第19話 みんなでこっそりナザリック計画


  話はナザリック地下大墳墓の…とある一室から始まる。



「おはようございます、アインズ様…本日はワタクシ、セヴェーネがアインズ様当番となります。どうぞよろしくお願いします。」


「あぁ…そうか、シクススの次なのだから、次はセヴェーネが当番となるのであったな、うむ、朝早くから大変だろうが、頼んだぞ。」


「はい、アインズさまの1日が滞りなく進みますよう、微力ながら全力を尽くしたいと思います。エイトエッジアサシンともども、御身の傍で奉仕させていただける栄誉、身に余る光栄でございます。」


「あ…あぁ…うむ、頼んだぞ?」

 そう言っていつもの支配者らしい座り方で執務用の椅子に腰かける。

(いつもそうだけど、いい加減、もう少し砕けて接してくれてもいいんだけどな~…表情は素直に浮かべてくれる子や、言葉も少し柔らかくなったくれる子もいるけど、徹底してる子は徹底してるんだよな~…、特にヘロヘロさんが大きく関わったメイド達…あの人の「社畜属性」を大きく引き継いでるんじゃないだろうか…?とすら邪推してしまう。)


「まぁ、お前たちもそんなにかしこまらなくてもいいんだぞ? ここ10階層にまで攻めて来られる者など、この世界には恐らく居ないだろうからな…まぁ警戒は決して悪いことではないんだぞ? だがあまり肩ひじ張ると疲れるだろう?」


「いいえ!絶対者たるアインズ様の当番として、本日1日を補佐させていただくという光栄な日、一瞬たりとも気を抜くなどできません。」


 そんなに力入れてると疲れるだろうという思いから、少し肩の力をぬけば?という意味の言葉をいうアインズだが、「忠誠」という文字の前には無力だったようだ。


(それぞれ、特色がちがうのか?それとも『ク・ドゥ・グラース製メイド』、『ヘロヘロ製メイド』『ホワイトブリム製メイド』っていう種別でカテゴリ分けでもされてるのか?)


 などと思っていると「コンコン」と扉をノックする音がする…セヴェーネに合図を出し、扉を開けるように促し…中に招き入れる。


「おはようございます、アインズ様、本日もまばゆいばかりのお召し物、まさにこの世の頂点にふさわしい装いかと…」

 …入ってきたのは守護者統括のアルベドが謹慎中のため、その代理を頼むことになった赤いスーツに眼鏡姿の悪魔、デミウルゴスである…


「あぁ、デミウルゴスか…すまないな、アルベドの代理に、牧場管理、スクロールの作成、その他もろもろ、結局お前頼りだ…」


「いえ、アインズ様、このデミウルゴス!この身のある限り、至高なる御方、アインズ様のために働けることこそ至上の喜び…その深い叡智には及ぶべくもありませんが…あらゆる状況において己の全てでアインズ様の一助になれる。それこそが私ども、守護者たる者の務めでございます。いついかなる時でもご遠慮なくお命じください、どのようなことでもこなしてご覧に入れましょう。」


「そうか、その忠義の姿勢、どの守護者達よりも…いや、どの守護者にも劣らぬものだろう…嬉しく思うぞデミウルゴス。」

(こいつも、もう少しオレへのハードル、少し下げてくれないかな?…そんな深い叡智とか無いのに…たまたまが重なってるだけだよ…)


「おぉ…些少なこの身にそのようなご温情溢れるお言葉、身に余る光栄にございます。」

 そう言ってわずかにヒザを曲げ、上体を倒して優雅な礼の姿勢をとる。

(デミウルゴスはさらっとした所作も嫌味がなく様になってるよな…『あの愚息』となんでこんなに違うんだろう…いや、アイツを作ったのはオレなんだけどさ!)


「うむ…まぁ朝の挨拶はこの辺にしておこう、ところで先日話した招待客の件はどうなっている?ンフィーレアの時とそう変わらない待遇でよいと言ったはずだが、なにか不測の事態でも起こってはいないか?」


「いえ、アインズ様、その件に関しては何の支障もありません、滞りなく準備は進んでおりますので…お気遣い感謝いたします。」


「まぁ…うん、そうだ、先日の件と言えば、デミウルゴスは昨夜は牧場の方に居たのか?それともスクロールの皮をなめす方か?」

(どうか、昨夜はナザリックに居ましたとか言われませんように…)


「いえ…昨夜は、色々と準備などがございまして…例の不届き者どもをナザリックにおびき寄せるという私のプランの詰めの部分を調整するためにナザリックに居りました、こればかりは他の者には任せられませんので…」

(う…頭を下げながらだけど、メガネの奥の宝石が微妙に光った気がしたぞ…)


「そ…そうか、昨夜はナザリックに居たのか…では、もちろん「あのこと」には気づいていような?」

(お願い『申しわけありません、至らぬワタクシでは…』とか言ってくれ!)


「ハイ、もちろんでございます…あの時わずかな時間ながら感じた強大な気配のことでございますね?」

(うわぁぁぁ、やっぱり気づかれてたよ、どうする?どうするよオレ!)


「あの時はデミウルゴスにも心配をかけたな、なにかあった時の為にと我が部屋の前には2人、護衛は居たので何事もなく今回の件は終息したのだ…部屋の中にはエイトエッジ・アサシン達もいたからな…まぁその事を言っておこうと思ってのことだ」


「そのことについてなのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ん?どうかしたか?デミウルゴス…」

(やめてくれよ? 答えに困るようなこと聞かないで欲しいんだけどぉ?)


「お部屋の前にコキュートスとセバスを護衛として置かれたことに関しては適任だというのはわかります、ですが…なぜ私には一言も教えていただけなかったのです? アインズ様にもしものことがあったら…と、気が気ではありませんでした…」

(気の毒になるくらいに、うなだれてるよ…そんな気にすることないのになぁ~…)


「あぁ、デミウルゴスには心配をかけてすまなかったと思っている。しかしだ…今後において、昨夜会談を開いた者とは、同盟関係になれるやもしれんという可能性があるのだ…向こうも一人で来ている以上、多人数で威圧するような真似をして相手の機嫌を損ねたくはなかったのだ…」

(精一杯の言い訳だけど、これで大丈夫かな? ちゃんと通じてくれるか?)


「1人…とおっしゃいましたか? たった1人で、あのような強大な…離れていようと、嫌が応でもこの身に感じてしまうほどの…圧倒的なまでの気配…危険ではないのですか? その者は何者なのです?」


「あぁ…彼はな…そうだな、敢えて言うなら…デミウルゴスは王国の黄金は知っていたな?」


 急な話の転換に一瞬、返事がぎこちなくなりながらもデミウルゴスはすぐに返答を返す。


「えぇ…ハイ、セバスの調査書にあり、私が興味を持った…今となってはある意味においては協力関係と言ってもいい形となったあの『黄金』のことでございましょうか?」


「あぁ、その『黄金』で間違いない、デミウルゴスの言うにはアレは、人の姿を持ちながら「精神が異形化」していると言っていいほどの興味深い者だったという事だが…」


「は…はい、左様にございます」



「昨晩、私が会った彼はな…その黄金とはまた違った意味での『異形種』だ…見た目こそ人間だが、その内面は紛うことなき異業種…、敢えて言うならば「人の皮をかぶった異形種」と言ってもいいだろう。それが彼を表すのにより近い表現な訳だが、その本質は…私と同様、もしくはそれに近いと言ってもいい」



「まさか…至高の存在であらせられるアインズ様と同等…その可能性があるとおっしゃるのですか?」


「あぁ、そうだ、しかしこのことはデミウルゴスだから話したのだ、この件は他言無用だ!! わかったな、デミウルゴス…これは命令だ!!」


「は!!!…しかし、この件はコキュートスもセバスも、護衛をしていた以上、知っているのでは?」


「その心配は無用だ、なにしろ護衛として呼んだ際「何が起きようと絶対に扉を開けてはならん!中の様子に関しても一切詮索はするな!」と厳命しておいたからな、中の様子は気にはなっていただろうが、それ以上は知ろうとしなかったはずだ。

(部屋から出て、護りとして立っていた二人を開放する時にも、今夜のことは他言無用だぞ!って念を押しといたしな。)


「同様に、アルベドにも話すのではないぞ? あれは今、謹慎中だ…その罰を与えている最中にナザリック内のわずかな情報なども与えてしまっては何のための『罰』だかわからなくなってしまうからな…皆があの気配に気づくようなら、恐らくアルベドも、すでに気づいては居るだろうが…」

(だからお願い、デミウルゴス、これ以上なにも聞かないでくれ! これはベルリバーさん主催のサプライズなんだから!!)


「アルベドにも秘密とは…つまりは…」

(何かまた深読みを始めようとしているぞ? 違うぞ?違うからな?デミウルゴス…絶対にお前の考えてるようなこと考えてないからな!)


「んん! んぉっほん! あぁぁ…あの者はだな…これからはこちらに決して害を及ぼさないように…という…いわば同盟のような関係を持つことになりそうだ…ということは先程も言った通りだが…今後、この墳墓に来客として来ることもあるかもしれん。 その時はちゃんと歓迎をして迎えるのだ…そう…侵入者に対する「歓迎」という意味じゃないぞ? 『客人待遇』としてだ…わかったな? デミウルゴス!!」



 そこまでアインズに言われたあと、デミウルゴスは、今日の支配者アインズへの書類、仕事などの説明を一通り伝えて、部屋を出る。


 先程聞いた話を総合的に判断し始めたデミウルゴスは…

『同盟者』…『客人として…』、『見た目が人で、人の皮をかぶった内面の異業種』…という単語を再度、噛みしめるように反芻し…「そういうことですか…」とか1人呟いていた。


 そして、このことは支配者アインズへの命令を護るため、ナザリック内で箝口令が敷かれ、その気配のことを知っていようといまいとに関わらず、見ざる、言わざる、聞かざる…を徹底させる事になり、謹慎が解けたアルベドにも一切の情報が漏らされない下地が完成してしまい、誰に聞いても「そんなことなかったですよ? なんですか気配?って?」という感じになってしまう事になるなど、アインズの予想外のことであった。



                ☆☆☆



 そして、ここは場所が変わってジエット邸。

 …仕事から戻ってきたジエットに「あの…ジエット君、2日後に招待された件のことに関してなんだけど…」と言いにくそうにアルシェは言葉を選んで話しかける。


「えっとね?ジエット君、この前さ…水晶玉の鑑定をしてもらったじゃない? 最近その水晶の持ち主だった人と再会できてね、色々お話しできたんだ」


「それは…よかったですね…どんなお話をされたんですか?」

(ちょっと驚いてるみたいだけど、どうしたんだろう? そんな変な話じゃないよね?)


「うん、実はね?最近、その人が最近知り合ったばかりの知人から『水晶玉を鑑定依頼に来た人を自分の館に今度招待することになった』って話を聞いたんだって」


「えぇぇ? つまりそれは私の主のことを話されていたってことになりますよね?」


「そうなの、世間って狭いもんだねって2人でそんな話をしてた…」


「そうかぁ~…偶然とはとても思えないような関わりが生まれていたんですね…」

(なんか深く考え込んでるけど、今、あの話をした方がいいよね。)


「それでね?ジエット君、その人がね? 私の『護衛』って名目にして、その場に同席したいって言ってるの…ムリにとは言わない、とは言ってたけど…」


「えぇぇ…それは、どうなんでしょうか?主の耳にも入れておかなければ失礼に当たりますし…なにより、どこまで親しいのかが不明な状態では…その判断も難しいかと思いますよ…」


「そうだよね…それでね? その人が、自分の身分を証明する物だって言って、こんなものを貸してくれたの…これをジエット君に見てもらいたい…って…」


 そういって、彼から渡された小さな革袋を1つ渡す。


「これは…中を見てもいいってことでしょうか? アルシェさんはこの中は見たんですか?」


「私は見ていないよ?だって『これを見て欲しいのはジエット君だから』って言われたし、私は中を見ないで欲しいとも言われたから…」


「そうですか…それでは失礼して…拝見させてもらいますね…でも私にその人の素性が分かるのでしょうか?」


「ん~~、わからないけど…見てもらえば自分も納得するって…それでダメならムリを言うつもりはないって言ってたよ」


「そうですか…それなら見ない訳にはいきませんね…って…え!! これは!」

(今まで見たことないくらいに驚いてる…どことなく水晶玉を鑑定した瞬間の驚き方に近いかも…そこまでの物が入ってたの? 何の効果もない物って言ってたはずだけど…)


「アルシェさん、これは私個人ではとても判断できることではなくなりました。やはり主に伝えた上で、の返答でその人は納得してくれるでしょうか?」


「うん、それは大丈夫、だって、その日には見送りに来るって言ってたから…その袋の中身はいい返事にしろ、悪い返事にしろ、その時に返してもらえばいいって話だし、返事はその時でいいと思う。」


「そうですか…それはよかったです…さすがに御方に無断で来客の人数を増やすわけにはいかないもので…聞くだけ聞かせてもらいます。」



(御方?? 今まで「あるじ」って言ってたのに…)

「うん、ありがとう…そうしてもらえると、私もダメだったらそう言いやすいから助かる。」


「それじゃ、これは無くさないように大切にしまっておかないと…<小型空間ポケットスペース>」


(ジエット君、魔法学院時代は防御魔法と、香辛料を生み出す魔法くらいだったのに…いろんなの使えるようになったんだなぁ~…)


「さて…と、それじゃ、もうそろそろ僕らも寝ようか?」


「うん、そうね」 座っていた腰を持ち上げて階段を上がっていく。

(クーデもウレイも寝入ってるだろうし、起こさないように潜りに行かないと…)


 …その間、ジエットは<伝言メッセージ>を使って、得た情報を、自らの主に報告をして、これからの指示を仰いでいた。



                ☆☆☆



 翌朝を迎え、いよいよ明日になれば、招待された場所にジエット君と共に訪問しなければいけない。

 そうは思いつつも今日は「歌う林檎亭」に行って、仲間に状況の確認をしに行かなければならない。ヘッケランが無事に今回の遺跡依頼の件に関わる人物と接触できたのか、それを聞いておかなければ…


「それじゃ、おばさま、行ってまいります」


「は~い、アルシェちゃんも気を付けるのよぉ~、いってらっしゃい。」


 いつも明るい声で送り出してくれる、これが本来の家族っていうものなのだろうか…そういう温もりを知らないアルシェにはその心遣いがありがたく、その温もりを妹たちにもちゃんと伝えていきたい。


 そう決意を新たにして、この依頼を最後に引退するつもりでいるアルシェはフォーサイトを締めくくる依頼の詳細を聞きに仲間のもとに、そう時間もかからずたどり着いていた。


「おぉ、早いな、アルシェ!」

「おはようございますアルシェ、いま依頼の件について聞いていたところですよ」

「なんかすっごい太っ腹の雇い主だったみたいよ、前金の方が多いって稀有な案件みたいなの」


 少し不審な想いに囚われ、眉をひそめながらも、内容の詳細を求めるようにアルシェは聞き直す。

「依頼主の件については?」


「あぁ、フェメール伯爵って言ってな? ずいぶんと皇帝陛下から冷遇されてるらしいぜぇ」


「冷遇はされてはいるけど、金銭的には追い詰められていないって話よね…まぁだからあんな値段を提示できるんでしょうけど」


「一体どれくらいの報酬だった?」


「あぁ…すげぇぜ? 前金で200、そんで、後に150だ!」


「そ…それは、すごく大きい、以前の私なら飛びついていたかもしれない…」


「だがこれはやけに念の入った依頼でな? 前金って言っても『依頼受けます、では支払います。』って感じじゃなかったんだ」


「どういうこと?」


「1チーム単位で「証明プレート」みたいなのが配られる。それがとりあえずの仮契約みたいなもので、調査で集まる当日、拠点となる場所に行った際、その「証明プレート」と前金を交換って手筈にするらしい。」


 そう言ってヘッケランが首から提げるように作られている小さな金属板をチャラリと見せてくれた。


「まぁ…前金だけもらって居なくなるというチームも出ないとは限りませんからね、妥当な判断でしょう、「墳墓の調査」という性質上、成功報酬という形では、どこを判断して「依頼の達成」とするかは意見が割れるでしょうからね。」


「そういうこと!、だからギリギリまで考える時間はあるという事よね」


「そういう事なら助かる、私も少し考えてることがある…」


「お?何だアルシェ? 気になることでもあるのか?」


「そうじゃなく…フォーサイトの締めくくりとして、それがふさわしい仕事なのか…それが気がかり…」


「まぁ、そぉか~…妹さんたちのために引退も考えなければならないわけだしな~…」


「よし!わかった、どっちにしろ「証明プレート」との交換の時まで前金の交換は無いんだし、当日に『やはり受けられません』って理由でプレートを返すって手もあるんだしな。」


「そうですね、アルシェの気のすむようにしたらいいですよ、あなたにもしものことがあれば妹さんたちが悲しむでしょうから…」


「うん、ありがとう…」


「きっと結論は2日後には出てると思う」

(明日はジエット君と一緒にご招待に応じなければいけないんだしね)


「わかりました、とりあえず…証明プレートの方はもうヘッケランが持ってるから安心ですね」


「あぁ、依頼主の気が変わらぬ内に、形として一応受けるつもりはあるって姿勢を示すのは大事だしな!」


「それでは後はアルシェの結論待ちですね…気が済むまで悩んで、後悔のない結論を出して下さい、私たちはそれに付き合いましょう。」


 そうして歌う林檎亭でのフォーサイト会議での結論はまた後日となり、アルシェは翌朝のご招待に妹たち共々、気合を入れ直すのであった。



                ☆☆☆ 



「ど…どう…かな? 変じゃないかな?ジエット君」

(今までずっと同じワーカー用の装備ばかりだったから、こんなヒラヒラなの着るなんて、ワーカー始める前に実家で暮らしてた時以来ね…)


「変なんかじゃないですよ、アルシェさん、似合ってます。ステキですよ」

(こういうことをシレっと言う子だったかな? 私がワーカーしてる間、ジエット君も色々あったんだろうな…)


「ねぇ~ねぇ~…ジエットくん~、ウレイは~?ウレイのはどう~?」

「ずぅる~い、ク-デの方がずっとにあうでしょ~? にあうよねぇ~♪」


「そうよねぇ、ウレイリカちゃんも、クーデリカちゃんもよく似合ってるわ、キラキラのドレスが輝いてお姫さまみたいよぉ~」


「わぁ~い、おひめさま~、ウレイリカも一緒だよ、おひめさまぁ」

「うんうん、クーデリカとも一緒ぉ~、おんなじおひめさまぁ~」


(すっかりジエット君やお母さんに懐いてる、私がお風呂入れたり、ジエット君のお母さんと交代で入れたりしてたから自然と打ち解けるよね、ジエット君はお風呂上がりの飲み物を用意する係だったけど)


 微笑ましく見ているとジエット君から1つ質問が投げかけられる

「ところで、例の人には見送りの場所とかって伝えてあるの? 時間とか…」


 この「例の人」とはもちろん、ベルリバーこと、ヴェール氏である。


「あ…してない…いけない、今すぐするね」


 しばしのコール音の後…通話が通じた感覚になる。

『あ、ヴェールさん、今…平気?』(うぅ~、やっぱり話し方が元に戻っちゃう…)


「いや?大丈夫だよ?問題ない、墳墓調査まではまだ時期があるからね、そういえば招待されたのって今日だったよね…そのことかな?」


『そう、そのこと…馬車で帝都の入口まで迎えに来てくれるって感じ…一応、ヴェールさんも一緒でいいみたい…』


「そっか、それじゃ~こっちも準備はしないとね、すぐ合流するよ」


『時間はお昼ちょうどに馬車が来てくれる…できればもっと早くに来て…渡したいモノがジエット君からあるって話…』


「ほいほい、わかりましたぁ~、こっちも色々と前準備があるから、事前に知らせてくれて嬉しいよ、それじゃ~昼前に行けばいいね。」


『そうしてもらうとありがたい…それじゃ…』 通話を切ってからジエット君を覗き見ると…笑いを殺してるせいか体が小刻みに震えている…


「なぁ~に? ジエット君、なにがそんなにおかしいの?」


「いや~、家の外とか、「自分の空間」以外だとすぐそっちの言葉遣いに戻っちゃうんだな。ってね」


「いいじゃない、そういう風にしか話せないんだから…ところで、このドレス姿で帝都の入口まで行くの?これで街中歩くの恥ずかしい…」


「大丈夫ですよ、そうおっしゃるだろうと思ってこんなのを準備しておきました。」

 そういってジエットが取り出したのは3つのネックレス。見た目としては簡素ではあるが、鈍く光る感じが、マジックアイテム特有の印象を醸し出している。


「これは?」


「はい、これは第2位階の<幻影ビュー ・視覚オブ・ミラージュ>を封じてあるネックレスです、そのドレスにも、決して邪魔にならないデザインにしてあるので…それを身に着けたら、いつものイメージしやすい服装を思い浮かべながら、ヘッド部分を握ってみてください。」


「わぁ~~♪ すごぉ~い、いつものクーデがいる~」

「ウレイもいつものワンピース~、すごいねぇ~♪」


「…ホントだ、これなら街を歩きやすい…ありがとう、ジエット君」


「どういたしまして、それを作ってくれた「我が主の従業員」にもそのお礼は伝えておきますね。」



               ☆☆☆



 そして再び場面は変わり、ここは森の中、宿を引き払い<深緑の隠れ家(グリーン・シークレットハウス)>に移り住んでいるヴェールさん達の隠れ家である。


「それで? 私たちのことはどうされるおつもりです?」

「まさか、その「ご招待」の『護衛』をされてる間、私たちを置き去りにしたまま、待たせてるつもりだったワケじゃ~ないんですよねぇ?」

「それとも、お一人でその件を決めてしまわれたわけですか? ヴェールさん?」


 3人に責め立てられる偽エルヤ―こと、ヴェール…

 最初の言葉が、ルチル。

 2番目がセピア、締めくくったのがディーネだ。



「そ…そんなことはないさ…みんなも一緒に、連れて行く…つもり、だった…よ?」


 どんどん声が先細りになっていくヴェール。


「どうやってです? 先方に伝わってるのは「お一人で」って話みたいですけれど?」


「ほら、見た目は1人で、…でも4人そろって行ける方法がボクにはあるじゃない?」


「あぁぁぁ~~~…そういう方向で強引に話を進めるつもりですか?」

「あの状態の時って、お腹の中ですごい眠気に襲われてるんですけどぉ?」

「あれって、もしかして、別の活用法も?」


 それぞれが違う思惑で結論付けている…まぁ、ボクもこれはまだ未検証なんだけど…。


「ちょっと、まだ試していないことがあるんだよ、キミ達が急速に眠くなったのは多分「捕獲」って選んだからだと思うんだ…」


「まぁ、それは説明はされておりましたが…」

「眠くならないままで、って手段もあるんですか??」


「それをこれから、試してみたい、今度も、ちょっとした冒険になっちゃうけど…いいかな?」


「まぁ…仕方ないですね」

「ヴェールさん一人で行かせるわけにいかないでしょ?」

「万が一は無いでしょうから…また目を閉じてましょう。」


 3人横並びで座っていてくれる…そこでこの前同様に…お腹に集めた口を一気に集合させ、大口にして…ガパァァ~~!! 「パクン」


 あぁぁ…また、このノド越しが…3人を飲み込むこの感触は未だに慣れないよなぁ~…


「捕獲 or 消化?」と頭に浮かび『YES  NO』というコマンドのようなものが頭の中で明滅しているのがわかる。

 わざとそれを選択しないまま、放置する…少々、コマンドの明滅する感じが煩わしくはあるけども…敢えてスルーしておく。


 お腹の中に意識を向け…『どぅ? みんな、起きてるかい? 起きてるならもう目を開けていいよ?』


〖うわ…まっくらです…これがヴェールさんの中?〗

〖ほわぁ~~、でも暑くも寒くもないですねぇ~…もしかして、この中ならお腹も空かなかったりするのかも?〗

〖ヴェールさんの体の中から外の景色って見られないんですか?〗



『良かった、3人とも意識はあるようだね、これならみんなの安全も保障されるし、傷つけられる危険もなく護衛に一緒に行けるってものだよ』


〖それはそうと、外が見たいですぅ〗


『じゃ~ちょっと試してみようか? 3人一緒に〔外を見たい〕って念じてみてもらえるかな?』

(自分も外の景色を見せてあげたい、って同時に思うと、なんとかならないかな?なればいいな~)


〖見えましたぁ~♪ ヴェールさん~、外が見えましたよぉ~♪〗


『見えるようになったみたいだね、よかった、よかった。ちなみに、お腹の中に居る状態で魔法って使えるかな? 強化魔法とか、防御魔法とか?』


『間違ってもボクのお腹の中から攻撃魔法は使わないでくれよ?どうなるかわからないんだから』


〖ん~~、それじゃ~<鎧強化リーンフォース・アーマー>!どうですか?〗


『おぉ~、光った光った、よかったよ!、ボクは魔力系は使えるけど、信仰系魔法使えないからさ、いざという時の助けがあるって心強いよ、みんなのこと頼りにするね?』


〖おぉ~~…ヴェールさんから「頼りにしてる」なんて初めてですね、私もレンジャー持ちのマジックキャスターですが、少しでもヴェールさんの魔力の節約に貢献できるように頑張りますからねぇ~。〗


『うん、もちろんセピアにも期待はしてるからね、無理はしないでいいから、みんなよろしく頼むよ。』


〖〖〖 もちろんです!!〗〗〗


「それじゃ~、一応『護衛』ってことなんだし、一応完全装備はしておこう…、レガシーのフル装備、久々だなぁ~これ、あ、その上にエルヤーの幻影~、えい!<幻影ビュー ・視覚オブ・ミラージュ>」


『さて、なんだかんだで、そろそろお昼から1時間前くらいにはなったかな?、それじゃ~皆行くよ、心の準備はいいね』


〖〖〖 はい!!いつでも。〗〗〗


(敵地に入るって訳じゃ~ないんだけど、NPCが自分の意識持ってるって言うしなぁ~…警戒はしておいて無駄にはならないはず…)


 未だにギルドメンバーだったというだけで『関係者独特のオーラ』をNPC達が肌で感じられる仕様になっているのだということをアインズから知らされていたヴェールは「どうかバッタリ出くわしませんように…」と祈るしかなかった。



 エルヤ―装備の姿を幻で身にまとい、悠々と帝都の関門チェックをすり抜け(エルヤ―ロール全開で、体には触れさせないように威圧はしておいた、面倒なことにならないように。)門の外に出ると、そこには男1人に、見慣れた女性が1人、そして、あの時に助けた女の子2人がこっちをみて嬉しそうにはしゃいでいる。


「お姉さまぁ、あの人、あの人だよぉ~わたしたちのこと、たすけてくれたのぉ!」

「ね?ね?言ったとおりでしょ?むねあてに「エル」ってぇかんじのもよう~」


 あぁ、アルシェちゃんはボクらの関係をこの子達には教えてなかったのか…まぁ、そんな大した関係性じゃないんだけどな。


「貴方が、今回、護衛をしてくださるという方ですね。私はジエットと言います、この度は我が主人との友好の証を拝見させていただきありがとうございました。」

 そう言って、1つの小さな革袋を差し出してくれた。


 中身を見てみると…

(よかった、あの「身分証明」として入れておいた「ネックレス・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」はちゃんと入っている。)


「あれ? なんか見慣れない物も入っているのですが?」


「あぁ、それは中にメッセージカードも入ってるので、どうぞお読みになってください、我が主から「それは進呈するから、それを使って訪問しに来てくれ」だそうでございます。」


(このギルドマークのこともなんとなくわかってる素振りだし、このジエットという人物、かなりアインズさんと近い距離にはなってるようだな。)


「あぁ、それでは拝見させてもらいましょう。」



 読んでみると…NPCは、ギルドメンバーだった41人を「至高の41人」としてほとんど神さま並みに信仰してるのだという事が「先日伝えられなかったので追記でお知らせしておきます。」とアインズさんらしい文面で書かれてあった。


 そして、アインズさんは一度、守護者達に休暇を出そうと提案した際、NPC達のみでこそこそと何かをしているらしいことを察し、課金アイテムなどを使い、すべての気配を消し、オーラも誤魔化し、完全不可知化や、完全不可視化なども重ね掛けをたっぷりして、盗み聞きをしたことがあるのだそうだ。


 結局、守護者達は「至高の御方の想い」を彼らなりに汲み取ろうと努力してただけだったと知り、それ以降疑うことはしなくなったらしいが、この革袋に入っているのは、その時に使ったのと同じ1setらしい。



「これはこれは、大変いいものを…これは今使った方がいいのでしょうか?」


「そうですね、我が主は、その方がお互いに色々な混乱などを避けるためにも必要なことだろうとおっしゃってましたので…」


「わかりました…それじゃ、クーデリカちゃんにウレイリカちゃん、これから、お兄さん、また魔法で姿を消すけど、ずっと今日は一緒に居るからね?」

(そう言わないと、絶対に消滅したみたいに見えるもんなぁ~…)


 そうして、なにもかも感知できないほどに姿を消した後、馬車が近づいてきているのが分かる。


 あそこに乗っているのは…セバス…か??

 あれってたしか「たっち」さんが作ったNPCだよな? ホントだよ~…動いてるぅ~…それに御者の技能なんてあったんだな…初めて知ったよ。


 なんて驚いていると…


「あぁ、これはこれはセバスさま、自らお越しいただけるとは…お迎えに来ていただきありがたく思います。 初めて勧誘しに来られて以来ですね、馬車を介してお話をする機会というのは…」

 さらっと挨拶をしている…


 なに?ジエット氏…あなた、セバスとも知り合いだったの??? と驚きの連続であったが、誰にも見られていないのは幸いであった。


______________________________________



あとがき


「ネックレス・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」について…

 ギルドが結成されてから、ナザリック大墳墓を初見攻略するまでの短い間だったが、ギルメン同士の結束の証として全員分配られたもので、転移などの効果は付与されていない。

 ついている効果は「全抵抗力の向上(下位上昇のおよそ倍程度)」と、「装備している防具に追加で物理、魔法防御力の上昇」(普通の布製の服が鉄のフルプレートメイル並みの防御力には並ぶ程度。)という感じ。

 ゲーム内では申し訳程度のアクセサリだが、現地民にとってはそれなりに高価なマジックアイテム扱いをされかねない逸品。


ちなみにヴェールさんは階層守護者以外のNPCの名前はほとんど覚えていません。


 プレアデスの面々もベータ、とかガンマとかの名称でしか覚えておらず…ユリ・アルファはなんとなく響きだけで覚えていた感じ。

 セバスに関しては「『執事って言えばこの名前』ってくらいベタな名前つけるんだな、たっちさん」って感想を抱いていたので、覚えていただけという話です。


 メッセージカードに書かれていた顛末はCDドラマの中にあった流れです。

 姿を消しながら、ラビッツイヤーを発動させても姿が露見せず、見えないままだったという仕様でしたので、姿を消しながらメッセージの魔法などを使っても問題ないだろう、というねつ造をぶっこんで次の話に進みたいと思います。

(他者に干渉する魔法(デバフや、状態異常を与える、攻撃魔法など)を使えば露呈するでしょうが…)


 ちなみに一般メイドの名前についてですが、思いっきりねつ造をつっこみました。

 シクスス(6番目?)フィース(フィフスのもじりで5番目?)フォス(4番目?)とか思ってしまい…

 それなら、1~3、7~10まで作ってあげたくなってしまった、という事でして…

1.ファスティ

2.トゥワイシィ

3.サンディ


7.セヴェーネ

8.エイティナ

9.ニーネ

10.テネシス


 みたいな感じ…でもこれからこの子ら全員の出番があるかは全くの未定です。




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