生命の悲哀

「こんにちは~、ちょっとご相談したいことが」

「あ、どもどもでーす、どうぞどうぞ、お座り下さい」


 今日も今日とて、幽霊事件相談部の活動だ、今回も女性、派手さは無いが清楚な黒髪女性、大人びた雰囲気から3年生であろうか? ……でもないか。

 

「で、どんなご相談でしょうか?」

「聞く必要はねぇぞたてぼう、1000万円だ」

「お前は、またのね」

「え、無料相談では?」

「貴方の場合別です親御さんとご相談してきてください、自分に憑いてる霊を除霊するには1000万円がひつようだと」


 今回も見えてしまった、というかたてぼうが鈍いのだ、こいつは霊水晶を使えばどんな隠れてる幽霊でも見えるが、肉眼では幽霊を見れないのだ、俺はどんな弱い幽霊でもはっきり見える、だから今回の幽霊もよーく見えた。


「……わかりました」

「それじゃ、おかえりはあちらです」

「すんません、こういう奴で」

「いえ、お気になさらず」

「おまえさぁの客に吹っ掛けすぎ」

「色々込々でほうだぜ」

「いや、それでもなぁ」


 たてぼうが依頼者、いや別に依頼者じゃねーやに詫びをする、必要ねっての。

そして帰った後に俺に振り替えり、文句を言う、何を言うか、これでも良心的だと思うがな。さて、そんな後日。


「ここか! おい、出てこいぼったくり霊能力者!」


 たてぼうがいない朝、あいつは今日は早朝に逝った猫の幽霊に経文上げにいった。こういう時に限って面倒なのが来るわけだ、仕方ないか。


「朝からなんですか? まだ開けてないのですが」

「うちの娘の除霊依頼を断ったそうじゃないか」

「あー、もしかしてあの娘さんの親父さんで? 断ってはないですよ」

「1000万払えだなんて、断ってると同じじゃないか!」

「霊能力者法、依頼者と霊能力者の間の契約における報酬は双方の協議によって決める、気に食わないなら、東京の公的幽霊相談事務所に行ってくださいよ」

「そしたら、数か月も待つことになるからお前らに任せようとしたんだろうが!」


 まぁ、だよね、あそこ関東中の幽霊事件の依頼が集まってるからね。

霊能力者が稼ぐなら基本関東は避ける東京に政府が設立した公的幽霊相談事務所があるので、被害の大きな幽霊事件は軒並みそちらに取られるからだ。


 ま、今回みたく、被害が出てなくて、今後出る恐れもない奴は大抵何か月先に後回しにするのがあそこのやりかただから依頼が無い訳じゃない、ただ金を設けていい暮らしをしたいならば圧倒的に依頼数が少ないって奴だ。


「じゃぁ、1000万ですよ、払えないんです? 払えるんです?」

「何故、そんなに払わんといかんのだ!」

「気に食わないから」

「は、はぁ? お前さん気に食わないと言うだけで客を選ぶのか!」

「今回に限ってはな、で、どうなの?」

「…………ええい、分かった、払う払ってやる!」

「じゃ、前払いです、一緒に銀行行きましょう、分割でいいですよ」

「先に祓ってからだ」

「ムリです、反故にされたらたまったもんじゃない」

「ぐぐぐ」


 案の定、そのつもりだったようだ、なので、早速銀行に行く、あ、借用書造る為に既に母には連絡済みで、代理で受取人などもやって貰った。


「それじゃ、契約は成立、いきましょうかね」

「……けんちゃん、疲れたらいつでも帰って来てね」

「ありがとう母さん」


 母さんは俺が仕事に行くときには頑張れとは言わない、いや俺が言われたくないんだよな、事情を知らなかった小太りのあの人はまぁ許す。さて、連れられてついた、この前の女生徒の家、でっかいねぇ。

やっぱ金持ちは横に広い家に住んでるもんだ、すぐに女生徒の自室へ入る。


「あ、お父さん、それに霊能力者さん」

「お金貰ったんでね、来てあげましたよ」

「……ありがとうございます」

「はいはい、さてと、いるいる、うるせぇ、うるせぇ、泣くしか出来ねぇってのは悲しいな、ふんっ、次はいいお母さんの腹に宿るんだぞ」


 俺は女生徒の後ろに憑くの頭を軽く握り潰す、そうすれば成仏する

これだから嫌なんだ赤ん坊の幽霊は、ただ泣き叫ぶ以外に抵抗できない悲しい幽霊。本来なら泣けば母親が守ってくれるのだ、だがその母親がな……はぁ。

 生きたいと言う未練しか持たずに叫び響いてくるから胸糞悪いも当然だ。


「終わりました、それでは」

「これでか? おい、たったこれだけに1000万円も儂に払わせたのか!」

「テメーの娘の尻ぬぐいで他人様に吐きそうなくらい気分悪くさせといてその言い草かよ、それとあんたもあんただ、ゴムの一つでも彼氏につけさせろよ」

「っぐ!」

「…………」


 俺の捨て台詞に二人は何も言えなかった、なんだって高校生にこんな虚しくて悲しい事させるんだ、この仕事やめてぇな、でも大学は行きたいしな。

 うちはそこまで裕福じゃねぇ、大学に行くには金を稼ぐ必要がある。

今回の依頼料も税金でもろもろ差っ引かれるだろうからまだまだ足りねぇ。

 

「ちくしょぉ」


 沈む夕日に誰ともいわず俺は呟くのだった。



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