかったわ。


……何故、この日に予約をしたかですって?それは――



──人の指輪なんて、私には嵌められないと言うのに。


【完】

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