第17話 初めてのご招待

※ 今回、賢明な皆様はタイトルでわかると思いますが、ベルリバーさん視点です。


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 彼は土下座をしていた。 それはもう地面に額を押し付け…デコが赤く染まりそうなくらいには…。

 彼がなぜそんなことになったのかというと…。

 ベルリバーはアルシェの妹を救い、姉に引き会わせ…宿に戻ってきた。


 その時は部屋に入るなりエルフ3人娘達は妙にテンションが高く、上機嫌で「「「おかえりなさぁ~い♪」」」と迎えてくれたのだ。


 気になっていた点を見ると、案の定、というか時間的に治っていておかしくない時間は経っているし当たり前なのだが…エルフとしての魅力の一端、その耳がしっかり生えていた。

 やはり「護符アミュレット」を渡しておいてよかったと思う。

 それは彼女たちの機嫌がいいからではない…やはりエルフというものはその長くピンと伸びた耳があるからこそだよな!…と、種族特有の美点に目を向け「うんうん」とこっちもなにやら嬉しい気分になっていた。



 そして、彼女たちと夕食時のだんらん…と言ってもこの部屋内でだけだ…『見た目だけ天武』チームとしては今までとの違いが周りにバレるようなことは極力慎むべき。という提案が出て、それには「まさにその通りだよな」と納得し、周囲に魔法を展開させる、今エルヤ―達の居る部屋の両隣は、いつもエルヤ―が普段そうするように空き部屋となっている。


 例え、2つ隣の部屋で聞き耳を立てようとよほどの大声でなければ聞こえないようにはなっている…がしかし、それでも声を殺すような悲鳴と…嬉しい時の抑えきれない高い声では、ひびき方にも違いはあるだろう。そう思い、周囲に「聞き取れてもその話題に興味がわかない、認識できない」という効果を、念のためにと<魔法効果範囲拡大化ワイデンマジック>で建物全体を範囲に入れた。


 「うん、これで大丈夫、もぉどんな話をしてもとりあえず、明日の朝まではもつだろう」というと、安心したように…これがきっと本来の彼女たちなのだろうという明るさで話が始まった。

 そこで、彼女たちの話しぶりを聞いていて思ったこと、それはそれぞれの個性だ。


 ドレイの時は皆一様に「自分」というものを押し殺していたのだろう…同じように「没個性」という状態だったのだが…

 例えて言うならば…


・ディーネ→お姉さんタイプ、落ち着いていて口調は穏やか、周囲の語気が荒いとなだめようとする

・セピア →明るく活発、能動的でなにか行動の提案をする時のだいたいが彼女による所が多い。

・ルチル →頭脳派で、総合的に3人の意見をまとめようと立ち回る。


 そんな感じに思えてきた。



 ひとしきり話が進み、これからの自分たちの身の振り方をどうしようか…今日でエルヤ―役もしないで済みますしね?とルチルが私に向かって笑顔を向けて「ニコッ」としてくれる。


 その時に「あ…」とまだ彼女たちに伝えていないコトがあったことに思い当たる。


 セピアに目ざとく「今の『あ…』ってなんです?」と、ジト目で見られてしまった。


「あぁ~…イヤ~。あの…ですね」…とだんだん自分の語尾が小さくなっていくのが分かる。


「なんです?そんな言いにくいことを言わずに隠してたんですか?」


「あ、いや、そうじゃなくってね…」とシドロモドロになる自分。


「まぁまぁ、まだ何も聞いていないんだし、ひとまずはお話を聞いてからにしましょう?」 ね?とみんなをうまくなだめてくれるディーネ…さすがお姉さん役



「あのですね…昼間、手紙がきたじゃないですか? あれでですね?その手紙の差出人に会って来たんです。」なぜか敬語になる自分が悲しい。


 自分は床に正座。 エルフさん達はベッドに腰かけているも、それぞれのポーズが全く違う…


 セピアは片足を逆足の上にのせて腕組みをしている。


 ルチルは片肘をヒザに置き、手の平をネコの手みたいにして、その上に顔を乗せて聞いている。


 ディーネは両手を両膝に置いて、前傾姿勢気味で聞いてくれている。


「それで? どんな話だったの?」


「あのですね…新しく見つかった遺跡の調査依頼、というのがあってですね?それを…前金込みでお願いしたいと…言われまして…」


「ま・さ・か…受けてきてなんていないでしょうね? エ・ル・ヤー・さん?」セピアに睨まれた。


「そうですね~、約束では今日1日でエルヤ―演技の日を終わらせ、さっさとこの帝都から姿を消すって話だったように記憶しているんですが~~?」と横目でルチルに流し目をされる。


「まさか受けてきちゃったってことはありませんよねぇ~? そんな偽エルヤ―さんじゃ~ないですよねぇ~?」 うぅぅ、3人でせめられるとつらい…



「あぁ、ハイ…端的に言うと受けてきてしまいました。 やっぱり受ける前に相談した方が良かったですか?」


「当たり前じゃないですか! <伝言メッセージ>の魔法、使えるんですよね?…結論を考える時間をくださいって引き伸ばせばいいことじゃないですか!」


(ハイ、ごもっともです)


「私たちになんの相談もナシに次の依頼を決めちゃうのはどうかと思うんですよねぇ~」(常識的なご意見だと思いますルチルさま)


「その前金ってどれくらいだったんです?」


「えぇ~っと、たしか、200をもらえるって話だったかと…」


「え? 前金をまだもらってはいないんですか?」


「あぁ、ハイ…その遺跡調査の現場に行く際に今日渡された「証明プレート」っていうのを持って行って、前金と交換、そのまま遺跡調査。っていう流れみたいです。」


「そういうことか、なら最悪、か最善か、どちらにしろ、最終的に前金をもらわないでとんずらって手もあるってことね」(セピアさん、言葉遣い、言葉遣い…)


「あのですね…私個人としては…その、どうしようか、迷ってましてですね…」


「「え?なんで?」」とディーネ以外の2人から疑問の声が飛んできた。


「ちょ~~っと事情がありまして…その遺跡に~~入って……、みたい…かなぁ~~~?…なぁ~んて………」といいつつ表情を窺うように上目遣い。


「なにか、言いにくい事情でもあるんですか?」(さりげなく理由を言いやすいように水を向けてくれるディーネさん、ありがとう!)


「え~っとね…前にキミらに話したこと…覚えているかい? ボクの仲間のことを」


「えぇ、ヴェールさんのお仲間さんのお話ですね、覚えてますよ?」


「昔、自分たちがその仲間と一緒に待ち合わせ場所…というか、秘密基地というか…仲間だけの拠点、みたいにしてた場所があったんです。」


「…………」

 3人とも口を挟まずに聞いてくれている。その気持ちはすごくありがたい。


「今回の遺跡調査の依頼では、大まかな事しか聞いていないんだけど…、その拠点にしてた場所とすごく良く似ているんだよ。 違うかもしれないんだけどね」


「そうですか…それで、とりあえず、遺跡の外観だけでも見に行きたい…そう思って思わず受けちゃった、そういう事のようですね」(正解ですルチルさん!)


「でも、その拠点にしてた場所って、ここいら近辺だったんですか?」


「違うはずだったんだ…全く違う…違う世界にあったはずで、ここに来てるはずはないんだけど…本当ならボクもこんな姿でここにいるはずのない存在だからさ…」


「あぁ…、もしかしたら『なにか』の力が働いて、こっちに来たのかも…と?」


「違うとは思うんだけどね…、でも…どうしても「もしかして」って気持ちを捨てきれなくって…」


「そうですか…それなら、お付き合いしましょう」

「ちょっとディーネ? わかってるの? 私達、もぉ『天武』じゃ~ないのよ?」


「わかってるわ、でもヴェールさんは、大丈夫だと、騙し切れると思ってるから、その依頼、受けようと思った。 そうですよね?」


「うん、キミ達には悪いけど、幻影の魔法を使って、幻を身にまとってもらいたいんだ。それで見た目だけは元のドレイにしか見えないエルフ3人組になれる。」


「えぇぇぇ~~~? またアレになるんですか~? せっかく耳も元に戻りましたのに~…」とルチルは残念そうだ…


「平気だよ、本当に耳を切るワケじゃないし、幻でそう見せるだけだよ」


「そういう事なら…いいけど…聞いて欲しい条件があります!それを聞いてくれたらヴェールさんのわがままも付き合います!」とセピア


「な…なに? 叶えられることなら…いいんだけど…」


「シャワー浴びたいです! お風呂入りたいです! 思いっきり時間を気にしないでお湯につかりたいです! たくさん泡立てて身体も洗って、日ごろの垢を落としたいんですぅぅぅ!!!!」


 呆気にとられて、他の2人の方を伺うと、3人そろってこっちに目を向け、ウンウンとうなずいている。


「え?今まで、したことないの?」ポカンとして問いかけると…


「ハイ、今まではアイツの監視下で、ろくな入浴時間ももらえてませんでしたし…ひどい時は4人一緒で、逃げられないように…って名目で、の時も…」


(あれ? 今言い間違えただけだよな? 4人って聞こえたけど…あ、その時はまだもう1人のエルフも居たってことかもな…)


 なんて、実際のエルヤ―の人間性っぷりを余りよく知らない偽エルヤ―はのほほんとそんなことを考えて返答をする。


「そっか、(4人目のエルフさんのことは)大変な想いをしたね…、うん分かった。それじゃ~思いっきりお風呂に入らせてあげよう。」


「「「ホントですか?」」」(3人ともすごい喜びようだ…よっぽどお風呂に飢えていたんだろうなぁ~)


「それじゃそのために、ちゃんとしたお風呂を用意するからさ…ちょっとテレポートするから、ボクにつかまって?」


 そうお願いすると、3人ともが自分にしがみついてくれる。

(…こんないいニオイなのになぁ~…女性ってすごいや、ろくにお風呂入れない環境でもこんなにいいニオイだなんて…これが男なら悪臭でひどくなるのにな…)


「それじゃ、行くよ、<上位転移グレーターテレポーテーション>!」




 そう言って場所を変えると、そこはトブの大森林、想い出深い始まりの場所に来てしまった。


「さぁ着いたよ? ここでお風呂にしよう!」


「え? ここ何もない森じゃないですかぁ!」


「ん? あぁ、これから出すからさ、ちょっと待ってて?」


 懐からコテージ風の模型っぽい小さい小屋を出し、ポイと天空に放る…すると地面に下りる際、いきなり大きくなり一軒家?ってくらいの大きさはある建物に変わってしまった。


「これは<深緑の隠れ家(グリーン・シークレットハウス)>っていってね、この中でなら好きなように過ごしていいよ?それこそ、お風呂にシャワーもあるから好きなだけ入っているといい」


そう言うと…しばらくあっけにとられていたかと思うと…


「もぉ、いまさらですけど、ヴェールさんって何でもありですよね?」 と、あきれられてしまった。



                 ☆☆☆



 さて…と、女性のお風呂は長いというし…しかもずっと待ち焦がれていた久しぶりのお風呂なんだ、思い存分入ってもらうためにもそっとしておいた方がいいだろう。


 一応、お風呂から出る時は<伝言メッセージ>ちょうだいな?と言ってあるので、何かあったら連絡があるだろう、そう思い、さて…その間、何をしていようか?と悩む。


 何をしていようか…とりあえずすることないから「遠隔視ミラー・オブ・リモートビューイング」を取り出し、操作してみる。

(帝都の上空かなり高いところから見てるんだなぁ~…これもっと視点を下ろすにはどうすればいいんだ?)


 え~…っと、こうか?…えい!こうか!! …違うか、それとも、てい! …ダメか~…

(もしかして指でタッチしながら操作とかいうんじゃないだろうな~)


 操作に四苦八苦しながら、両手を前に突き出し、大きなボールでも持ってるようなポーズにして手の間の距離を狭めてみるも…ムダ…


 その手を大きく広げてみる…『ピヨピヨン!』…お? なんかこれで視点を低く出来るみたいだぞ、やり~♪

(それじゃ~差し当たって、帝都の上空から~低空飛行に~…って、あれ?なんか夜空を飛んでるのが居るな、コウモリか? カラス…なわけないか…?)


 手の平を下に向けグゥ~…っとゆっくり下方向に動かしてみると視点がそのまま下方向に移動する…ん?これ、シャドーデーモンか?


 懐かしいなぁ~これ、ユグドラシル時代、空から偵察~とかいうのに使ってたよなぁ~…それにしても、この世界ってシャドーデーモンも夜になると出るモンスターなのか?

(たしかLVは30のチョイ手前くらいだから…難度で表すと、85~88?って感じか? それにしてもけっこう飛んでるな、鏡で見る範囲でも3体は飛んでるぞ?)


 とか見やりつつ、さて、帝都にでも鏡で色々見て回ろうかな~?と思っていると、鏡に映っていたシャドーデーモン達がこちらに降下してくるのを見てしまう。


「あちゃ~…見つかっちゃったかぁ、これって戦闘に入っちゃうムード?」

(まぁLV30弱が3体程度なら、なんとかなるよな~)


「それにしても夜のシャドーデーモンはホントに見えにくい…『夜闇のカラス』とはよく言ったもんだ、カラスじゃないけどさ」


 などと言いつつ、降下してくるのを待って、「さっそく<空斬>でも放ってみるか?」なんて思っていると…


『我らは至高なる御方に仕えし者…、御方の命により迎えに来た、対話がしたいとの仰せである…』


(うわ、これ念話だ…<伝言メッセージ>とも違う感覚だなぁ、そっか~こっちのシャドーデーモンは念じて話すタイプか!これは新しい発見だ!)


『返答はいかに…戦闘は極力避けるようにと言われている、敵対する意思があるや、否や?…く答えよ…』


(あぁ、そうだそうだ、物思いにふけってる場合じゃないよな、話しかけられてる以上、答えなきゃ失礼だ。)


「あぁ、こちらも害を為されないのであれば、敵対する意思はない、その「御方」って人の所にはいつ行けばいい?」


『我らについてくれば良い…空は飛べるか?』


「あぁ、それに関しちゃ問題はない…<飛行フライ>、さて、案内してもらいましょうか?その「御方」とやらの所へ」


(さぁ~って、と…わざわざ迎えに来させて「話がしたい」ってことだし、危険はないだろうけど…一応、唯一の聖遺物級レリック武器を手の中に隠してようか。本当はもう一つあるけど、あれは習熟度が極端に低いし使いにくい武器だからな…)


 できればこの恥ずかしい武器を使わないで済みますように…と、刀身を出さない状態では手の中でなんとか隠せなくはない、という程度の武器の柄を握りしめた。


 内心、誰が、自分に何の用だろう?と…まだ見ぬ、見知らぬ「御方」とは誰?とか思いながらも、そこまで案内されて、その上空までたどり着いた。


「これは…間違いない!! 『ナザリック地下大墳墓』!!!」


『やはり、ご存知でしたか…さぁ、御方がお待ちかねです。さぁ…こちらまで…』


 導かれるまま、何もない空を進んでいると、いきなり景色が変わる…どうやら見てバレないように上空に幻術でも展開しているようだった。


(そう言えば、こんな景色だったっけか?)


 ユグドラシルから離れて、3年か~…ずいぶんなブランクだよなぁ~…PVPになんてなったら、まだ勘も取り戻せてない今じゃ~同水準の相手でも危ないかもな。などと思いながら、建物の中に入る。


 シャドーデーモンの後に着いていくと…、転移の罠などにかからないように、安全な道を通っているのがわかる。

 自前のスキルにより、周囲が罠だらけなのは確かなのだが…その中でもわずかな隙間を確保してくれたように、罠のない道筋はあり、それをひたすらに進む。


 第一階層の地表部から中央霊廟を通り、第二層。第三層と、守護者にも合わないように、最短距離を進んでいく、第5階層の吹雪に対しては上着を準備したが、その時、アイテムボックスに手を突っ込む仕草を見て、シャドーデーモンも何やら彼らなりに得心がいった様子で、彼ら同士で視線を交わし、頷いていた。


 そして、長い長い道程を進んだ先、ここは数えたところ、懐かしの第九階層、さらには目の前に扉…ここって何の部屋だったか…と思っていると、扉は開かれ…中に居た人物が目に入る…豪華な…漆黒のローブを身にまとい…手にはガントレット…顔には…


「ブフォ!!」

(やばい、思わず吹き出してしまった。)


(だっていきなり出迎えで嫉妬マスクなんて被ったまま振り向かれたら、そりゃ~噴き出すでしょ~!?)


 思いっきり噴き出した相手にどういう感情を覚えたのか…その目の前の相手はこう言葉をかけてくる。


「なるほど…さすがにこのマスクのことは知っているようだな…ということはやはりプレイヤーか?」


(うわぁ~…なんかやたら重々しい口調だぞ? でもこの感じ、どこかで……誰だったっけ? あのローブも見覚えあるような…)


「あぁ、ハイ「元プレイヤー」って言った方がいいんでしょうかね? 実に3年ぶりにこのアバターですよ。」


「アバターって言う割に、人間の姿のようですが?」


(冷静な人だなぁ~…そこをつっこんできたかぁ~…)


「えぇ、ハイ…これは仮初めの姿でしてね、いわゆる『世を忍ぶ仮の姿、しかしてその実態は!』ってやつですよ」


「あぁ、懐かしいですね、そのセリフ…よく使ってた人がこのギルドにもいましたよ。」


 少し顔を上に向けて、何か遠くを見るような感じで物思いにふける目の前の人物、そしてそれに応えるように偽エルヤ―はこう返答する。


「ギルド、アインズ・ウール・ゴウン…ですね?」


「えぇ…あなたはそのギルドのことはどの程度ご存知で?」

 仮面の奥で目が光ったような気がした。


「そうですね…懐かしいギルドですよ、私も昔、お世話になってましてね…私が離れてから3年で、このギルドがどういう道を歩んできたか…私にはわかりませんが…」


 自然と顔が下を向いてしまう…申し訳なさと、ここに自分が居て、本当にいいのだろうか?という疑念。


「となると、あなたは『異形種』ということで間違いはない、そういうことですか?」


「えぇ…本当の姿は…こういう感じなのでね、あまり周囲の人を無闇に驚かさないように、人の姿を借りてたんですよ」

 そう言って、元の姿に戻る…かろうじて、人体の構成はしているが、体中、口だらけで…口には牙がビッシリと生えており、ガチガチと噛み鳴らしている。


「なるほど【深淵アビスズ捕食者・ プレデター】でしたか…、そうすると先程の姿は【擬態】のスキルで変えていたようですね。よろしければ、ギルドメンバーだった時のお名前をお尋ねしても?」


「あ、そうでしたね、名前も名乗ってませんでしたか…それは失礼しました。 あ、でもこれはこっちの世界に来て仕様の変わった【捕食】のスキルの延長で、【擬態】じゃ~ないですからね? 擬態でも同じ姿は取れますが…それよりこっちの方が性能が上みたいなので…、それから私はベルリバーって名乗っておりました、私の知ってるメンバーは今いったい何人くらい残っているのか…」


「やはり、ベルリバーさんでしたか…おかえりなさい…ベルリバーさん、ようこそ『ナザリック地下大墳墓』へ…あなたを歓迎します!」


 そう朗らかに語り掛けてくる声を聞いた瞬間…その時初めて気が付いた…そう、あの重々しい声は、PVPをする時によくギルド長が演じていた「魔王ロール」の時の声だったと…


 ゆっくりと嫉妬マスクを外し…素顔をさらした時に見えたのは…なつかしいドクロの顔だった…。


「モモ…ンガ…さん、なんですか? 本物ですか?」 思わず確認してしまう。


 このギルドに最後まで残っていてくれたのだろう…それならばそんな人はこの人しかいないじゃないか…それでも確認せずにはいられない。


「ハイ、ベルリバーさん…ずっと待ってましたよ、私はこっちに来て、もうそろそろ3年になりそうかな?ってくらいですかね?」


 ローブの前を閉めていたのを元に戻し、懐かしいあの輝き…モモンガ玉を見せてくれる。 まちがいなくモモンガさんだ…


「遅くなってすみません…最終日も…ログインしたかったんですが…、襲われて、命を奪われてしまったようでして…気が付いたら、この世界でした。」


 あまりに申し訳ない気分で顔を上げられない私の肩にそっと骨の手を乗せてくれて…「大丈夫ですよ、気にしないでください、こうしてここに居るだけで嬉しいんですから…」


「やっぱりモモンガさんはモモンガさんですね、変わってないようで自分も嬉しいです。」


「イヤ、私は変わりましたよ? 今はモモンガじゃなく「アインズ・ウール・ゴウン」と名乗ってますしね」


「えぇ~~? それじゃ~、アインズさまってことですか?」


 と驚く私に「『さま』はよしてください、『さん』の方でいいですよ。」と笑いながら言ってくれるアインズさん。


「それにしても、どうして私がこの世界に来てるってわかったんです?」

(それがどうしても気になるんだよなぁ~)


「だって、ベルリバーさん、インテリアガチャのアイテム、水晶玉にしてこっちの世界の人に渡したでしょ?」

 いたずらっぽく骨の指を突き付けてくるギルドマスター。


「その水晶玉がうちの傘下の鑑定屋に持ち込まれてですね? それを私が鑑定したら製作者の項目にベルリバーさんの名前があるじゃないですか、それで分かったんですよ。」

 それで、居ても立っても居られなくなって、シャドウデーモンを動員して、探させていたんだそうだ。


「そっかぁ~アルシェちゃんが、私とモ…じゃなかったアインズさんとを引き合わせてくれたってことですね。」


「あぁ、その子「アルシェ」って名前なんですね、憶えておきましょう。今度、その子とも会うことになってるんですよ、ここに招待してるんです。」


「珍しいですね、人間をここに招待するだなんて」


「イヤイヤこっちに来てからはそうでもないですよ? この前、たまたま助けた村娘と、こっちでギルドのためにポーション作成をしてくれてる夫婦を招待してますしね。」


「このギルドもずいぶん開けてきてるってことですね、ワンマン社長、って感じですか?」


 つい、そうからかうように言ってしまい、まずかったか!と思ってしまう。


 今までの会話でギルドメンバーの話題は一度も出ていない…ということは…「ずっと待ってました」 あの言葉の意味は…きっとそういうことなんだろうに…と少し気が重くなっていると…


「そうでもないですよ?デミウルゴスやアルベドもよくやってくれてますからね」 と信じられない言葉が聞こえた…頭の中で何度も反芻する。


「え?それって…NPC…ですよね?」と意味が分からずに尋ねると…



「あぁ、こっちではNPC達は自分の意思を持って動いてるんですよ、設定に沿っていたり製作者の性格を強く引き継いでたりしてますけどね」


 すると嬉しそうにNPCについてもアインズさんは語って聞かせてくれる。

「ホラ、たっちさんのNPCであるセバス…覚えてます? あれとウルベルトさんのデミウルゴス…あの二人って、創造主のプレイヤー同様、水と油なんですよ!」


「え? あの二人のNPC、仲が悪いんですか?」


「ま、時々は衝突していますが、私が「児戯は止めよ!」とか「騒々しい、静かにせよ!」って言えば止めますからね、そこまで深刻じゃありません、それだけじゃなくてですね、ホワイトブリムさんが作成に関わった一般メイド達なんて、そういうクラスがあるわけでもないのに、絵を書いたり、デザインを書かせたり、衣装を選んだりする時、かなり役立ってますよ、ヘロヘロさんが大きく関わった一般メイドの方は細かい作業するの好きだし、ク・ドゥ・グラースさんが関わったメイド達は、裁縫とか、衣装の製作や、メイド達の身に着ける小物なんかを作るのにも彼女らは力を貸すって具合で…、意外な所では、ウルベルトさんの創ったデミウルゴスと、武人建御雷さんの創ったコキュートスは通じるものがあるみたいで、時々Barに行ってみたり、相談とかもできる仲みたいですよ? …まぁ、相談するのは言わずもがな、コキュートスの方が多いみたいですが…、それもそうですよね、創造者は、どっちも「たっちさん」に対抗していた人たちって共通項があったんですし、精神的に近しいものでもあったんじゃないかってオレは思うんですよね。」


 …すごい爆弾発言を聞いてしまった…


 それじゃ~アインズさんが認めてくれても、このギルドを辞めてしまった自分には…、ノコノコ今更顔を出しても彼らは認めてくれないんじゃないだろうか…

(アインズさんと違って、自分はギルドを捨て、NPC達を見限ってしまったようなものだと思われてても可変しく無いんだ…所詮ゲームの世界だからと、軽視してしまった…きっと恨まれてるかもしれない)


「どうしました? ベルリバーさん? そんな驚きました? 私も初めは驚いて強制的に感情を鎮静化させられましたよ」

 話に聞くとアインズさんはアンデッドの特性なのか…感情が激しくなると、抑制されるらしい…食べ物が食べられないことももどかしく思っているということも話してくれた。


 目下、食べ物や飲み物の「味」というものの認識が最近薄れてきてる気がして、そんな自分に不安を覚えているらしい。


(ギルドに戻るに際して、自分に出来ることはなにかないだろうか…??)


 そう考えていると、頭の中で<伝言メッセージ>のコールが響く。

「あ、アインズさん、<伝言メッセージ>が来たみたいです、ちょっと待っててください?」


伝言メッセージ>に出てみると、ルチルが魔法で知らせようと発信してくれたようだ。


『ヴェールさん? 今出て着替えてるところですからね、もぉ少ししたら、戻ってきて大丈夫ですよぉ~♪』

(うん、すごく充実した気持ちでいるようだ、お風呂に入れて相当満足したみたいだな。)


「うん、わかった、そうしたら、キミらもまだ身支度や着替えもあるだろうし、様子を見てそっちに戻るからね、連絡してくれてありがとう。」

 そう言って<伝言メッセージ>を切る。


「すみません、アインズさん、もう少しゆっくり話したかったですが、チームメイトが呼んでるので一旦、戻ります。」


「そうですか…って、え?? ベルリバーさん、なにかチーム組んでるんですか?」


「? えぇ、今ちょっと…ホラ、さっき見せたじゃないですか人間の姿、アイツ帝国のワーカーだったんですけどね? そいつと入れ替わって、ワーカー始めたんです」


「あ、そうだったんですか、それは初耳でしたよ、そっちの冒険譚なんかも今度聞かせてくれませんか?」


 アインズさんも、相当さみしそうだな…そりゃ3年もこのナザリックで自分以外はNPCしかいない環境に居続けてたんじゃ、息も詰まるよな…。



「それはいいですが、まだワーカーになって自分個人は一週間も…どころか5日も経ってませんよ?3日過ぎてるかどうか…って感じですし…といっても、元々のコイツ(と言って、【捕食】スキルの変装技能を使い、エルヤーの姿になる)…の実績があるので、それなりの評価はあるみたいでね、ワーカー1年生からの出発じゃないのには運が良かったなとは思ってますが。」


「正直に言うと、ベルリバーさんにもこっちに復帰してもらいたいって気持ちはあるんですけどね、それじゃ、そっちの方の引継ぎもうまくやって引き際をきっちり終わらせておかなきゃ、世間的にマズいですよね…」


(アインズさん、会社員の時の認識、まだひきずってる感じだな、ギルマスの時から変なところで考え込んだり、悩んだりすることあったから心配だな…。)


「そうですね、今すぐ戻るって言うわけには行きませんが、ちょっと考えてることがあるんですよ、今度、ひょっとしたらこっちの墳墓に遺跡調査で乗り込んでくることになるかもしれません…」


そう言うと「え!!ベルリバーさんがナザリックに攻め込んで来るんですか?それって守護者達が驚きますよ?」と、少しうろたえている。


(なんか変な誤解してそうだから、説明しておこう、お互いこっちの世界でギスギスしたくないしな…。)


「実は、まだ詳しい内容自体を聞いてないので、本当にココになるかはわかりませんが…新しい未発見の遺跡が発見されて、それが墳墓っぽい…って依頼がありましてね、自分も『ひょっとしてナザリックなのか?』って思って居ても立っても居られなかったんですよ、さっきまで…、だから、本当にココになる様だったらちょっとしたイベントも考えてるんです、よかったら時間見つけてこっちにまた顔出したいんで、よかったら相談乗ってくれません?」


「えぇ、いいですよ、その時は多分、困ったことになるかもしれないんで、その為の必要アイテムも用意しておきますから、それよかったら使ってから来てください。」


「困ったこと?」


 ベルリバーは頭をひねる、何かそんな大それたことになるだろうか…と。


「実は、NPC達ってギルメンの気配って、感覚で…というか、オーラみたいなものを天然で感知してわかっちゃうみたいなんですよね、距離が離れてても…なので、今もこの部屋の護衛をさせるNPCには「中のことは大丈夫だ、様子を探ることも絶対してはならん!」って厳命して扉の外に居てもらってるんです。」


「アインズさんも大変ですね…ボクも早いトコ「モモンガさん」じゃなく「アインズさん呼び」に慣れておかないとイケませんね…練習しておきましょう。」


「それでは、またしばしのお別れですね、『今回はログインが遠のく』なんて事象は起こらないと思うので、そこは安心ですが…くれぐれも気を付けてくださいね。」


「えぇ。もちろん…せっかくこんな素晴らしい世界に来られたんです、死んだりしたら、それこそもったいないですよ、まだまだ夜空も昼の空も、見足りないですからね。」


「あぁ、わかります、こっちの夜空、キレイですよね…ブループラネットさんにも見せたかったですよね?」


「あ、ボクも、それ、同じこと思いました! やっぱりそっちに考え行っちゃいますよね」


 そう二人で言い合い、ひとしきり笑った後、モモンガさんが名残惜しげにこう切り出してきた。


「すみません、引き留めちゃって、メンバーさん達が待ってらっしゃるんでしたよね、早く帰らないと心配させてしまっても悪いです、それではまた…ベルリバーさん。」


「えぇ、またです、モモ…じゃなかった、アインズさん…、ダメですね、とっさになると言いそうになっちゃって、やっぱり練習が必要だってことですね。」



「また来てくれますよね? ベルリバーさん」

(少し寂しそうだ、やっぱりメンバーがいないと同じ立場で色々吐き出せる相手が居ないんだろうなぁ~)


「大丈夫ですよ、また近いうちに顔出しますから、もうあの巨大複合企業にこき使われたり悩まされることもないんですし…こっちの生活を満喫させてもらいますよ。」

 

「それはいいですね、自分も時々、冒険者として活動する日もあるんです、ユグドラシルと違って、夢のない仕事内容ですが…外に出て、自然を見て肌で感じるだけでも新鮮で違いますからね、私もそれには同感です。」 


「まぁ、とりあえず、さっき言ったイベントは守護者たちには今はナイショにしといてください、サプライズとして驚かせたくありませんか? ビッグイベントってやつです!」


「あ、それ、いいかもしれませんねぇ~、私も1枚かませてください」

(アインズさんも乗り気っぽいな、よかった、これでこのギルドに戻れるのをNPCのみんなに認めさせることができれば…)


「もちろんですよ、アインズさんの協力ナシじゃ、このイベントは成り立ちませんからね、この世界に来て初めての「ギルドイベント」って事ですね、楽しみにしてますよ?ギルドマスター?」


「任せてくださいよ、ベルリバーさん!」


 そう言ってがっちり握手を交わしたあと「また後で」という言葉を残し、ナザリックを出た。


 アインズさんに勧められ、扉から出て、NPC達に見られないように…という気遣いで窓から外に<飛行フライ>で飛び立つ。

 そして飛行しながら<上位転移グレーターテレポーテーション>でコテージまで戻り、エルフたちのもとに戻ると…コテージへと入る…そして、湯上りの彼女たちに迎えられ、夜を明かすことになる。


 結局居心地がよく、宿屋には戻らずにここに泊まってしまうことになった一同の夜がそのまま、ふけていくのであった。


 ベルリバーはそんな中でも1人、物思いに浸っていた。

 かつての拠点ホームだった場所とはいえ、身分を隠して行く以上、ある程度の身の危険は覚悟しておくべきだ…守護者や領域守護者とかでない限り、自分であればそう難しくもないが…もし、彼女たちの身に…ということを考えると、どうしても、レベルアップは必要となるな…どこでそれをするか…。


 それに…自分は、守護者のみんなにどう思われているのか…最後まで残っていたアインズさんは快く思われているだろうが…

 今も、ギルドに名前は残しているとはいえ…ずっと現れることのなくなったギルメン…、もしかすると、相応の代償を払う必要はあるかもしれない…。


 自分が傷付くこと自体はそれほど大変なことじゃない、耐えられる…。


 だが、エルフの3人に矛先が向くことだけは…と思いつつ、ふと、とあるコトを思い出す。


 そういえば、NPC達のカルマ値って、8割以上がマイナスとかじゃなかったか?

…と

(普通に、凶悪とか極悪とかがゴロゴロ居たような…)


 もし、自分が恨まれてて、「彼女たちだけは…」なんて口走ろうものなら…


「それは丁度いい、それなら私たちの今までの苦しみを彼女たちの痛みを通して、貴方にも、その心の痛み、しっかり感じ取ってもらいましょうか?」と言い出す悪魔の姿を幻想する…ありえそうで怖い…。


 と中々寝付けない至高の御方の1人がベッドに…左右をエルフの娘たちに挟まれながら悩ましい夜を過ごすことになるのだった。



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 今回のお話でアインズ様がジエット君に<伝言メッセージ>でアルシェの招待を申し入れた、という流れのお話運びだったのですが…。


 ベルリバーの情報を得ようと画策するあまり、結局、居ても立っても居られなくなり、呼び出したシャドーデーモンを10体動員して、帝都から半径10kmの範囲を探させていた。

 というのがベルリバーの前にシャドーデーモンが現れた経緯です。


 それで見つからなかったら、素直にアルシェに話を聞いて…ってことにしようかと思ってたみたいですが、あっさり見つかってしまいましたね、ベルリバーさん…


 見つかって経緯は、ユグドラシル由来のマジックアイテムを森の中で堂々と展開していたため、あっさり「プレイヤー」認定されたから…ってことです。



 よほど、嬉しかったのか、わりと早い段階から精神抑制を連続発動させる勢いでひたすら冷静っぽく振る舞ってますが、アインズさんの脳内では内心「ヒャッハ~♪」状態だったりしています。


 さてさて、ワーカー連中はどんな運命が待っているのやら…ですね。

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