警官の声 1

 すぐに救急車と警察への通報がなされ彼の身体は綱から降ろされ、

 横たわらせられた。


 保険医も呼ばれたがあまりの異常な身体に保険医は止血しかできず

 身体が冷たく遺体に変わりゆくのを見届けるだけだった。

 救急車が来たのは遺体から温かい血が湧き出し終えてからだった。

 身体の先々が白く冷たくなってからだった。

 救急隊は静かに丁寧にそしてゆっくりと遺体を乗せ走り去っていった。


残ったのは綱とそこかしこに散った血、そして青ざめながらも生徒を動かす教師。

そして事情を知った静かなる警官たちであった。


「全く、こんな出勤直後から面倒事起こすなって話ですよ。

死ぬくらいなら家に引きこもるなり、保健室登校するとかあるでしょうよ。」

 若い警官が文句を隣の警官に言う。

教師は急ぎ生徒を体育館へ移動させ、

警官だけが血の跡と独特の臭いの残る教室で残って実況見分をしていた。


若い警官が軽口を叩く、

「円堂さん、いじめが原因とかいってるけど、やり返せばいい話じゃないですか。

 俺が子供の頃はやり返したりしましたけどね。

 そうすりゃ、相手だって何もしなくなりますよ。

 最近の子供は弱いんすよね。だから、こんな面倒な事を起こすんですよ。

 ほんっとめ~わくすよ。」


若い警官は朝からのごたごたが気に入らないのか文句を続ける。

「おい、高田。誰が弱いって。

 お前よくも死人に鞭打つようなことを平然と言えるな。

 お前だって先輩の吉田にパワハラされたとか言ってたよな。

 人事に文句言ってやるって喚いてたじゃねぇか。

 心配させない為に。これ以上に悪化しないよう我慢しつくして限界まで耐えた子

 よく弱いって言えるな。」


円堂と呼ばれた警官ががすぐ怒鳴りつけ、一息吸うと静かな声で

「下らん事を言う前に黙って仕事しろ。いいな、二度言わせんじゃねぇ。

 黙々と自分の仕事を実行しろ。」

それっきり、円堂は黙り込んで作業を続行し始めた。



「はい、分かりましたよ。は~はいはい。たく、まじにならんでもな。」

高田はぶつくさ言いながら教室の調査に戻る。


その日は、学生たちへの軽い聞き込み・教師たちへの調査・実況見分で終わった。

高田は署に戻ると報告書を書いていた。

「おい、高田お疲れさん。

今朝は人がいなかったから行かせたが円堂さんは大丈夫だったか。」

小柄な係長が声を掛けてきた。

「へ、お疲れ様です徳さん。いや、聞いてくださいよ。

 いつもならあの人軽口も聞き流すダンマリな癖して今朝軽口をちょっとだけ言った

 らいきなり怒鳴られたんすよ。しかも、終始ぴりぴりしてて。

 なんか俺、気に障るような事を言ったかな。」

「あ~、そうか。こりゃ、謝らないとだな。

 何言ったかちょっと思い出してみな。」

今朝の話を一通り話を得ると

「あ~、ん~。うん。

 お前が不謹慎な事を言ったのは分かるよな。それはお前が悪い。

 今日は特に伸びるような仕事無いよな。

 俺が奢ってやるから付いて来い。

 説教してやる。円堂には俺が機嫌を直してやるように言っといてやっからさ。

 明日は俺が行くが円堂と行くようなこともあるかもしれんからな。」


「あ~はい、すいませんでした。以後気を付けます。説教は勘弁してほしいです。」

「程々の説教だからそう、肩を張るな。ただ、いろいろ事情を知っておけ。な。

 情報伝達だと思えばいい。な。」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る