第20話 潜入!ナザリック(アルベドの謹慎解除)

さてさて、いよいよベルリバーさん、いよいよNPC達の動く様子を直に見る機会に

恵まれるワケですが…


はたして、どうなることやら…


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 ナザリックからの馬車と言えば、すっかりスレイプニールで引くというのが当たり前の光景。


 世間ではそういう認識なのだが、それ以前に「おとなしめにランクを落とした」という内情を知る人は居ない。


 ナザリックという組織の名前はごく一部にしか知られていないので、若しくはたまたま成功しただけの「成り上がりの凡暗」が粋がっているという認識を持つものも「王国」では少なくない数の貴族達はそう思っているだろうが、帝国では少し事情が違う。

 そもそもは「イプシロン商会」という存在が、帝国で知名度を上げている頃、帝国の皇帝もその破竹の勢いに、秘書官からその名前を知る事になる。


 その為、概略だけでもいいから…と、部下に調べさせたはいいが…肝心の知りたい事が全く入手できないのだ。


曰く、執事の老紳士が丁寧な物腰であるにも関わらず、得体の知れない貫禄がある。


曰く、商会の創始者である者の娘が表に出て来て、交渉をする事はあるが、本当に上の立場の者としか顔を合わせない…しかし絶世の美女と言う噂。


曰く、気分屋で…素行が悪いというより、上品ではあるが我慢という言葉をどこかに置いてきたらしい、という評判。


曰く、創始者の存在は噂されている者の、誰もその姿を見た者は居ないという謎めいた商会。


 それらの話が相まって、皇帝自身も警戒はしているが、表立って騒ぎを起こすわけでも、違法な商売をしているわけでもないという証拠もあるのだから、必要以上に手を出す事もあるまい、と判断しているせいもあって、「皇帝も黙認している」という

背景はかなりのアドバンテージを有していると言える。


 そういう世間の風評もあって、「名うての大商人」レベルだと人々からは思われている。


 その上、皇帝…というより帝国にとっての切り札である魔法詠唱者マジックキャスター、皇帝から「爺」と呼ばれるほど近しい人物であった大陸でも屈指の「宮廷首席魔導士」、その人が、影でその組織の露払い役として、名前を貸しているという噂もまことしやかに囁かれている面もある、そのためにスレイプニールを所有しているというその事実がその信憑性に拍車をかけている。


 というのは表向きの話で、実際は一般向けにレベルを落として、やっとスレイプニールに落ち着いた、というのが真相だ。

 しかし周りの者達が勝手にイプシロン商会とスレイプニールを連れている馬車(もちろん家柄の紋章付きで、イプシロン商会の看板は全く違うので、本来は誰も間違えようはないのだが…)を結び付けて考えているだけなのだが…、そもそも帝国の中では貴族という存在は王国程の権力はない。


 今の皇帝がもっと若いころ、即位してすぐにおこなった「血の粛清」と言われた唐突の政策により、貴族たちの力は失墜、経済力もかなり制限されている。


 そんな帝国のご時世で、大手を振ってスレイプニールを出してくる家など、相当の考えなしか、身の程…というより怖いもの知らず、という認識がある。


 そんな中で、平然とそれを持ち出してくる家があるとすれば、その「イプシロン商会」しかあるまい、と民衆が思うのも仕方ない事だろう。


 ただ、それでもナザリックに所属する者達にとって、スレイプニールなど、吹けば飛んで行ってしまう程度の存在でしかない、なので最初こそ「もっと強いシモベを」とか「我々が護衛を」というシモベも多かったのだが、ソリュシャンからの報告ではスレイプニール自体はこの土地では「成功した金持ちの象徴」らしいという証言を聞いて、今は鳴りを潜めた。


 基本的に彼らの、そういう価値基準がこの「異世界の常識」とかなりかけ離れている部分なのだが、そこは当人たちは全く気付くこともなく…それ故に、気づかない内に名声も高まり今では「大貴族以上のお金持ち」という認識につながる一助になっていることなど、もちろん知る由もない。



 アインズ基準からすれば「いつどんな時に襲われても対処できるように」という意味でソウルイーターで馬車を引かせたいという思い入れはあるのだが、そんなことをするととにかく周囲が大パニックになるのが目に見えるようだとンフィーレアやジエットにも止められているので、仕方なくスレイプニールで我慢しているというのが実情なのだ…もちろん血まみれの将軍さま(今はまだ族長様ではあるが…)にも止められているというのもあるのだが…


 そんな想いに気づくこともない一行は、馬車内で揺られ、招待された場所となる会場に向かっているところであった。


「ジエット君…もう驚きすぎて、感想も出てこない。」


 スレイプニールなんていうのは飼い葉だけでも普通の馬の数倍、気性も荒く…戦闘能力も高い、スレイプニール一頭を買う金額でどれだけの魔法スキル持ちの希少ドレイが買えるだろう?っていうくらいの基準なのだ、一頭持ってるだけで「下手な大貴族以上の裕福さ」を意味してることにもなる。

 そんなのをただの送迎に使うという…その時点で、きっと所持しているのはこれ一頭だけではないのだろうという想像は容易にできてしまう。


 そんな風に思っているアルシェに比べ、初めてこんな豪華な馬車に乗る小さな子供達からすれば、よくわからないが足がいっぱいある馬で外を疾走する度に、流れるように景色が過ぎていくのだ、それはひどく新鮮に映ったのだろう。

「ク~デリカぁ、すごいよぉ~…ぴゅぅ~~って、すごいはやさでまわりがとおりすぎてくよぉ~。」

「ホントだねぇ~ウレイリカ~…こんなのはじめてみたぁ~、すごぉ~い。」


 喜んでいる妹たちが居てくれるだけで、この驚きも少しは和らぐというものだけど…

(そういえばこの子達は外の世界に出て、見て回るのは初めてだっけ…うちは金貸しの連中に最初の借金の時に馬車と馬を取り上げられたもんな…)


 金貸しの者達からすれば、一番避けたいのは借りたまま踏み倒され、夜逃げされることである。それの防止策として、万一の担保として「馬全部と馬車」を持っていかれてしまったのである。

 馬車を買い戻させないように「貴族としてのたしなみでございますよ?」との甘言によって、〝掘り出し物〟と称しては借金の額を増やさせるためだけに売りつけに来る関連の業者が訪ねてくる機会が増えた。


 そのため遠くに出かけるという手段が奪われ、逃げることもできず、妹たち二人は家から見える景色が外の情報の全て…物心ついてから初めて「外に出て遊んできなさい」と言われて、喜び勇んで帝都の街並みに駆け出してみれば…危うく人さらいに連れ去られる寸前だったという不幸中の幸いにヴェールさんと会えてなかったらどうなっていたのか…アルシェは喜んで景色に夢中になっている妹たちを見ながら、本当にこの子達だけでも無事でよかったとムネをなでおろしていた。



それにしてもますますジエット君の主人という存在の規模が分からなくなってくる。


「そう言えばジエット君、前から聞きたかったことがある…」


 馬車に乗ってからすぐにネックレスの効果を解除して、今はドレス姿に戻っている妹たち、そしてアルシェも同様にドレス姿だ。


 ちょうどいいし…と、この機会に聞いてなかったことを質問してみることにする。

 

「ん?なんです?アルシェさん」


「そっちの方の目、もう眼帯してなくても大丈夫になってるの? そのメガネは鑑定用だよね?」


「あぁ、そういえば、その話はまだしてませんでしたか…前に、このメガネのレンズは左右で違う効果が封じられてるってことは言いましたよね?」


「うん、それは聞いた、それと関係が?」


「眼帯をせずに、家でもずっとメガネをかけっぱなしな理由は、簡単ですよ、そっちの目の方のレンズでタレントの効果を消してくれているからです。」


「えぇ? それは初耳…」


「話によると、レンズ自体に〔視線からのあらゆる効果の完全無効化〕っていうクリスタル?だかなんだかを当て込んだらしいです。」


「主いわく、【魔眼殺しのメガネ】だそうですよ」


 もちろん名付け親はアインズではない…ギルドメンバー達から、かつての頃より「ネーミングセンスが壊滅的」と言われていたのは伊達ではない。


 という程度の自覚はあったので、守護者たちにもメガネの名前を1人一案ずつ出してもらったのだ、結果、マーレからの案が採用され「魔法的な眼の効果を殺すメガネ」という意味で【魔眼殺しのメガネ】となったのだ。


 ちなみに本来はギガントバジリスクやカトブレパス、メデューサなどのモンスターが持つ視線攻撃から身を護るために使う為のモノなのだが…タレントにも有用なのでは?と進言したのはアウラであった。

 要するに、結局のところ、守護者の姉弟合作での一品という偶然の産物がこれである。


 ジエット自身にはそのことは伝えられていないが、アウラとマーレは至高の主人に手放しに褒められ、頭をなでられたりもしてもらえたのでそこで充分に満足し、完結している。


「それで、そのメガネを寝る時以外はずっと外さない?」


「まぁね、これがないと見なくていいものを見てしまったり、逆に見られたくないって思ってる人の秘密を知りたくもないのに知ってしまった時の気まずさ?って言えばいいのかな?それを味わう心配がなくなったのは何よりうれしいよ、長年の悩みを解決してくれた主人のために自分が尽くすこと…それがなによりの恩返しなのさ。」


「ジエット君の成長もそこで?」


「多分ね、少し家庭教師的なことを主…当時は同級生の時もあったけど…のとこに行って「勉強会」と称して足しげく通ってたから…。それで人に教えたり、うまく説明したりする技能はあがったみたいだよ、香辛料もむこうで割と作らされたりもしたからね、あそこの料理長とはもう顔見知りだし、そのおかげで生活魔法の<小型空間ポケットスペース>を覚えられるまでにはなれたしね」

(変なドレイの首輪みたいなのを香辛料を作る時はいつも着けさせられてたけど、あれはなんだったんだろうか…)


「一度舐めた香辛料と同じものを見知らぬ素材でもそのまま作れるっていうのはタレントじゃないにしても、ある意味すごい特技、ジエット君」


「調味料とかがなくなりそうなときには資金の節約になって家計的には役立って助かるかな?」

 と冗談のように笑う。


『それじゃ~、その時にそのギルドマークを目にする機会があって、あのペンダントの意味を理解することができたんだね?』


 ヴェール自身は同じ馬車に乗り合わせてはいるが誰にもバレないようにと姿を消しているので、声を出すことは自殺行為に近いという認識の元、<伝言メッセージ>ごしでの会話をしている。

 この魔法なら、軽い小声でも普通なら聞こえないようなささやき声程度も充分な音量に調節された上で耳元でクリアに聞こえるため、こういう時は重宝している。


「まぁ、そうですね、あれが『身分証明』だなんて言われて見せられたらそりゃ驚きました。」

 この言葉もささやいた程度なのでアルシェには聞こえていない。


『彼女がワーカーを引退したら、誘うつもりはないのかい? あそこなら何があっても安全だと思うんだが…』


「それはそうでしょうね…でもそれは彼女が引退をしてから、話をしてみるつもりです。」


『そうか、それならその時までなんとか守らないとな…ひょっとしたら何かで気に入ってくれるかもしれないしな、あの人あれでレアなものは全般的に大好きだから』


「主のことですか?」


『うん、そうだね、彼が気に入れば、なにがあろうと庇護下に入って損は無いよ、キミならわかるだろう?』


「……………」


「急に黙って、なにかあった?ジエット君」

「あぁ、なんでもないよアルシェさん、ちょっとね。考え事してたものだから…」


 そういう話をしていると、走っていた馬車が速度を落とし、ゆっくりと止まる。


 それと共に御者であったセバスチャンが馬車のドアを開け、声を掛けた。


「それでは皆様、到着いたしました、こちらが本日の会場になっております。 どうぞ、こちらへ…」


 馬車から外に下りるとそこは木々に囲まれた…まるでそこだけがポッカリと切り抜かれたような広大な平地があり、もともとは森林の中だったのだろう場所に、高くそびえたつ塔のようなものが建っている。

 そしてその塔の周辺にはまだ建設途中なのか、広く周囲を取り巻くように金属の細い線を細かく組み合わせたような壁で仕切られた区画がある。


 ふとそのそびえたつ塔から手前、自分たちの近くにある建物に目を向けると、ジエット君の家と(外見としては)同じくらいの建物が立っており、その扉の前には2人の女性が立っていて、こちらに歩き始めようとしていた。


 片方の女性は夜会巻きというのだろうか?艶やかな黒髪を後頭部の上の方で丸めてまとめてくくってあり、見た目より落ちついた女性に見えメガネをしていることもあり、知的な印象を感じさせる。

 もう1人は長く赤い髪…後ろで2つに分け、それを三つ編みに束ねたような髪型、快活そうな褐色の肌に深くスリットの入ったスカートは、動きやすさを重視しているのか、スラリと伸びた脚は無駄な肉のない野生の動物の機能美じみた感想を抱かせる。


「ようこそお出でくださいました、ジエット様、そしてアルシェ様とクーデリカ様、ウレイリカ様、本日ご案内役を仰せつかりました、ユリ・アルファと申します。」

 と黒髪の女性が来訪のねぎらいを言葉にし…

「同じく、私はルプスレギナ・ベータと申します。」



(おぉぉ!! 来た来たぁ、ホントに動いてるよぉ~! しかもしゃべってるよぉぉ! ユリは覚えてたけど、そっか、ベータ…お前って「ルプスレギナ」なんて名前だったのかぁ…覚えたぞ。うんもう忘れない。)

 アルシェの影となるようについてきたベルリバーが姿を消しながら、心の中で感動の叫びをあげるという器用なことをしていることは、この場の誰にもバレてはいないため、盛大に…しかも素直に感動を表している。


(ユリはやまいこさんの現身うつしみみたいなものだから、格闘系の構成だったのは覚えてるんだけどなぁ~…ルプスレギナって、どんな構成だったっけか?…)

 などと、口元に手を当てて考え込んでみても、一向に思い出せなかったので「まぁ、いっか」と切り替え、機会があればアインズさんに聞いてみよう、と結論付けて、アルシェの後ろを目立たずに追随する。



「本日、我が主人は新しく建設中の館の途中経過の内見に来ているため、このような場所にての歓迎となってしまいますが、改めてこちらの転送小屋から直接、主のいらっしゃる本宅までご案内するよう言われております。」


「転送小屋?」

 初めて聞く単語に疑問をつい口にしてしまったアルシェ、本人は疑問ではなく、単純に聞きなれない言葉を復唱しただけのつもりであったのだが…


「ハイ、今みなさまの目の前にあるこの小さめの建物の扉を開けると、本宅に通じる転送魔法が発動する仕組みになっております。見た目は大きく口を開けた闇の顎(あぎと)のように見えますが、わたくし共が先導いたしますので、どうかご心配なさらず…」

 そう言い、「こちらへどうぞ」と促すような素振りで動き出したので、こちらもそれについていこうとすると、ウレイリカが後ろに隠れたまま、スカートをしっかりと握りしめて目の前の2人の女性をビクビクしながら見ている…どうしたというのだろう? 彼女たちからは見た感じ…魔力の波動は感じないけれど…。


 そう思っていると「あの赤いお姉ちゃん、なぁに?お姉さま、びゅぅぅびゅぅぅ、ごぉごぉしててビカビカしてるよ?あれなぁに?」


 瞬間的にそれを理解してしまった。

 この子のタレントに…そして、恐らく内容は同じだとは思うが、自分とは見ているソレがきっと違う種類の波動であろうということも…


「あの…失礼ですが、ルプス…レギナ様、でしたか? あの…いいでしょうか?」

 どうしても妹の素質を確かめてみたく、つい言葉を投げかけてしまった。


「はい? 私でしょうか…なんでしょう?」


「あの…もしかして、なにかの魔法を修められてます?」


「……へぇ、よくお気づきになりましたね。あなたの『眼』の力ですか?」

 初めに見た時の印象よりもずっと…どう言ったらいいのか、例えるなら目の前に野獣がいて、値踏みでもされてるような感覚に襲われる。



「こら、おやめなさいな、お客さまを怯えさせてどうするんです。」

 そう言って黒髪の女性、ユリさんと言っただろうか…その人が、首の後ろをつかみ、前に倒して謝罪でもさせてるような姿勢を強引にとらせている。


「ユリねぇ、なにするっすか? 別になんにもしてないじゃないっすかぁ~!」


「明らかにアルシェさんも、妹さんたちも怯えていたでしょう? 咎めはしませんが、その癖、少し抑えることを覚えなさい? 申し訳ありませんアルシェ様、ルプスレギナが失礼なことを…」


 慌てて、手を振り、かろうじてそれに対して返事を返す。

「あぁ、大丈夫です、そんなことされなくても…私が急な質問をしたのがいけない……ので。」


「そう言ってもらえると、こちらとしても助かります、来賓に失礼をした…などという事になれば主から叱られてしまいますので…わかりますね?ルプスレギナ…」


 そう言い、赤毛の…ルプスレギナさんを見た時のユリさんの目は。どことなく帝国学院時代の、魔道教員の教官を思い出す。 雰囲気からしてメイド長っぽい感じだから、それでなのかな?とアルシェもそう結論付けるしかなかった。


「はい…すみませんでした」

 しおれるように頭を下げて、謝罪を口にするルプスレギナさんに「気にしてない」という言葉をなんとか口にすることができ、転送小屋の方にまで一緒に歩いてくれる道中、ユリさんが話してくれた。


「うちのルプスレギナはこう見えて神官なのですよ? クレリックというよりプリーステスと言った方が通りはいいでしょうか?司祭長ハイエロファントの方も少々心得があるのです。」



(あぁぁ! そうか、そういや「バトルクレリック」とかだったっけか?そう言われれば、そんな風にあの人は獣王メコン川さんと一緒に相談とかして、色々設定してたような気がするな…思い出してみると、だんだん懐かしくなって来たぞ。)

 会話の中でピンとくるものを感じ、ようやくルプスレギナの構成の片鱗を思い出す。

 しかし、やはりそれ以上は思い出せず、性格の設定などもギルマスと製作者でないと基本、覗いたりするのはマナー違反だよな…という認識が(ギルドではなく個人の性格として)強かったために、アインズ程はベルリバーはNPC達には詳しくなく、ルプスレギナの人となりなどは全くわかっていないのである。


「えぇぇ? そんな…すごい人だったなんて…私の方こそ失礼なこと…」

 アルシェがひたすら恐縮していると


「いいんですよ、私も驚いただけなので、怖がらせる気はなかったという事だけでもわかってくれれば…」

(さっきの一瞬だけ変わった口調とこっち、どっちが素の口調なんだろう…きっとさっきの方が素の話し方なんだろうな…)


「見た所、アルシェ様というより、そちらの妹さんの方がお気づきになったようですね、聡明な妹さんをお持ちで羨ましいです。」

 そう言いながら、見とれるような笑顔を妹に向けてくれ、妹もその笑顔には安心できたようだ。


「ユリお姉さんにはそういうのみえないから、こわくないよ? お姉さまもやさしいけど、ユリお姉さんもすごくやさしそう。」

「うん、ユリお姉さんはすごくやさしい人~、でもせんせいをするときのユリお姉さんは人がかわりそうだねぇ」


 無邪気に笑いかけながら話しているが、ウレイの次に言ったクーデの発言が少し気にはなったが…2人とも少しは緊張がほぐれてきたようだ。

(ウレイは「信仰系」の魔力が見える子だったのね…気を付けるようにあとで言っておかないと…)


 クーデを見ると、普通にしているようにしか見えないが…さっきのウレイの言葉をどう思ったのだろうか?後で聞いてみよう。

(もしかして、この子も違うものが見えているのでは…)

 そんなことを考えていると、扉の前まで到着してしまった。


「それでは、準備の方はよろしいですか?」

 こちらを向いたまま、後ろ手にドアノブへと手をかけ、少しカチャカチャと音をさせている。こちらの心の準備が済むまで待ってくれてるのだろうか?


「ハイ、大丈夫です、よろしくお願いします。」

 そう言うと、その返事を待っていたようにドアノブをひねり、カチャ…と少し扉を開く仕草をする。


 少しだけ開いた扉の隙間から、一瞬スカートが大きく膨らんだ漆黒のボールガウン姿の少女を幻視したような気がするが、「え?」と思うより前に、目の前を漆黒の空間が覆ってしまう。

 扉全体が闇に通じる入口になってしまったかのような変わりように一瞬気圧されるも、ジエット君にギュッと手を握ってもらい、少し気持ちを強くすることができた。


「それでは参りますので、遅れずに着いてきてくださいね?」


 そう言って、彼女たち、案内役の2人はなんのためらいもなく、すぅ~っと中に入っていく。

 ジエット君も来たことがあるのか「大丈夫だよ」と笑顔で手を引いてくれる。

 クーデもウレイも少し迷ってる風だったが、「この扉の向こうにはおとぎの世界が広がってるんだよ?」とジエット君が言うと、「それほんとう??」と喜色満面になった妹たちは現金にも私を引っ張るように中へと突っ込んで行った。



                 ☆☆☆



 闇を抜けるとそこは確かに壮大な景色であった。

 闇の中を抜けたかと思えば目の前に玉座に腰かけた仮面の男性?のような大柄の人が闇のような漆黒のローブを纏っている。


 その人の両脇から、こちらに向かって左右に整列して並び、それぞれ20人ずつくらいだろうか? それぞれ美しいメイドさんたちが整然と並び「いらっしゃいませ、ようこそお出でくださいました。」と、一糸乱れぬと言うにふさわしい程に声をそろえて歓迎の意を示してくれた。


 周りを見まわすと豪華などという言葉で済ませていいのだろうか?というくらいの景色。

 天井は高く、自分があと何十人肩車をすれば天井に手が届くのだろうかというくらいどれほど上にあるかわからないほどの場所に、シャンデリアが輝いている、それぞれに光を放っており、それが魔法的な…<永続光コンティニュアルライト>なのか、それともアイテム由来の光なのか…遠すぎてアルシェにもよくわからない。 それが等間隔でいくつも設置されているのだ。


 天井だけではなく、下を見れば、赤い絨毯が通路の中央を玉座にまで届かせており、まるで草原の上でも歩いているかのように柔らかな感触である。

 絨毯の下には白亜の床が全体に渡って見渡す限り敷き詰められ、チリ一つ落ちていない。


 まさにジエット君の言っていた通り、まるで「おとぎの世界」にでも迷い込んだかのような感覚に満たされてしまう。


 ぼぉ~っとその光景に意識を奪われていると、不意にクーデとウレイの手が離れ、急に走り出してしまう。 急速に現実に帰り「こら、クーデ、ウレイ、走り回ると危ない、それに失礼!?」と声を掛けるもすでに聞こえていないようだ。


「すごぉ~~~い、すごい、すごい、すごぉぉぉ~~~い」

「キラキラ~、ピカピカ~、ひろぉ~い、大きい~~、たかぁ~~い。」


 左右にそびえる大人が5人くらい手を広げて、やっと外周を囲めるかどうか、という太い柱と柱の間をSの字を描くように、ウレイは右、クーデは左側を駆け抜け、玉座に座る「王」と呼んでも差し支えないほどの人に左右から飛びつくように抱きついて縋りついてしまった。


「すごぉ~い、こんなのすごすぎて、すてき~~~」

「うん、わたしも、ビックリした~、おとぎのお話のお城みた~い」


 そう2人がさも、物語の登場人物に語り掛けているかのような満面の笑顔を浮かべている中、ようやく私は、その玉座の手前までたどり着き、謝罪の言葉を口にする。


「妹2人が申しわけない、この壮大な景色に魅入られ、自制を失ってしまったようで…失礼の段、お許しを。」

「すみません、主(あるじ)よ、とっさのことに止められませんでした。」と、ジエット君も共に謝意を口にしてくれる。


「んん? いや? 別に不快ではないぞ? 我が家をここまで褒められて、失礼だと思う訳はなかろう? それにこのことを失礼だというなら、この子達をこんな気分にさせてしまった私にもその責任はあるだろう? だから何も気にすることはない。…しかし、そうか?そんなにここはすごいか?」

ウレイと、クーデの頭を優し気になでながら語り掛けるその男性。


「うん、すごい! これは…えぇぇ~~と、お兄さんがぜんぶつくられたのですか?」


「あぁ、すまないね、まだ名前を名乗っていなかったか、私は「アインズ・ウール・ゴウン」という、気軽にアインズさんとでも呼んでくれてかまわないよ? あっはっははははは」


「えぇ~っと、それじゃ~ゴウンさまが?」


「あっはははは、あぁその通りだ…、いや、違うな、これは私と…そして私の仲間たちと共に造り上げた大切な場所なんだ。 すごいだろ?私の住む場所は。」


「うん、すごぉ~いゴウンさま、すごぉ~い」

「うん、ゴウンさまもゴウンさまのおなかまの人たちもすごぉ~い」


「あっはははははは、あぁ~っはははははは」

(アインズさん、すごい嬉しそうだな、ユグドラシルでもあんな風に笑ったとこみたことなかったぞ?)


 ひっそりと後ろから着いてきていた「ヴェール」ことベルリバーは、アインズのあまりの喜びように逆に驚きすぎていた。

 当然だが、入った瞬間のメイドたちの「ようこそお出でくださいました」にも驚いたが…もちろんあんなプログラムされてなかったよな?が最初の感想である。


(それにしても一般メイドまで、みんな自立してるんだなぁ~…もぉ、「そういうもの」って飲み込んじゃうしかないね、こりゃ…)



「ところでどうかね? そんなに気に入ってくれたのなら、私たちが造り上げたこの家を一緒に見て回らないかね?」


「「うん、みてみたぁ~~い、いえ、みてみたいですぅ」」


 2人して一緒に同じことを言ってしまっていた。


「あっはははは、そうか…ならば色々と見せてあげよう、すまないね、そういうわけだから、この妹さんたちを借りて行こうと思うのだが、よかったら一緒に来るかね?」

(そうだ、妹達になにかあったら私が護らないと…)


 そう思い、「もちろんです」と言おうとした矢先、ジエット君に繋いでいた手を引き戻され先に返事をされてしまう。


「いえ、アインズ様、もはや名を名乗られたので、この場では「主(あるじ)」ではなくアインズ様と呼ばせていただきますが…私ども2人はここでアインズ様のお帰りを待たせてもらおうと思っております。」


「んん? そうかね? それではこの子達の身の安全は、このナザリックに於いては何の心配もないということを我が名を持って保障しよう。安心して待たれるがよい。」


「あ、そうだ、あの機能を切っておかなければ」

 そう言って、いきなり空中からなにかの操作盤のようなものを出して、ポチポチと操作している。


「うむ、これでいいな。それでは、まずは一番煌びやかなところを見せてあげよう。 それでは、メイド達は、この客人のお二方を丁重におもてなしするように。」


 そう言い残すと、さっそうと、妹たちをそれぞれの肩に乗せ、悠々と部屋から出て行ってしまった。

 アインズ様という方が部屋から出ていく寸前に<伝言メッセージ>でヴェールさんから念のために着いていってくれると言ってくれたので、安心して任せることにした。



                ☆☆☆



「ねぇ~ねぇ~、ゴウンさま? 一番キラキラしてるところってどんなところですか?」

「わたしもきになるぅ、どんなところなんですかぁ~?」


「ははは、そんなに気になるか?まぁ、それよりもせっかく玉座の間から外に出たのだ、このドーム状の部屋の天井を見てごらん?」


「「ふわぁぁ~~~」」

 2人とも天井を見上げた瞬間に感動して、ため息しか出ないようである。


「ねぇ、ねぇ、ゴウンさま、あれ、なんですか? あの4つの色のおっきなキレイな玉~。」

「ねぇねぇ、ウレイ? あれ、みんな白くひかってるよぉ?あおもあかもみんなしろくひかってるぅ」


「どうだ?凄いだろう?これらもみんな仲間たちと共に造り上げ、あそこに…まぁ天井のもそうだが、壁にある彫像も全て、皆で作ったものだ。それに私が命令すれば動き出すんだぞ?」


「えぇぇ? あれみんなですかぁ~?全部ですかぁ~?」

「すぅごぉ~~い、みてみたぁ~い、うごくんですか?ホントですか?」


「あぁ、ホントだとも『目覚めよ!レメゲトンの悪魔たちよ!!』」

 アインズがそう高らかに宣言すると、周囲に居た67体の彫像たちは一斉に動き出し、アインズの前に跪き、礼をとる。


「わぁぁ、すごぉ~~い、ホントだぁぁ~」

「うごいたぁ~、おじぎしてるぅぅ、ゴウンさまってすごぉ~~い」


「あっははははは、そうか、気に入ってくれたかね? 見た目は怖いが、私の言う事には従ってくれるいい子達なんだぞ?」


「ゴウンさまって、なんでもできるんですねぇ~、すごぉ~い」


「ん? そんな事はないぞ?私にだって、夢にまで見る『こうだったらいい、ああだったなら』というのはあるのだよ?もぉ、それはきっと叶わないことだろうがね。」


(ゴウンさま、なんかさみしそう…なにがあったんだろう…)

「ゴウンさま?」


 クーデリカの言葉にアインズはハッとして我に返る、そして自分が少しの間でもこの子達から気を逸らしてたことを申し訳なく思う。


「あぁ、なんでもないんだよ。 少しな…少しだけ昔を思い出してしまっていたのだよ」


「おなかまさんたちのことですか?」


「ん~、クーデリカは頭がいいな、それとも仮面ごしでも私の気持ちがわかってくれるのかな?」


「ん~~~~…なんとなく、そうおもったんです。私もよくわからないけど、もしかしたら、そうなのかな?って」


「あぁぁ~、それなら、ウレイがゴウンさまのおともだちになるぅ~~。」

「あぁぁ~~、ダメェ!ウレイリカぁ~…わたしもいっしょにゴウンさまのおともだちになるんだからぁ~」


「ふふ…そうか、そう言ってくれるか? はははは、いいな、嬉しいぞ? 二人とも、それじゃ、お友達になってくれたお礼に特別なものをこれから見せに行ってあげよう。」


「さて…その前に…だ、よし『元の場所に戻れ!レメゲトンの悪魔たちよ!!』」

 そう命じると、大きな音もなく、すべるように壁のくぼみに背中から吸い込まれるように元に戻っていく。


「すぅごぉ~~い! しゅぅぅ~ってもどっちゃったぁ」

「ゴウンさまのいうこと、ちゃんときいてるぅ~、えらいんですねぇ、ゴウンさまって」


「ははは、あれは、仲間たちと共に造り上げた物たちだ、私だけの手柄じゃないぞ?」


「でもでも、ゴウンさまのいうことならなんでもきいてくれそうですよね?」

「うんうん、ものがたりの中のすごいまほうつかいさんみたい」


「んん? そうさ。これでも私は大魔法使いなんだよぉ~~。」

 ちょっと大げさに冗談っぽく言ってみる。


(ノリノリだなぁ~アインズさん、透明看破の能力を持ってるんだし、ボクが居るの、わかってるだろうに…よっぽど嬉しいんだろうな)

 あらゆる課金グッズを行使して、姿を消せていることを計算してもアインズさんなら気づいてるだろうと思っているベルリバーと、きっとベルリバーさんなら、アルシェちゃんのとこに居るだろうと思っているアインズとの間に微妙な認識の違いがあることになど、まだ一切、気づいていない二人だった。


「それじゃ~これから、宝物でいっぱいのキラキラの場所に連れて行ってあげよう」


(うぉぅ! ウソ? 宝物殿を見せるつもりなのか? 見てぇ! アインズさんの作ったアレ! 動いてるとこメッチャ見てぇ!!)

 アインズ作の唯一のNPC、宝物殿の番人、領域守護者という名目で人様の目には映らせないようにした存在を思い出す…そしてこの世界に来て意識を持って動くようになったアレ…それを見られる期待感にワクワクしながらベルリバーは、こっそり『トラップ機構付き宝物箱』の中から「ギルドの指輪」を取り出し、装着しておく…(これなら宝物殿の入口までなら、たしか行けたはずだしな)


「あ、そうだその前にユリを呼ぶか、指輪を預ける時に必要だしな…あ、イヤ、多分そこまでは行かないかもしれないか…それにそろそろアルベドも謹慎が解けている頃だろう、アルベドの方を護衛として呼んでおくか。」


(え? アルベドって謹慎させられてたの? なにがあったんだよ?アインズさん、そのことボクは聞いてないよ?)


 などとベルリバーが慌てている間にもアインズは冷静に<伝言メッセージ>を発動させ、アルベドを呼び出していた。



                    ☆☆☆



 しばらく待っていると、レメゲトンの間にアルベドが飛び込むようにして入ってきた。

「アインズさま、アインズさま、お会いしたかったです、この72時間、4320分、259200秒…長かったです、待ち遠しく思っておりましたぁ~…愛しのアインズさま❤」


「おぉぉ、お…落ち着け…落ち着くのだアルベドよ! 謹慎中のお前には敢えて伝えていなかったが、今は来客中なのだ…守護者統括としての自分を見失ってはいけないぞ!」


「は?」とアインズさんを見上げたアルベドの目が急に見開き、一瞬だけ見ているだけのボクでも凄まじい寒気を覚える視線をアインズさんの両肩に乗っているウレイリカとクーデリカに向けられていたが、それもホントに一瞬のことだった…こわ!と思うか思わないかの内に涼しげな瞳に変わり、アインズさんの前で恭しく跪く。


「これは失礼いたしました、我が至高の支配者、アインズ様、来客中とは知らず、恥をさらしてしまったこの身、どのような罰でも受けるつもりでおります、なんなりと罰をお与えください。」


(アルベド、怖いな、なんか変わり身が早すぎだろ?タブラさん、どんな設定にしてたんだっけか? たしか良妻賢母タイプにしたとかなんとか、言ってた気がするんだけど…)


「あぁ、私もお前に伝えていなかったのが今回の失態の原因でもあるわけだ…そう強くとがめるつもりはない…しかしだ、どのような時でも振る舞いには気を付けることを忘れてはいけないぞ?アルベドよ…3日前の再現だけは、2度と許さんぞ?」


(もぉ~…アインズさん、だからその3日前に何があったんですかぁ~、もぉ、あとで問い詰めますよぉ?ホントにぃ!すっげぇ気になるぅ)


「は…ありがたきお言葉と寛大なお慈悲に感謝いたします。…ところで、その下等… ぃぇ、お子様たちは一体何者なのです?」


(あれ? 今アルベド、下等生物とか言おうとしてたのか? 加藤…じゃないだろうし…果糖な訳ないしな…他に思いつかないけども…)


「あぁ、先日、とあることで大きな朗報をもたらしてくれた者の親族、つまり妹たちな訳だが…わがナザリックを気に入ってくれたらしくてな、これから宝物殿を見せようとしていたところなのだ…ちょうどいいから、アルベドを護衛に…と思って呼んだ訳だ。着いてきてくれるな?」


「そうでしたか…ナザリックを…、承りました、アインズ様の警護、しかと務めさせていただきます。」


(なんか、イメージの中のアルベドと、感じが微妙に違うんだよなぁ~…最初の一瞬だけ見せたあの視線も気になるし…ちょっと確認してみるか…<敵意感知センス・エネミー>…うっわ…アインズさんの後ろを歩きながら、ジワジワと敵意にじませてるよぉ~…あの子たちで、これなんだとすると…自分なんかが戻ってきたらどうなるんだ?こぇぇ…これは一応、頭に入れておいた方がいいな…)


 少しだけ前に進み出て、アルベドの表情を見てみる…涼しげな表情に変わりはない…だが、敵意の波は未だにアルベドから発せられている…

(こんな嫉妬深いキャラだったっけか?たしかにギャップ萌えはタブラさんの代名詞だったけども…これは行きすぎな気がするな…アインズさんは気が付いているのか?)


 なんて思っていると、アルベドがなにか口をわずかながら動かしながら歩いている…なんだ?ちっちゃすぎて、聞き取れないな…なんて言ってるんだ?…仕方ないな…こんなことで使いたくなかったけど…<感知増幅センサーブースト>………ぅぅゎ…聞かなきゃよかった…。怖い。恐い…コワイからアルベド…


 表情に涼しげな雰囲気を張り付かせたまま、しずしずと歩いている中、その口が呟いていたのは…「この下等生物が…この下等生物が…下等生物が…下等生物が…」ひたすらその繰り返しだった…。


「それではアルベド、お前はギルドの指輪を持っているな?宝物殿に転移するぞ?ちゃんとついてくるんだぞ?」


 くるっとアインズさんが振り向くと、ピタっとつぶやきが止まり、微笑と共に左手を持ち上げる…「もちろんでございます、アインズ様から頂きましたこの指輪、いつでも肌身離さず、この通り♡」


(左手の…しかも薬指にはめてるぅ~~~!! これアインズさんがさせてるの?それともアルベドが自主的に? この意味ってアインズさん気づいてんの? なんかそういう経験少ない自分でも「女の情念」みたいなのビシバシ感じるんだけど…)


「うむ…それなら問題ないな…それでは宝物殿に一気に飛ぶぞ!」


(アインズさん、豪快にスルーしたぁぁ~!…気付いててスルーしたのか、知らないから放置してるのかどっちだ? まぁいいや、こっちもさっさと転移しないと…てい!)


「ふぅわぁぁぁ~~~!!すごぉ~い!! やまのようなきんか~、カベいっぱいにキラキラのがたくさん~」


「はっはっは、そうだろう? これらもみんな我らアイ…ン、イヤ…仲間たちと一緒に集めてきた物なんだよ、奥にはもっともっといろんなのがあるんだぞ?」


(今「我らアインズ・ウール・ゴウンが」って言おうとしたんだろうな、モモンガさんらしいや)


 そう思っていると、隣に立っていたアルベドの言葉を聞いてしまった…<感知増幅センサーブースト>によって高められた感知能力だったからやっと拾えたアルベドの呟き…


「ギルド、アインズ・ウール・ゴウン…か…、ふん、くだらない…」


(おいおい、いくらなんでもそれは聞き捨てならないぞ?そりゃ、アインズさんは今お子様たちに意識行ってて、聞こえてないだろうけど、その発言はまずいだろぉよ、アルベドぉ…)

 驚いて思いっきりアルベドの方を振り向くと、思う所があるのか、どこか暗い表情を浮かべていた。


「アルベドは今回、宝物殿に来るのは初めてであったな? ここの守護者のことは知っているか?」


 再び、アインズさんがくるっと振り向くと、またあの張り付いたような微笑に戻る。(やっぱアルベドこぇぇぇ)


「ハイ、管理上把握はしております。ここの領域守護者の名前と、その能力についての概要程度…ではありますが…面識はございません。」

「名前はパンドラズアクター、ナザリックの宝物殿の番人、領域守護者にして、財政関係全般に於ける責任者、私やデミウルゴスと同等の強さと頭脳を持ち…アインズ様の御手によって作られた者です…」


(ぅっゎ…今、ジワリとした敵意がちょっとだけふくらんだぞ?今度は何にだ?)


「ん…んん…まぁな…、さて、それでは宝物殿への扉を開けるとするか、この向こうに行くのはさすがに2度目だからな、パスワードは覚えてるぞ」


「アインズ様は以前にも一度こちらに?」


「あぁ…ほら、「東の巨人」騒ぎの時があっただろう?ルプスレギナを問い詰めた時のアレだ。」


「あの後に来られたのですか?」


「あぁ、なるべく穏便に話を済ませるつもりでは居たのだがな…交渉が決裂した時の為にと、『強欲と無欲』を持ち出したのだよ。…結果的に「強欲」の方の出番に繋がった形になったので、この世界でもワールドアイテムは使えるという実験は成功したのだ。」


「さすがはアインズ様、交渉の展開だけでなく、決裂することを見越した上であの状況下…ワールドアイテムが発動するかの可否を確かめる機会にまで利用されてしまうとは…」


「んん…いや、さすがにそこまでは考えていないさ、たまたまということだよ、アルベド、お前は私を過大評価しすぎだぞ?」


「いいえ、至高なる御身がその程度の存在な訳はありません! アインズ様は存在されているだけで価値があるのですから!」


(これ、また堂々巡りの問答になりそうだな、仕方ない、ここは受け入れて先に進むとしよう。)



(アインズさんも大変だなぁ~、こんな忠誠心…思いっきりカンストしてるんじゃないの?これ…胃があったら、絶対に穴開いてるよね)


「あぁ…お前たちの私に対する信頼、嬉しく思う、礼を言うぞ」

(とりあえず、こう言わないと終わらないもんなぁ~)


「さて…この闇の扉を開けないと次の間に進めないからな」

 闇の扉と言われていたものの、空間が丸ごとぽっかりとした闇にしか見えない壁の前に立つと、肩に乗っていた双子の1人、クーデリカが耳元に当たる部分に口を近づけ、小声で囁いてきた。


「ゴウンさまも、大変なんだね…」

「分かってくれるか?大変なんだよ…ホント」


 この会話は離れていたため、アルベドには聞こえず、『感覚増幅中』であるベルリバーにしか聞こえていなかった。

 その為、思わず苦笑を浮かべてしまうのを止められない至高のお1柱(ひとり)が誰にも気づかれずに肩を震わせていた。



                ☆☆☆



『かくて汝、全世界の栄光をわが物とし、暗き者は全て汝より離れ去るだろう!』


 アインズさんがそう宣言すると、目の前の壁の闇が失われ、そこに前に進む通路が現れる。


 その通路には、道筋に沿ってどこまでも細い白色光に照らされ、かろうじて周囲の様子が見えるようになっている。

 通路沿いの壁面には一定間隔でぽっかりとした四角い空間が作られており、その中にあらゆる種類の武具が1つのくぼみに一点ずつ備えられ、通路の続く限り、まるで美術館の展示品のように置かれている。


 道の暗さと、薄明かりに照らされている雰囲気から、神秘的な印象にも見えるその通路を歩いていると、双子がキョロキョロと見まわしながら、しきりに溜息をもらしたり、感心したりしている。


 通路を抜け、広い空間、その真ん中にソファーのように3つの椅子が連なって1つになっている腰かけるための場所があり、その前にはテーブル、そしてテーブルを介して対面の場所には同じ椅子が置かれており、こちらに背を向けて、座る人物がいる。


 その者は、かろうじて輪郭は人の形をしていて、手足や頭部のような特徴が見えるものの、そこには後ろからでも見えるほど、体中に口があり、口内にはギッシリと牙が生えている。


(おぉぉ~~い!! よりにもよって俺かよぉ~~~! なんでそれに? そんな外観だったっけか?パンドラズアクターって?)


 そう思っていると傍にいたアルベドから吹き上がるような敵意があふれ出して、そいつに激昂している。

「何者!! 至高の方々に姿を真似ようと、その本質までは見間違えたりはしない!騙されたりはしません! 言いなさい! お前は何者です!!」


 そいつは、そう問いかけるアルベドのことを意にも介していないようで首を少し傾けるだけで、その敵意を涼しく受け流している。


「そう…」


 短くアルベドがそう言うと、足元で何かが破裂したような音がさく裂したと思ったら、すでに距離のあった相手と肉薄している、拳を突き出し、蹴りを見舞い、体を回転させ、裏拳を見舞うと見せかけ、それをフェイントにしてその勢いのまま後ろ回し蹴りを見舞うが、ことごとくが空を切る。


(おぉぉ~~い、アルベドぉ?? 一応それ、ボクの姿なんだけどぉ? なんでそんなに躊躇もなにもなく本気モードで襲い掛かれるの? …って一応、主装備のバルディッシュを持ってないだけマシなんだろうけどぉ~…なんか、目の敵にされてる気分がしてきたぞ? もしかして、明日は我が身?って感じか?あれって…)


 そうやって、何度アルベドが攻撃を仕掛けていただろうか…相手は回避に意識を回しているのか、全く反撃する気配はない、だというのにアルベドの攻撃の勢いは止むことなく、怒涛のように吹き荒れている。


 ひとしきり、驚き、混乱し、どういう事?と疑問符が頭の中を埋め尽くしていると…アインズさんがすごい勢いで走り出し、「アルベド!もぉよい! やめよ!」


 そう言いながら、アルベドが一瞬アインズさんの方に視線を向けた瞬間…、目の前のボクに似た奴の頭をひっつかみ、逆の腕で首にラリア―トでもするかのように回したままの体勢で「おぉぉ~~~い!!! ちょぉ~っとこっちに来ぉぉ~~~い!!」と言って壁際に引っ張っていく。


(なにげにアインズさんの両肩に乗ったまま、全力疾走のアインズさんから落っこちない双子にも意外に驚かされてるんだが…まぁ首にしがみついてるから、走り出す前にアインズさんがそう言った可能性もあるけども…)


 そして、そいつを壁際に追いやった後、すごい音で「ドン!!」と音を出したかと思うと、なにやら話している。


 どうやら<感知増幅センサーブースト>でも聞き取れない範囲にまで引っ張って行かれたようだ。


「あぁぁ、アインズさま…その壁ドン…どうか私にも…そんなのにかまけず、私にそれをしてもらえたら…いえ、是非してください、私はいつでもドンと来いですアインズさまぁ♪」


(なんかアルベドが変な方向でアッチの世界に行ってるぞ? さっきまでの勢いは消えてるんだが、どういう精神構造なんだろう?)



 …しばらくのやりとり?のあと、こっちに歩きながら俺の姿に似た奴の身体がドロリと溶けるように崩れたかと思うと、次第に再び体が再構成され、見事な軍服姿にハニワのようなのっぺりとした卵頭、そこに3つの黒い穴が開いてるだけの頭部に変わってしまった。


(あ…アレだ…ボクが覚えてたパンドラズアクターの姿…そういえばドッペルゲンガーだったな、見たら思い出した。さすがにイン出来なかった3年の月日は長かったという事か…)


「はぁ…お前も、そういういたずらはほどほどにしておけよ? パンドラズアクター…、そんな風に人をからかうためにその能力を与えたのではないんだからな?」

(まさか、ベルリバーさんがナザリックに来た日に感じた気配を感知して、それを真似すれば俺が喜ぶかも、とか考えたとかさぁ~、そういうのヒヤっとするからやめて欲しいよ、ホント、さっきのアルベドもなんか鬼気迫るようですごい怖かったしさぁ~…)


「は、申し訳ありません、私の創造主たる、ンぁぁアインズさま!!」

(その呼び方、なんとかならないものかなぁ~…自分が作ったとは言えやはり恥ずかしい、前回来た時に、改名したこと事前に言っておいてよかったよ。)


「ま…まぁ、とりあえず元気そうで何よりだ…ケガはなかったか?」


「ハイ、問題ありません、元気にやらせていただいております」

仰々しい、おおげさなアクションでポーズをとっている…そのポーズ自体はデミウルゴスとそんなに大差がないのに、なんでこいつがやると、こんなにおかしいんだろう…すごく見ていて恥ずかしい。


「…ところで今回は…どうされたのでしょうか?」

(うぅわぁぁ~…声自体は低くして決まってそうなのに、卵頭でドヤ顔してそうでダッサイわぁぁ~…)


「うむ、今回は、今後のことを考え、守護者統括たるアルベドと面識を持ってもらおうと思ってな…、ちなみに先程、壁際で説明した者の妹たちが、私の肩に乗っている2人だ…何かあったら力になってやってくれ。」


「は! 承知いたしました、ンナぁぁぁ~~インズさま!!」

 ひらりと軍服を翻し、くるりと回ってビシっとポーズを決める。


(もぉ、何度目だよ、数えるのもバカバカしくなるくらい強制的に鎮静化させられてるぞ?いい加減にしてくれ、パンドラズアクター!)


 そんなアインズの心を知らずに、肩の上の双子は「かっこいい~~~!」とか「舞台の役者さんみた~~い」とかきゃっきゃとはしゃいでいる。

(まぁ、この子らに『封印化希望パンドラズ黒歴史アクター』を冷たい目で見られてたら、立ち直れなかったろうけど…)


「さて、アルベド、なかなかに白熱した初対面の挨拶であったが、もう覚えたな? このパンドラズアクターはお前たちが『至高の41人』と呼ぶ、ギルドメンバーみんなの姿と能力を少し抑え気味に再現することができる。状況に応じた戦略の立て方、それに平時に於ける運用の仕方にもあらゆる場面で使い勝手のある領域守護者だ…普段の振る舞い方は少しアレだが…頭脳と戦闘能力、計算と臨機応変さに於いてはお前たちにもヒケはとらないはずだからな?」


(とりあえず、第一関門はなんとかなったかな…やっぱりみんなに見せるのはやめとこう、アルベドに見せるだけでもやたら疲れた…これをみんなの分まで味わうとなると、さすがに遠慮したいからなぁ~…)


「そういうわけだ、アルベド…とりあえず、このパンドラズアクターの存在を、ナザリックに於いての領域守護者であることも含め、ナザリックの皆に知らせておくように。そしてギルド内の資産やこれからの支出などに関しての相談はデミウルゴスに話を通すのは当たり前だが、こいつともしっかり話を通して相談するといい。」


「さて、パンドラズアクター…これをお前に預けよう、<ギルドの指輪>【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】だ、機会があれば、この宝物殿だけじゃなく、他でも働いてもらう必要が出てくるだろう…ナザリックのシモベに至るまで、お前の存在が知れ渡るまでは、玉座とこの宝物殿との間だけの往復に留めておけ。いいな。」


「は…了解しました。ンぁインズ様。」


「アルベドも今後は、パンドラに攻撃など仕掛けてくれるなよ?同じナザリックの仲間なのだからな…」

(ホント、なんであんなに好戦的だったんだ? 急におとなしくなったけど、一体アルベドになにがあったんだか…)


「は…承知いたしました、アインズ様。」



「さて、ずいぶんと時間がかかったが、楽しんでくれたかな? 二人とも。 意外に時間がかかってしまったな。 キミらの姉の所に戻るとしようか?」


「うん、すごいたのしかったぁ~、キラキラのものがたくさんだったし、パンドラさんもカッコよかったぁ~」

「お姉さまにもおしえてあげたいよねぇ~、すごかったってぇ~。」


「「ありがとうございます、ゴウンさま」」



「いやいや、キミらが楽しんでくれたのなら、案内した甲斐はあったというものだよ。」



「さて、アルベドよ、謹慎が解けたばかりで悪いが、働いてもらわねばならん、今日は私は来客の対応をしなければならなくてな…、謹慎前にデミウルゴスとお前が相談して立案した『ナザリックの防衛費 節約プラン」の件、しっかり進めるとともに実験に協力してくれる者たちとのやり取りの方も、しっかり頼んだぞ?」



 恭しく跪き、了承の意を告げるアルベドを伴い、宝物殿を出る際、パンドラにしばしの別れを告げて、双子を姉の元に案内すべく、来客用の部屋へと急ぐアインズ。


 そして、何を心中に抱いているのか…アルベドはアインズに命じられた仕事を進めるため、デミウルゴスの元に向かうのであった。



______________________________________



あとがき


このお話しの冒頭で、お分かりに人もいると思いますが、東の巨人と西の魔蛇のイベントが終って、洞窟がもぬけの殻になった後、ベルリバーさんが、その洞窟に合わられた。という話になっております。

 全体的に流れがWEB版のオーバーロード要素も含んでいる為、ちょくちょくアニメを違う内容が展開されます。

 そのせいで、アインズさんは異世界で初めて見た夜空に感動するばかりで「世界征服」という言葉も忘れて、星空を満喫してしまったため、シャルティアの事件も起きていないことになってます。

 なのでパンドラも同様、守護者に紹介する機会を後回しになっていたという流れ。

(シャルティアの代わりに「ザイトルクワエ」が漆黒聖典により精神支配され、お持ち帰りされているイベントがこっそり起きており、アインズさんもまだスレイン法国の漆黒聖典のことはニグンからの情報で名前程度でしかまだ知りません。)



 ちなみに本作品内では、ンフィくんとジエット君は一応の面識あり、ジエット君の香辛料作成の魔法をンフィ君が覚えた暁には、某族長様に喜んでもらえ、あわよくばご褒美~とかの流れがあれば、きっと彼も報われるでしょう。


それと、ジエット君のメガネの元ネタは言わずもがな…きっとわかる人にはとっくにバレてるだろう、安直なネーミング。


転送小屋については、名前だけで実態はまだ出来上がっていません。

なので小屋の中にシャルティアを待機させ、<転移門>を発動させたという流れになってます。


ちなみに玉座の間でのアインズさんの言葉「あの機能」とは、宝物殿の中にある毒霧空間の機能を停止させることである。

 決して、書き忘れたわけではありませんので、悪しからず。


※補足

 宝物殿の「ギルドの指輪」をしたままだと襲ってくるゴーレム達がいる場所は、パンドラの居た部屋の奥なので、今回はその場所にまでは用がなかったため、外さずに済んだという流れです。

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