第34話 「突然お伺いしてすいません。朝霧真音いいます。」

「突然お伺いしてすいません。朝霧真音いいます。」


 ソファーに座らせてもろて、膝に両手を置いて挨拶をした。


 るーは俺とは話しはない言うたけど、俺にはある。

 ご両親に。



「はあ…娘とはどういう…」


「瑠音さんの事が好きです。」


「!!!!!」


 俺の言葉に、親父さんは驚きながらもしかめっ面。

 おふくろさんは両手を頬にあてて、少なからずとも嫌そうではない顔。

 るーは…まあ、ビックリ顔やけど…戸惑ってる。



「俺は、バンドでギター弾いてます。とても瑠音さんにふさわしい男じゃありませんが、プロとしてやっていく事も決まりました。明後日アメリカに発ちます。」


 その告白に、るーの口から小さく『明後日…』て漏れた。

 …ホンマは、何も言わんとこかな…て思ったりもした。

 黙って向こう行って、成功したら…迎えに来る方が…とも。


 けど、それやと…るーは俺の気持ちを知らんままやん…って。

 クリスマスに悲しい思いをしたまま、終わらせるんも嫌やな思った。



「…それで、何だね。君がアメリカに行くのと、娘と、何の関係が?」


「あなた、そんな言い方…」


 予想はしててんけど、親父さんの拒否反応…相当やな。


「俺には、瑠音さんが必要です。」


「な…」


「アメリカには、二年滞在する事になってます。」


「むっ娘を連れて行く気じゃないだろうな!!」


「連れて行きたい気持ちは山々ですが…」


「バカな!!娘は、おまえみたいな奴にはやらん!!」


「あなた、落ち着いて。」


 ついには立ち上がってもうた親父さんを、るーのおかんがなだめる。

 あー…今まで荒波なんか立った事ないやろな…

 そんな武城家に、俺…酷いやっちゃな。



「それは、俺にも分かります。今の俺は、瑠音さんにふさわしくありません。」


 興奮した親父さんとは反対に、俺はずっと冷静でおれた。

 それは、そこに久しぶりに会うるーがおった事と…

 ちゃんと伝えなあかん。て…本気でそう思うてたから。



「せっかくのクリスマスも、泣かせてしまって…俺の事は待たないって言われて、あれからずっと俺も色々考えました。でも、瑠音さんは俺の支えなんです。」


 親父さんが、すっと腰を下ろした。

 それでも、視線は刺さるぐらい厳しいやつ。


「俺は、アメリカで頑張って、瑠音さんにふさわしい男になります。だから…その宣言をしに来ました。」


「言っておくがね。娘の彼氏はピアノが弾ける人じゃないと、私は認めんよ。」


 俺の宣言なんて耳に入れない。て風に。

 親父さんは、鼻で笑うとそう言い放った。


 …そう言えば、頼子ちゃんも言うてたな…


『英雄ポロネーズが弾ける人じゃないと』て。



 それからー…


「もう話すことはないっ!!」


 援護射撃をしてくれるはずや思うてた妻から放たれた『あなただって情熱的に私を口説いたでしょう』に、親父さんは動揺しながらリビングを去った。

 そして、るーが外まで見送りに来てくれる事に。




「るー。」


「…はい。」


「クリスマス、ありがとな。」


「…?」


「クッキー、美味かった。」


 できるだけ笑顔で言うたつもりやけど…内心、俺は自分にガッカリしてた。


 伝えたい事、伝え切れてない。

 てか、話してる途中…気付いた。

 向こうでプロんなって、るーにふさわしい男になる。て…

 なんの保証もない。

 親から見たら、そんな夢語られるだけで信じられるか!!って…なるわな。

 …全然ダメやん…

 こんな、勢いだけの男…


 それでも。

 それでも、るーに悲しい思いをさせたままなのは嫌やった。

 せめて…るーには。

 俺がバカやった事と…るーが思う以上に、俺はるーが好きな事…それだけは伝えたい思った。



「これ、あん時に渡す予定やってんけど…」


 カッコ悪いな…

 そう思いながらも、俺はクリスマスに渡すつもりやった指輪を渡そうと、るーの手を取った。

 が、るーの体がビクッとなって…そらそやな…って、苦笑いした。


「そやな…気分悪いよな。他の女と色々あった話とかもしたし…」


「……」


「それでも、るーやないとあかんねや。」


「……」


「二年後の俺に、乞うご期待。」


 とりあえず、拒否られてはない…思った俺は、それをるーの右手の薬指に。


「真音、あたしは…」


「俺の姿が見えんようになったら、捨ててもええよ。」


「……」


「今すぐは、俺もダメージ大きいから。けど、ホンマ俺向こうで頑張るから。」


「……」


「るーに好きなやつができたとしても、俺は二年、るーの事を支えにして頑張るつもりや。」


「……」


「ほな、な。」



 結局…

 るーは、俺に対して『好き』とも『許す』とも言わへんかった。


 好き言うて欲しくて来たわけやない。

 許す言われたくて来たわけやない。


 そんな思いを頭ん中でぐるぐる回しながら、武城邸を後にする。

 振り向きたい気持ちもあったけど…怖くてやめた。


 何なんや…俺。

 どんだけショボいんや…

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