第19話 「…え。」

「…え。」


「…どーも…」


 今日は…ナッキーに呼び出されて…

 ナッキーがバイトしとる南国風の飯屋に来たら…


「頼子、顔怖い。」


「…生まれつき。」


 陽世里と、ダイモ…頼子ちゃんがおった。


「バイト前にごめん。」


「いや、ええけど……あ、ナッキー。俺、チャーハン。」


 厨房におるナッキーにオーダーすると。


「ねーよ。」


 そう言いながらも、フライパンを手にした。


「……」


 二人並んでるん初めて見るな…

 こうしてみると…美男美女やん。

 陽世里はナッキーみたく派手な髪の色やないけど、ほんのり茶色がかってふわっとしてサラッとした感じ。

 頼子ちゃんはー…真っ黒で直毛。

 …コケシ…いや、アジアンビューティーやな。



「ほら、頼子。」


 陽世里に何か促された頼子ちゃんは、少し唇を尖らせて。


「…るーの事…本当に本気なの…」


 低い声で言うた。


 信用ないなー…俺。

 …まー、しゃーない。

 しゃーないけど…


「本気。」


 少し上から見下ろす勢いで言うと、頼子ちゃんは気に入らん風に目を細めた。


「言っとくけど、るーはすごく純粋な子なの。」


「…ああ。」


 知ってる。と思いながらも、黙って聞く事にした。


「だから…あたしがいなくなったら、あなたの言葉を全部鵜呑みにしちゃうかもしれない。」


「……」


 鵜呑みしてもええやん!!

 俺が全てになってくれたらええなーって俺は思うてるし!!

 こいつ、完全ヤキモチやん!?


「約束して。るーの事…傷付けないって。」


「……」


「あたしの…大事な……っ…」


「…頼子。」


 陽世里が、頼子ちゃんの頭をポンポンとして。

 ハンカチで、その涙を拭いた。



 …るーの事、傷付けるわけないやん…

 俺にとっても大事な彼女や。


 そう言いたいのに、言葉に出せへんかったのは…

 目の前の二人が、もうすぐ夫婦になる。いうんを知ってるから。


 彼氏彼女、やなくて。夫婦。

 俺なんて、まだまだ恋愛楽しみたいばっかで…夫婦とかあり得へん思うのに。

 こいつら…これからの人生、ずっと一緒に生きてくって決めたんやもんな。


 …なんや、すっごい差を付けられた気がした。

 二人とも大人やん思った。


 まだ18やで?

 頼子ちゃんなんて16やろ?

 遊びたいばっかやないん?



「お待ち。」


 ふいに、ナッキーが目の前に皿を置いた。

 陽世里と頼子ちゃんの前には、ケーキセット。

 俺には…


「チャーハンちゃうやん。」


「南国チャーハン。」


「…なんでパイナップル入ってるん…」


「美味いぜ。」


 なんや赤やら緑やら黄色やら…カラフルな具入りの南国チャーハン。

 小さくいただきますをして、恐る恐る口に入れる。


「…んま…」


「だろ?」


 …今もマンションに帰って来るのは、要るもの取りに寄るぐらい。

 俺はー…うちでもナッキーの手料理食いたいねん。

 何で帰らへんのやろ…



「で、余興の話はしたのか?」


 おぼんを持ったまんま、俺の隣に座ったナッキーが陽世里に問いかける。


「余興?」


「ああ…パーティーで、Deep Redに一曲お願いしたいなって。」


「それ、前にナッキーから聞いたで。」


「うん。それで、良かったら結婚式から出席してもらえないかなと思って。」


「えぇ…そ…それは何か…遠慮したい感じやけど。」


 結婚式に、あんまええ思い出がない。

 何度か出席した親戚の結婚式、最悪やったもんな…


「あれ、いいの?るーちゃん、頼子がデザインした服で出席してくれるんだけど。」


「えっ。」


 陽世里の言葉に目を見開く。


 ダイモス!!

 何してくれんねん!!


「いいいい行く。是非行かせてくれ。」


 俺が二人に頭を下げると。

 涙の引っ込んだ頼子ちゃんは、俺の顔を見んまま小さく頷いて。

 ケーキを見て、少し口元を緩めた。


 …ダイモスや思うても、やっぱ女子やな…

 ケーキで笑顔んなるとか。

 可愛いやん。



「二人のために一曲作るよ。」


「えっ、兄さん忙しいのに…」


「いいよな?」


 ナッキーが俺の肩に腕を乗せて首を傾げる。


「…そんな色男に間近で言われたら、誰もノー言われへんやん。」


「ははっ。おまえが言うかな。」


 …なんや嬉しかった。

 ナッキーと普通に話せるんも、陽世里と頼子ちゃんがお似合いなんも。



 けど…



「…ナッキー、今夜も帰らないって…」


 マリが泣きそうな顔で言うた。


「電話あったんか。」


「うん…」


「……」


「あたしがいるから、帰って来ないんだよね…分かってるのに…ここにいたい…」


 …マリは…いい女や。

 バンドの事もファンの事も、色々理解してくれる。

 なんでナッキー…マリと上手く…

 …って…

 俺と寝てる事知ってるのに、上手くなんてやれへんか…



「マノン…」


「…俺、彼女出来た言うたやん…」


「誰にも言わない。言わないから…」


「ダメや。」


「…マノンのせいで…あたしとナッキー…上手くいかなくなったのに…酷い…」


「………」


 行き場のないマリ。

 寂しがり屋のマリ。

 可哀そうなマリ。


 俺がそんなマリに出来る事は…



「…マリ…」



 抱いてやる事だけや…。



 …これは、愛とは、ちゃう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る