第18話 初めてのアルシェとのお茶会

 前回のお話でシャドーデーモンが話す(念話でとは言え)などという違和感の凄い

事についてですが、アニメ版では一切話さないシャドーデーモン。

 実はWEB版でのシャドーデーモン要素を少しだけ盛り込んだ形の流れにしちゃいました。

 たしか、余計なことを言ってナーベにボッコボコにされたシャドーデーモンがいた

はず…それがあったから、アニメ版では話してる場面が出てこないのかも…。


 ちなみにベルリバーさんの【擬態 Ⅳ】の効果で姿を変えられる候補に、実際に対面したことによりアインズさま(嫉妬&ノーマルどちらも)と、シャドーデーモンも加わりました。

 シャドーデーモンはモンスターだし、変化したところであくまで【擬態】だから、

影に潜んだしする能力までは使えない以上、その姿自体に旨味はなさそうですが…


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このお話は、アインズさまとの再会を果たし、コテージで夜を明かした後、朝早くから元居た宿屋に戻った際、お部屋で色々相談しているという時間、この時点ではアルシェへの<伝言メッセージ>はまだ未使用



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 彼は朝から悩んでいた。

 4人でワーカーをするのはまぁ、仕方ないという結論は出ている…しかしもう『天武』の名前は名乗りたくない…し、名乗れないだろう。

 

 そうなると、新生チームとしての名前を考えなければならないのだが、どうしたものかと思っていた。


「いっそのこと『天武』はやめるから…『地武』っていうのはどうだろう?」

 と微妙にネーミングセンスを疑われそうな意見を出すヴェール。


「えぇ~?なんか地に落ちるみたいでやだぁ~…」露骨にイヤな表情をするセピア


「どうせなら『牙』の字をどこかに入れてはどうです?本当の姿は牙がいっぱいなんですよね?」


 …と、否定的な意見をいうセピアをフォローするようにルチルが代替案を出してくれた。


「おお、いいねそれ、その案を採用!」


 響きもいいし、かっこよさげな名前になりそうな予感がして採用にした、他の3名も特に異論はないみたいだ。


「この偽エルヤ―自体は近いうちにやめるとしても、こいつのスキルは全部吸収させてもらったから、見た目自体はかわっても、戦い方が変わらないのはありがたいよな。」


「次はどんなお姿に変わるおつもりなのですか?」


「ん~…候補はあるんだけど、見た目、魔法詠唱者マジックキャスターまんまだからなぁ~…それで剣を使うとか…「詐欺」とか言われそう、まぁボクは魔法も使えるから完全詐欺って訳でもないんだけどね」


 ディーネの問いかけに歯切れ悪く答えることになるも、その姿になった場合の危険は「あの墳墓において」自殺行為になりかねないという思いからやはり候補から外そうかと思っているとルチルから一つの質問を問いかけられた。


「前から、気になってた点なんですけど「吸収」って言ってた外見になるのと、【擬態】って言ってた方の外見になるのと、どこがどう違うんですか?」


「あれ?そうか、ボクは知ってるけど、そこらへん説明まではしたことなかったね。」


 改めて再認識させられ、どっちがどう違うのかの説明に入る。


・「吸収」(【捕食】のスキルで消化した状態を柔らかく表現しただけ)の場合、身体的特徴、外見、経験、声、スキル、タレント、魔法、武技、それら全ての能力を新しく吸収した1人分の範囲内で全て、もしくは好きな組み合わせで実行、再現できる。(声なども同じになる、クセなどはさすがにわからない)


・「吸収」した者の記憶や秘密までは読むことはできない。


・「吸収」の対象を新しく更新した場合、直前までの「1人分の能力」の全てが消去され、最新で「吸収」した者の全ての「能力」と書き変わる。


・「吸収」でも「捕獲」状態でも武器、防具なども一緒に取り込んだ場合は、それも候補に挙がり、そのままの性能で再現が可能。(「捕獲」の場合は武器か防具かを選ぶと他が選べない)



・「捕獲」の場合、体内で傷つかずに老化も傷の進行も何もなく「保管状態」になる、身の安全はあるが、保管してる間は外見などの内どれか一つのパーツしか選択できない。


・「保管状態」での外見を選んだ場合、パーツごとに実行し、対象の選んだ特徴そのまま(全体の完全複製)を再現することが可能。



・【擬態】の場合、見た目だけ真似するのが可能なだけで、能力や記憶等は反映されず、声なども変化せず、本来のままの声で変わることはない。


・【擬態】で真似した場合の武具や防具はハリボテで、見た目だけそのまま、実体はあるものの「ナマクラ」以下



「とまぁ…こんな感じかな? もっとボクの知らない応用とかもできそうだけど…検証も実験もあまりしてないんだ…危険なことかもしれないし、みんなにも…ましてや無関係の人にそんなの頼むわけにもいかないしね」


 聞きながら、なにやら口元に手を当ててブツブツ言ってるルチルに、「え~っと、そうだとすると…」と言いながら中空を見つめ考えを巡らせてるディーネが対照的だった。


「ヴェールさんは、体の中に「保管」できる対象は1体以上で確かめたことはないんですか?」


「あぁ~…そういや、テストしたのは川だか沢だかを泳ぐ魚だったから、一尾でしか試さなかったなぁ…どうなんだろう?」


「もしよろしければ、私たちのこと、食べたりしてみます? もちろん「捕獲」的な意味で…ですよ?」といたずらっぽい笑みを見せるディーネ。


「ん~~、それもいいけど、目を開けてると、大口が「ガパァ~」となって迫ってくるから、怖いんじゃないかな?平気?」


「ヴェールさんなら平気ですよ、本当に食べたりはしないってちゃんと思ってますし、ちゃんと身体もキレイにしましたしね♪」とずいぶん前向きなセピア


「ん~~…じゃ~ちょっと試してみるだけだよ? すぐに外に出してあげるからね?」


「「「ハイ、どうぞ」」」と言って3人とも目をつぶってくれる。


「では…失礼して~…行きますよぉ」…かぱぁ~!…パックン。


 うわぁぁ…ノド越しが…すごい申し訳なく感じる……では【捕食】スキル……捕獲。


 するとあの時同様に頭にアナウンスが流れる。


 いつ聞いても、案内妖精≪アナーニィ≫の声にしか聞こえない。


『新たに捕獲対象が増やされました。消化されているデータが残っているため、容量はレベル分の半分となります。今回でクイックセーブ欄の1.2.3.4が埋まり、残りは46です。』


 ………………絶句した。

 なにそれ?クイックセーブ?そんな機能、前の時には言わなかったじゃん! と思っていると、続きのアナウンスが続く。


『繰り返しとなりますが、一度に読み込める身体的特徴は一つだけとなります。別の部位を選びますと、1つ前に選択してた部分はキャンセルとなりますのでご注意ください。』


(えぇぇ~~? クイックセーブなんて聞いてないんだけど…どうすんだこれ…)


 そう思い、クイックセーブ欄「1」に意識を向けてみると「魚の頭」がイメージで浮かぶ……あぁ、そっか、それ以外に選ばなかったからな~…それだけが保存されてるわけか…

(実際に泳ぐことも考えて「尾びれ」も選ぶべきだったか? まぁそれはまた今度だな…)


 えぇ~っと「2」の方は~…セピアか…、それじゃ~エルフの耳を再現♪


 エルヤーの顔(消化版)にエルフの耳(捕獲版)を重ねられるのか…これは新発見だ!! 


 次は…セピアのブラウン髪を再現だな…と意識して選び直すと、今度はエルフの耳が消え、エルヤ―顔なのに、髪が茶色のショートに変化する。


「ん~~…これはナシだな…」


 次はセピアの顔…と選ぶと、エルヤーの髪型でセピアの顔になる…(なんかモンタージュ的な気分になって来たな…)


しばらくの間、あらゆる身体的特徴をセピア、ルチル、ディーネ(捕獲したのは同時だったので同時に捕獲した場合は恐らく50音順で記録されるらしい)と、入れ替え、読み込みし直したりして、あらゆる組み合わせをしておくと…クイックセーブ欄の中で選べる項目が増えていることに気づいた。


(やはり、捕獲中に試した部位を覚えていられる機能みたいだな…試していない内に消化したり、吐き出して逃がした場合は、そこまで、って感じのようだ。)


「それにしても選べる身体的特徴の数が無制限ってすごくないか? …まぁ、だから選べるパーツは一つってことなんだろうけど…」


(いつまでも遊んでるわけにもいかないな…彼女たちは好意で協力してくれたんだし…これ以上拘束するのはさすがに心が痛む。)


 いつぞやのように「ぼぅえぇ!」と表現するしかない、なんともいえない音と共に3人が吐き出される…魚の時同様、飲み込む前と比べても何の変化もない。胃液のようなもので濡れてもおらず、ただ眠っているだけのようだ。


 とりあえずは安心して元の姿…じゃなく「エルヤー」の姿そのままに戻す。


 顔の感触を手探りで調べ、頬や、後頭部に口がないことを確認して、3人を起こす行動に移す。


 セピア…揺するととりあえず目を開くも、放心状態。

 ルチル…ゆさゆさ揺らし、起こすもまだどこかボヤ~としている。

 ディーネが最後まで起きなかったが、なんとか目を覚ましてくれた。


「ヴェール様の中、ステキでしたぁ…、居心地よくて、まどろみの中で陽の光に包まれてるような…周囲を樹々に囲まれてる中での安らかさを感じましたぁ~」と3人ともず~っとそのままでもいいかも、的な想いにとらわれてしまっていたようだ。


「3人とも協力してくれてありがとう、新しい可能性が見つかったよ、もっと試す人が多くなれば、もっと選択肢は広くなりそうだ。」


「ホントですか? それはよかったです…」まだどこか意識が覚醒しきってないのか、ディーネが寄りかかってスヤスヤ状態になろうとしている。


「じゃ~、3人とももう少し休んでていいよ、そろそろチェックアウトの時間だけど、あとちょっとくらい、店主に延長料金を払っておくから」


「「「はぁ~い…」」」と、3人が3人とも、もう少しゆったり休みたいモードに入ってしまったようで、ベッドにもぐりこんでいく。


「せめて、ゆっくり眠らせてあげないとな」


 アイテムボックスから<無臭オーダレス>の魔法効果が込められている香水瓶を出し、3つのベッドに降りかけ<清潔クリーン>のスクロールでベッドをキレイに仕上げ、部屋を出る。

 


 もちろん、店主には延長の代金を払うことは忘れない。

 一芝居うって周囲の人間たちにそうとはわからないように店主のエプロンのポケットに延長料金をつっこんどいた。

 店主も2度目ともなるとなんとなくそうされるとわかったのか、それに対応を合わせてくれるようになった。

 少し芝居がやりやすくなったな。


 周囲から注がれる視線は冷たいものだったが、それはイイ。


 墳墓の調査で、前金を受け取るまでのガマンだからな…好きなように思っているがいいさ、としか思えなかった。


(…それにしても3人同時に「捕獲」してる場合は1人につき再現するパーツは1つ、3人だと計3つにできるなんて応用ができるとは思わなかったな。そうそう試すこともないだろうけど…)


 あ、そうだ…せっかく1人になれたんだし、アルシェちゃんにも連絡とってみるか、近いうちアインズさんと会うみたいだし…それに関しても少し話をしてみたいからな、なんて思い、早速<伝言メッセージ>を送って、うっかり「ちゃん」呼びをしてダメ出しをされてしまう浮かれ具合だった。


 …どんな姿で会いに行こうかな?…とか思いながら



                    ☆☆☆



 色々考えている内に、結局いつもどおり「偽エルヤ―」でいくことにした。

 変に奇をてらうよりもいつも通りでいた方がなんとなく落ち着くというか、なんとなくの座りの悪さみたいなものを感じないで済みそうだからだ。


 待ち合わせる場所はリアルの時代ではアーコロジー内でしか存在することが許されなかったオープンテラスのカフェ風にされてる店構え、内容もソフトドリンクの提供がメインなので、アルシェちゃんにもちょうどいいだろう。


 テーブルに座り、もうこの世界に来て普通になりつつある「外の空気を全身で浴び、肺いっぱいに息を吸う」という『元居た世界では非日常』な行動を楽しんでいると…「こちらをどうぞ」という声が聞こえ、目を開けた。すると、夢にまで見た『ウエイトレスのお姉さんに注文をお願いする』というシチュエーションがすぐそばまで忍び寄っていたことに少しドギマギする。

(むこうじゃ、こんなこと経験ないもんなぁ~…)

 などと感慨深げにしていると…「なにかご注文はお決まりでしょうか?」と催促されているようだ…差し出されたメニューを見るも(…読めないし~)…などと、思っていても言えないベルリバーは、注文を悩むように口元に手を添えて<言語読解リードランゲージ>を小声で唱える…


 しかしやはり、読めてもどんな飲み物だかさっぱりイメージできない名称ばかりであったため、仕方ないと心に決め「人と待ち合わせなのでこれでなければ、というものはありませんね、お姉さんのオススメをお願いします。」と言うとメニューを引っ込め「かしこまりました、それでは少々お待ちを…」と少し会釈をして去っていく。


 意識を「空気を味わう」ことから外に目を向けると…オープンテラスの方に近づいて来る人…アルシェちゃんの姿が見えた。

 早速<伝言メッセージ>を送り、すでに来ていることを伝えて大きく手を振ってあげるとこちらに気が付いてくれたようだ。小走りに近寄ってきてくれる。


 なんか、ちょっと見ない内に仕草が少しだけ可愛くなってないか?そう見えるのは自分だけなのだろうか?などと思っていると…

「スゥズさん、人間そっくりに変われるようになった?、見違えた。」となにやら嬉しそうだ、そんな表情を見ているとこっちもなんか嬉しくなっちゃうな。


「うん、この人の全てを引き継いで、これからはあまり酷いことはしないように心がけて行動してるんだ。ただでさえ、いろいろ怖がられるものだから…元々があんな姿だしさ」

(実際には、説明はしただけでエルフの娘さん達にも正体は見せてないんだよな、どんな反応されるか怖いってこともあるんだけど…本来の姿を知ってるのはフォーサイトの面々だけか…)


「うん、何も知らないであの見た目だと、確かに怖がられると思う…私も最初は驚いた。 今はマジックアイテムで魔力を隠してる?」


「うん、なにかと目立ちたくはないからさ、噂によるとアルシェちゃんのお師匠さんも有名人で同じ目を持ってるみたいじゃない? 変に目を付けられたくないしね」


「もぉ…『ちゃん』呼ばわりはやめてって言った…、でももういい、妹たちの件もあるから、特例で許す。」

(やっぱりジエット君に対するみたいな話し方はムリ…どこか遠慮がちになっちゃう。)


「ありがとう、それなら、これからはボクのことも「スゥズ」じゃ~なくて「ヴェールリバー」の「ヴェール」の方で呼んでもらえると嬉しいんだけどな。」


「いいの? 名前の方で呼んで…」とどこか遠慮がちにしているのが気になるが…


「いいんだよ、今、チームを組んでいるみんなも今は「ヴェールさん」って呼んでくれてるしね、その方が気が楽だし…なんか呼ばれ方が違うと調子が狂っちゃうよ」


「そうですか… それなら、今から「ヴェールさん」って呼ばせてもらうことにする。」

 どこか晴れやかな、なにかを吹っ切れたような明るい表情だ…以前のような表情の陰に見え隠れしていた不安を抱えたままのような印象はすっかり消えている。


「ところで、その見た目はいつぐらいから?」と急な質問を投げかけてくる。


「ん?これ? 帝都に入る少し前だよ、途中で帝都までの道順を教えてもらって同行してくれた人が居たんだけど、「モンスターに目を付けられた」みたいでね、致命傷を負って助けられなかったんだ、せめてもの供養に、と思って「彼がこの世界で生きていた証」として、自分の中に取り込んで、今に至るって感じかな」

(正直に言うと、アルシェちゃんの年齢的にも、思春期と言っていい年齢から判断しても…言わないでいい内容が含まれてるからな、エルヤ―の人間性とか…知らないでいいならその方がいい。)


「そうですか…それだとやはり妹たちを救ってくれたのはヴェールさんなんですね、ありがとう。」

 ペコリと頭を下げてくれるアルシェちゃん


「あぁ、さっきの「妹たちの件」ってそういう意味だったんだね、一瞬なんのことかと思ったけど…」


「でも、否定がされなかった…だからそれで確信ができた。やはり助けてくれたのはこの人だったって…」

 妹さんたちのことが無事だから、こんな吹っ切れた表情をしてるんだろうな。 それなら救った甲斐もあるというものだよ。


「どこかで見た覚えのある感じの子たちだなって最初に会った時に感じてたんだけどね、それの正体がなかなか思い出せなくってさ、モヤモヤしてたんだけど、あの時にアルシェちゃんが妹さんに振り向いたのを見た時やっとわかったよ。そりゃ~似てるはずだなってね。」


「そんなに似てるの? 少し嬉しい、妹たちは私の宝だから。」

 やはり妹さんのことになると嬉しそうだな、これなら、今も妹さんたちは無事なんだろう。


 話が止まらず、盛り上がっているとそこに飲み物が運ばれてきた。

「こちらおすすめのアイスマキャティアとなります、どうぞお召し上がりください。」


「あぁ、ありがとう、悪いですが、同じものをもう一ついただけますか?待ち人が来てくれたので振る舞いたいのです。」

 笑顔でそう伝えるとウェイトレスさんもそれは見えていたようで「かしこまりました、それではもう一つ、お作りしてきます、しばしお待ちを…」と言ってそそくさと去っていく。


「えぇ? それは気が引ける…これはけっこう高い飲み物…」

(すごく驚いているけど…そんなに高いかなぁ~?銀貨とか金貨って言われても「円」じゃないし、ピンとこないんだよな。)


「せっかくの再会なんだし、このくらいはごちそうさせてよ。 初めの時は大したおもてなしもできなかったんだからさ」

 多少強引かもしれないが、そうやって納得させて奢らせてもらうことにする。そうじゃないと、本題の情報も聞きづらいし…


「そんなこと気にしないでもいいのに…でもわかった、感謝する」



「話は戻るけど、妹さんたちは大丈夫そうだね…元気そうならなによりだよ。」


「うん、今は昔からの知り合いの家にお世話になっている、すごい出世したみたいで信じられないような家に住んでいる」


「信じられない家?」


「そう、魔法みたいな家…、給排水も魔法で全部解決される、外からの見た目と内装が違って、平屋っぽいけど2階建てになってて…建物の外見の倍くらいの広さはある…とにかくすごい」

(かなり興奮気味だけど…それって拠点作成系のマジックアイテムじゃないか? この世界にもそれを作れるだけの技術力があるのだろうか?)


「それって、普通に考えて、マジックアイテムのお店とかで買えたりするものなの?」と素直な感想を質問にしてみると…


「いや、どんな魔化をしたのか謎、どういう魔法の効果でそんな広さにしてるのかも私なんかでは全然わからない…きっと数千どころか数万の金貨を積んでも見つからない…」

(やはり、そうだよな…ともすると、それもプレイヤーの息が…っていうか、そういえばアインズさんに招待されてるって話だったよな、アルシェちゃん。)


「そういえば、小耳に挟んだんだけどすごい人に招待を受けてるんだって?アルシェちゃん」


「えぇ!? なんで知ってる?」

(すごい驚きようだ、本題をいきなり切り出しすぎたか…)


「最近、知り合ったばかりの知人がそんなこと言ってたからさ、ボクがあげた水晶玉を鑑定依頼に来た人を自分の館に今度招待することになったんだ。ってね」


「そう…、世間は狭いってホントだった…まさかそんな繋がりがあったなんて」

(こっちもビックリだよ、アインズさんの協力者をしてる「人間種」が、実はアルシェちゃんの昔からの知り合いだったなんて。狭いどころの話じゃない気がするよ)


 2人とも同じ感想を抱き、わずかな時間、共通の秘密を共有できたかのような空気を感じていると、さっき注文したマキャティアがちょうどテーブルに運ばれてきた。


「おまたせしました、追加のアイスマキャティアでございます。」


「あぁ、ありがとう…何度も足を運ばせて悪かったですね。」

「いえ、そのようなことは…それではごゆっくりどうぞ…」

 と何ごともなかったかのように仕事に戻っていく…プロだな~と思ってしまった。


「ところで、さっきからヴェールさんの話し方が変… ウェイトレスさんへの言動が私と違う気がする…」


「あぁこの話し方? これは外向きの話し方だよ、この姿でいる間は、ワーカーチーム『天武』のエルヤーでいなきゃならないからね。 その人っぽい言葉遣いを心がけているってことなんだよ」


(そうなんだ、ちょっと安心した、色目を使ってるわけじゃなかった…って、なんで私ここで安心してるんだろう…?)


「あぁ、ヴェールさんだとしか思ってなかったから気にならなかった、ワーカーになった?」


「そうなんだよ、だから、あの墳墓への調査に行くまでは『天武』ってことにしておいて、フォーサイトの人達と墳墓内で合流して他のチームと別行動ができ次第、新生チームとして、デビューをしちゃおうかと思ってね。」


「その時は、その外見も同じ? それとも別人?」


「そうなんだよね~、それも悩んでる感じ…それと新生チーム名の方もね。」


「チーム名を新しくして、再デビュー?」


「まぁ、それもいいかな?ってね…」

 ヴェールさんは腕を組んでしきりに悩んでいる、何か思いつかないことでもあるのかな?


「どんな名前にしたいのかにもよる…チーム名…」


「名前の1つに「牙」って入れるのはどうかって案はあるんだけど、それ以外はまだ…かな」

(バツが悪そうというか照れくさそうな感じで頭をポリポリ掻いている、いいのが思い付かないのかな?)


「それなら、『バニッシャーファング』とかどう?」


「え? それどういう意味が含まれてるんです?」


「えぇ~っと『天武』っていう名前は帝国では基本、すごく珍しい名称…、その文字は例えて言えば、スレイン法国の「神聖文字」と言われている種類に属する言語形態…」


「あぁ、たしか人間至上主義で人の種類以外の繁栄は認めない、的な教義なんでしたっけ?」

 最初に出会ったこのフォーサイトの人たちに教えられた知識の中にあった内容を思い出す。


「そう、だから敢えて帝国風な言い回しにして…「牙を研ぎ澄ます者」という意味で考えた…どうでしょう?」

 …正しくは「バーニッシュ ア ファング」が正式な言い回しですけど… と小さく注釈も入れてくれた。


(少し自信は無さげにも見えるが、一生懸命考えてくれたんだろうし、これは持って帰って、後でみんなに相談してみよう。)


「あ、でも少し言い方を間違えると「牙を消す者」または「牙を失った者」あとは「牙の消滅した者」という意味にもなったりする、気を付けて」


「あっははは、それはいい、ボクを表すのに、どっちに転んでも正解じゃないか、「牙を消してる者」…か、そのまんまだし面白い!」


「いいの? そっちの意味で認知されて…」と少し心配そうだが…



「いや、本当にボクはこの名前いいと思うよ、気に入ったしね…ありがとう! これはちゃんとチームメイト達にも相談してみるよ!」


「そんな大げさに考えないでも…いい…他にいいのがあれば、そっちを使ってくれても…」

 と消え入りそうな声だが、照れくさい中にも嬉しい気持ちもあるのかもしれないな。


「大丈夫だよ、ボクはいい名称だとおもうよ? きっと大丈夫さ!」


 なんて会話を、マキャティアを飲みながら話していて、肝心な話をしていないのに気付く。


「そういえば、招待されたのってアルシェちゃんだけ?」

 と聞きたいことの前振りで聞いてみる。


「違う、妹たち2人も一緒。 それと付き添いで、ジエット君も…」


「あぁ、そのジエットって人が今回、ボクらを結び付けてくれた恩人ってことになるんだね」

(ボクにとっても感謝しなきゃならないワケだしな…その名前は覚えておこう。)


「そうなる…この4人で行くけど…チームのみんなには教えてない、秘密にしてるわけじゃない、でも言いふらすのは違う気がする…」

 なんとなく気まずい気分を味わってるようだが…


「その方がいいんじゃないかな? あんまり大人数で行ってもご迷惑かもしれないしね」

 アルシェちゃんと妹さんだけなら問題ないだろうけど、他のメンバーがアインズさんの地雷を踏んだりしたら、さすがにフォローできないからなぁ…


「ところでさ?アルシェちゃんに相談があるんだけど、いいかな?」

(いよいよ、本題だけど、大丈夫かな?聞いてくれるといいんだけど…)


「?…なに? 私で協力できることなら…」

(ヴェールさんにできないことが私にできるのかな?)


「そんな大したことじゃないよ、ただ、その招待の場に『護衛』という名目で付き添わせてほしいんだ、一応姿は見えないようにして行くからさ…ね?」

 頭を下げて、顔の前で手を合わせて拝むようにする。


「私の判断だけじゃ、それはなんとも…ジエット君にも聞いてみないといけない…」


(まぁ、そうだよねぇ~…そうなると、ちゃんとした理由付けを用意する必要があるか…、そうだ、あれを持たせよう。)


「それじゃ~、これを…そのジエット君に渡してもらえるかな? その『護衛』の話をする時に一緒に見てもらえるようにすれば、多分意味は分かってくれると思う。」

 そう言って、ヒモの絞られてる革袋を1つ、渡しておく。


「???これ、中身はなに?」


「あぁ、特にこれと言った効力はないアイテムだよ、ボクの身分証明だと思ってくれればいいから…あ、一応アルシェちゃんは中身、見ないでね?」

(この子の性格からして大丈夫だと思うけど、一応念は押しておこう)


「??? わかった…なんかよくわからないけど、ジエット君に見せればわかるのならそうする。」


「うん、ありがとう…もしそれで返答がダメって感じならそれ以上はわがまま言わないよ、見送りに行くくらいはいいよね? その時にでも返してくれればいいからさ。」



 そう言って、予めその革袋に1つのアイテムを入れておき、それを渡しておいた。

 それを見たジエット君とやらがどの程度、アインズさんと近しいかがこれでわかる。


 それを見ても全くなんのことだかわかりませんでした。ってことならまぁ仕方ない。

 『護衛』の名目で墳墓を訪れることはそこまで重要じゃないからな。


 もしその「身分証明」のアイテムを見てアインズさんに報告をするとしたら、話はスムーズに進むだろう…こっちの思惑もまずはステージ1に足を踏み入れる段階に入れるってことだしな。

 

 多分、【擬態】をして景色と同化して、ニオイも熱源も誤魔化したとしても、たしかプレアデスの1人は<〔完全不可知化〕《パーフェクト・アンノウアブル》の看破>が使える者がいたはず…どこまでこっちの手段が通用するかだな…


 アインズさんは、普通に見破ってくるだろうけど…それは全く問題ない。

 だってアインズさんに会いに行くんだから、ハッキリ言って見えてくれなきゃ困るし~って感じだ。


 あとはあまりユグドラシルでは使わなかった<不可視化のローブ(ローブ・オブ・アンスィーン)>を使ったりしてもいいだろう。


 見破られても、その「身分証明」のことをアインズさんが知っていれば通すように話が通っているはずだし…

 素通りできるならそれが一番って感じだが、門前払いなら、それはそれでいい…


 日を改めて<伝言メッセージ>を送って相談ごとを持ちかけてもいいんだし…アインズさんには名目として「ギルドイベントとしてのサプライズ」ってことにしてあるけど…


 きっとアインズさんの性格上、本当の目的を知ったら止められるだろう…でもこれはしなければいけないんだ…


 そうしなければ、ボクは自分で自分を許せないから…こんな素晴らしい世界で、素晴らしい仲間たちが残してくれたNPC達と共に過ごせるなんて未来があるなら、みんなを切り捨てたりしなかったのに…


 そんな行動をした自分に対する、これは禊(みそぎ)だ…それだけはアインズさんでも止めさせるわけにはいかない…。


 そうでないと、自分はあのギルドに居ていい存在じゃない、許される訳はない…。


 アインズさんが許してくれても…残された子供たちが許してくれなければ、あの墳墓の…円卓に戻れる資格すら自分にはありはしないのだから…


 結局、夕べ、一晩、ベッドで考えた結論、NPC達と話をしてみよう。それが恨み言で、自分にそれが直接降りかかってきたのだとしても甘んじて受け入れよう。


 唯一の気がかりは人間の見た目をして、気配を隠しての問いかけで果たして守護者たちは、本音で答えてくれるだろうか…? という部分は確かに不安だが…


 しかしそれでしか自分のできる精一杯の罪滅ぼしになる方法は思いつかない…自分の悩みの回答を相手に丸投げしてる気もするが…、そう結論を出し、そう決めた。

 

 内心でそんな思いを抱えながら、その革袋を…自分の運命をアルシェに託すのであった。




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