この世界で生きたいと思えるかい?

「俺達はなんだって幽霊が見えるんだろう」

「どうした、けんぼう」

「いやさ、たまに思うんだ、この眼が無けりゃ、余計なものを見ないで済むって」


 相模川の土手、たてぼうと共にその川の流れを見ながらそんな会話をする。

この眼が無けりゃ、いじめに殺された霊も、虐待された子供の霊も、堕胎された赤ん坊の霊も何も見ないでいれたんじゃなかろうか。


「お前は優しすぎるよな、もうちょいドライでいいんじゃね」

「なれたらこんな事考えてねぇよ」

「そっか、でもだからこそじゃないか?」

「だからこそ?」

「そういう優しい奴なら、幽霊を優しく成仏させれるって思ったのさ、神様だか仏様だかがさ」

「ムリだよ、俺の霊力は殴るか蹴るか潰すかの暴力でしか発動しない」

「…………だよな」


 俺の霊能力者としての力は手そのものだ、たてぼうは経文や祝詞に霊力を乗せれるが俺にはそれが出来ない、だからこそ殴って蹴ってで除霊する。

 そういえば、たてぼうも肯定してしまい、話が途切れる。


「そういや、結局あの依頼受けたんだな」

「まぁな、持ってる奴は持ってるのが資本主義社会だ」

「がめついねぇ、ま、折半して貰ってる俺の言えた事じゃないな」

「大学にも行けるくらいの学費はまだまだ先だわ」

「だなぁ」

「そこの人! 助けてください!」

「あん? どういう事さ」

「男の子が溺れてるんです! だから助けてください!」

「何か見えてんのけんぼう?」

「水難事故だよ、男の子が溺れてるって」

「なに!? お前がこっち向いてるならこのままいけば見つかるな、行ってくる!」

「おい待てたてぼう! くそっ、119だろまずは、もしもし救急ですか」


 一人の頭から水を被ったかのような汗びっしょりの少女が土手に座る俺達の下に駆け寄る、中学の制服だ。たてぼうはそれを聞くや否や、飛び出して助けに行く、こういう時は救急だろが。俺は冷静に救急を携帯で呼び出す。


 その後、たてぼうがすぐに救助に入ったその後に来た救急のサポートもあり少年は一命を取り留めた、何でも、姉との思い出のロケットが流されてしまったらしく。

それを取ろうとして溺れたとか。


「……よかった」

「……よかったな、安心して逝けよ長居はよくないぜ」

「あはは、わかっちゃいます?」

「まぁな、それ汗じゃないだろ、おおよそ……この川でドボンか」

「ええ、あの子、いつもこの時期はあのロケットを持って遊びに来てくれるの、もう3年よ、貴方の言う通り最近、胸のあたりが痛むの、どうしてかしら?」

「あの子のお姉さんか……それは悪霊になる前兆だ、お前の未練があの子なら、俺が守るよ、だから安心して逝ってくれないか?」

「…………うん、さよなら、あの子の事お願いします」


 汗だと思っていたものはここに全て水、死んだ直後の姿が投影されてるが為にその姿であったんだ、俺が少し諭してやれば少女は天へと帰って行った…………うん。


「なぁ、たてぼう、霊能力者以外でやりたいことがあるんだ」

「お、なんだい?」

「死んだ人じゃなくて生きてる人を助けれる立派な人」

「そりゃいいな、俺も一緒にやっちゃおうかな!」

「バカのお前にできるかね」

「なんだとぅお!?」


悲しい事、寂しい事、辛い事ばっかのこの時代。

 

流れるニュースは悲惨で、凄惨で、無情な事ばかり。


なんでこんな時代に生まれてしまったのだろうと嘆いてしまう日もある。


それでも、俺達は生きているんだ、この時代を。


それになんだかんだ言ってさ、楽しい事、嬉しい事もある。


ちゃんと幸せになれるんだ、いつか、きっとさ。


「だから、その日まで、生きてくぜ」


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悲哀 HIRO @iaiaCthulhu1890

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