第49話 それからの俺とるーは…

 それからの俺とるーは…


 当初二年で帰国するはずだったDeep Redが、アメリカを拠点に活動する事を決めて。

 当然やけど、親父さんが、るーの渡米を嫌がった。

 しかしそこは、武城桐子の強さと言うか…


「あなた。遠征のたびに会えるじゃない。」


 静かな笑顔での言い聞かせに、親父さんは黙るしかなかった。


 るーの卒業後、家族全員をアメリカに呼んで…ささやかな結婚式を挙げた。

 あれだけ嫌がってた英会話も、るーと一緒にレッスンに通うようになった。


 Deep Redが世界に名を馳せるようになり、家を買い、長男の光史が生まれ…

 この上ない幸せの中、ナッキーが事務所設立を決めた。

 Deep Redとしての活動は休止して…日本から世界に羽ばたくアーティストを育てよう、と。


 内心、俺はまだまだ現役でギター弾きたいねん!!て…思ったけど…

 それは、ナッキーとナオト、ゼブラとミツグと一緒やないと…とも思うてて。

 ナッキーの強い信念に、しばらくは…付き合わなな…て事で。

 帰国した。


 その際、ちょうどロンドンから帰国予定やった陽世里と頼子ちゃん夫婦から。

『向かいに家建てない?』て打診されて。

 武城邸の近くに、家を建てた。


 帰国した翌年、待望の長女、鈴亜りあが生まれ…その二年後には、次男のわたるも生まれた。

 その時にしでかした事で、光史が俺に冷たくなったのは…前出の話の通り。


 ともかく…

 Deep Redは、たまーに音源作って発売して…事務所の周年パーティーでライヴやるぐらいで…

 もっぱら新人発掘や育成、楽曲提供…な、日々。


 ギターヒーローとして、まだまだ終わられへん俺は…ぶっちゃけ、モヤモヤしてる部分もあった。

 そんな時…何度かレコーディングを手掛けた『TOYS』のボーカル神 千里に誘われて、ナオトと共に『F's』に加入。

 まさか俺がナッキー以外のボーカリストと組むとは思わへんかった。

 ついでに、ナッキー以外のボーカリストに、胸を熱くさせられるとも。


 そのF'sはすぐに起動に乗り、結成して二年目には全米ツアーも敢行。

 Deep Redの俺とナオトの名前だけでも世界に出れる。言うてたナッキーの予想以上に…ボーカルの千里の存在感とカリスマ性が高い事を思い知らされた。


 そして…二ヶ月前。

 光史が、結婚した。

 相手はまさかの…丹野 廉の娘。


 渉が生まれた時のアレコレ…朝霧家の暴露大会となった、光史の結婚披露宴。

 昔となんら変わってない自分にガッカリしつつも。

 残りの人生。

 ホンマ…家族のために生きていかれたら…て。

 本気でそう思うてた、ある日…



「…音、真音。」


「…ん~…」


「真音。」


 ペシッ。


「あたっ…」


 目を開けると、俺はどうやらリビングのソファーで転寝中。

 いや…転寝どころの話やないな…

 マジ寝や。


「…あー…寝てもうてたか。」


 体を起こして、大きく欠伸をする。

 そんな俺を、るーはえらい神妙な面持ちで立ったまま眺めとる。


「……なんや?」


 るーの顔付が普通やない気がして、その手を取って問いかけると。


「…隠してた事があるの…」


 るーは陰のある表情のまま、俺の隣に座った。


「隠してた事?」


 首を傾げて、るーの顔を覗き込む。

 …何やろ。

 この…今から良くない事を発表します。的な…雰囲気。

 まさか…離婚…とか、ないよな…?


「…どないしたん?」


「……園部マリさん…覚えてる?」


「…は?」


 思ってもない事を言われて、つい間抜けな声が出た。


「園部…?」


 園部…園部…


「マリさんよ。」


「…マリ…」


 マリ…って…


「…、マリ…か?」


 ナッキーの…女やった、マリ?


「…あなたが一緒に暮らしてたマリさん。」


「…なんか違うけど……そのマリが?」


 るーは俺が握ってる手の上に、もう片方の手を乗せて。


「…真音に…会いたいって…」


「……は?…いや、まあ…懐かしくはあるけど、別に俺は会いたいとは…」


 実際、Deep Redに尽くしてくれた存在やし…感謝もしてる。

 何なら、同窓会気分で会いたい気もせんではないが…

 こんな、思い悩んでる風な顔で告白されると、会いたいとは言われへんし…何より俺はまだまだ信用が足りてへん気がするからなあ。

 るーが不安になるような事は、絶対したくない。


「会ってあげて。」


 そう言うて、俺を見上げたるーは涙目で。


「…なんで。」


 会え言われた事より、涙目の理由が気になった。


 るーは俺から手を離すと、ポケットから何かを取り出して…俺の差し出した。

 その何かは名刺で…


「…園部そのべ真人まさと…誰や?」


 それを手にして、るーに問いかける。


 園部…俺、マリの苗字知らへんかったな。

 もしかして、結婚してこの苗字になったんか?


 すると、るーは…一度唇を噛みしめて、辛そうな顔で言うた。



「この人…」


「……」


「あなたとマリさんの、息子さんだそうよ…。」



 ……神様。

 もう、俺から音楽を取り上げてもええから。



 るーには…


 悲しい想いをさせんといて下さい…。




 って。



 元凶は………



 俺か。




 49th 完


 ----------------------------

 はー!?

 ここで終わりー!?


 続きと言うか、真相はいつかのスピンオフだらけの回で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつか出逢ったあなた 49th ヒカリ @gogohikari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ