第18話 ナッキーと別れて、日野原の校門前に立った。

 ナッキーと別れて、日野原の校門前に立った。


 るーが出て来るんは、いっつもチャイム鳴って10分ぐらい。

 今までは、出て来る女子見たりしてたら、10分とかあっちゅう間やったけど…


 …今日は長い。

 長い長い。

 めっちゃ長い。


 今までは目に入り込んでた女子が全然入らへん。

 ああああ…


 …るー、すごいやん。



「あ…っ…」


 下向いとるとこに、声が聞こえて。

 顔だけ向けたら、るーがおった。


「…よ。」


「……」


 はにかんだ顔。

 …ヤバい。

 可愛い。



「…俺、彼氏…って事で、ええ?」


 公園で言おう思うてたけど。

 待ち切れへん俺は、るーの顔を覗き込んで問いかける。

 ちょい声がうわずった。


 そんな俺を、るーはカバンを抱きしめてチラリと見上げて。


「……うん……」


 小さく…頷いた。


 …うっ…


 なっなんや!!この破壊力!!


 そのまんま、甘い空気はあるものの…無言で公園まで歩いた。

 いつものベンチに座って、何となく落ち着かん気分で足元を見てると。


『共通の話題』て…ナッキーの声が浮かんだ。


 …せや。

 共通の話題…



「なあ、るーの友達の頼子ちゃんて…」


「…頼子?」


「あん時…一緒におった子?」


 もう分かってるクセに、確認してもうた。

 電車ん中で…一緒におった子、よな?


「…うん…いつも…一緒にいる…」


 はっ…!!


 るーの言うた『いつも』で。

 俺の『あん時』って問いかけには、『取り巻きに言いがかりつけられた時』も含まれてるんか!!て気付いた。


「そ…そっか…」


 いや…あの件はもう…そ…そう…

 あれは、ええねん。

 過去の事や。


 そ…それよりー…


「その頼子ちゃん、ナッキーの弟の婚約者なんやてな。」


「………え?」


「え?って…?」


 思いがけず、見つめ合う形んなった。

 あ…あれ…?


「知らんかった?」


「…うん…」


 るーが俺の目を見たまま、耐えられとるて…

 これ、どうなん…?


「高原陽世里さんと…仲いいの?」


「…特にっちゅうわけでもないけど、まあ…クラス一緒やから、話はする程度…」


「そっか…」


 …婚約者は知らへんかったとしても、さすがに親友の結婚式には招待されてるはず。

 そう思うた俺は、時々伏し目がちにはなるものの、今までで一番俺の目を見ても平気なるーに問いかける。


「結婚式…は?」


「…………結婚式?」


「……」


 こ…これは…俺…あかんやつやないか…?

 やらかしたんちゃうか…?


「あー…もしかして頼子ちゃん、サプライズ的な事でも考えてたんかな…」


 そう言いながら、るーから視線を外す。

 が。


「…結婚式って…ねえ…真音、どういう事?教えて。」


 るーは俺の制服を掴んでまで、俺の目を見て言うた。


 …今までやったら…卒倒距離やない?

 それでも、るーは…真剣な目で俺を見つめる。


「いや…本人が何か考えてるんかもしれへんし…」


「お願い。」


 ギュッ。

 強く握られた腕。

 …それほどの存在…て事やん…


 たぶん、頼子ちゃん…言えへんかったんやろな…


「あー…」


 こんなんで見つめられるとか…罪悪感しか湧かん…


「…来月結婚して、ロンドンに行く…て、ナッキーから聞いた。」


 意を決して、正直に話す。

 すると、るーの大きい目が…さらに大きくなった。


「…結婚して…ロンドン…?」


「……」


「…新婚旅行で…?」


「……」


「……じゃ…ないのね…」


「…るー…」


 ああああああ…

 アホか!!俺!!

 なんでこの話持ちだした!?

 他に引き出しないんかい!!

 …ない!!

 作れやドアホ!!



「…頼子ちゃん、るーの事大切やから、言えへんかったんちゃうかな。」


 俺の腕を掴んだままの、るーの手を…そっと握ってみる。

 今までやったら…ここで悲鳴。


「……」


 悲鳴すら出えへんって…


「…まさか俺から聞かされるとも思わんやろし…悪かったな…」


 ズキズキズキズキ。

 胸が痛む。

 るーにも、頼子ちゃんにも悪い。


「……」


 るーの視線が俺から離れて。

 少し唇が尖ったなー…思って見てたら…


 ポロポロポロポロ


「…え…っ!!」


 るーの目から、ビックリするぐらい…涙がこぼれた。


「あたし…笑っておめでとうって…言えるのかな…」


「…るー…」


 ああ…胸が締め付けられる…

 ぶちまけてもうた自分を呪うと同時に、こんな綺麗な涙を見せられて…

 俺は、どうしたら…?


「…大丈夫か…?」


 とりあえず…こうしか出来ひん…

 そう思いながら、るーの頭を抱き寄せて撫でる。

 意外にも…るーはおとなしいまんまで俺の胸に身体を預けて泣く。


 …こんなんするのも初めてのはずやのに…パニックにならんとか…

 あらためて、頼子ちゃんの存在の大きさを知った言うか…



 ギュッと抱きしめたい衝動はあるものの、それは今やない気がして。

 緩く抱き寄せたまま、頭を撫でとると…


「ちょっと!!何してんのよ!!」


 けたたましい声が掛けられた。


 これはー…


 出た。

 闘将ダイモス。


「何って。」


「どういう事!?あんた達、何イチャイチャしてんのよ!!」


「……」


 ふっ。


「なんやそれ。ヤキモチか?」


 あまりにも闘将ダイモスの言葉が分かりやすくて、鼻で笑うていうてもうた。

 すると、闘将ダイ…頼子ちゃんは眉間にしわ寄せて真っ赤になった後。


「…るー。あんた、何でこんな男と一緒にいるのよ。」


 ひくーい声で、るーに言うた。


『こんな男』か。

 言うてくれるなあ。


 まあ…仕方ない。

 俺、印象良くないはずやし。

 けど…ハッキリさせとかなな…!!


「俺ら、付き合うてんねん。」


 るーを抱き寄せてる手に少し力入れて言うと。


「はあ?」


 頼子ちゃんは、顔を歪ませて間抜けな声出した。


 …美人なんやけどな…

 美人なんやけど、俺には闘将ダイモスにしか見えへん…



「る…るーがこういう事を平気でできるなんて思わなかったわ。」


 あっ。

 いらん事言うなー!!


 そう思うた瞬間…


「ごごごごごごめんなさい!!」


 火を噴きそうな顔のるーが、慌てて俺から離れた。


「何で今更敬語?」


 いつものるーやなあ…て、少し安心した。

 残念な気持ちもあるけど…安心した。


 …まあ…二人には歴史がある。

 それに、頼子ちゃんは…あの時取り巻きからるーを守ってくれた。



「せっかくのデート日なんやけど、俺は遠慮するわ。二人でゆっくり話したら。」


 ホンマは…めっちゃ残念やけど。

 隠し事を暴露してもうた罪悪感が拭えん俺は、二人にそう提案した。


「るー、またな。」


「あ…うん…」



 るーに手をあげてその場を去る。

 少し離れて振り返ったら、並んで座った背中が…なんや寂しそうで胸が痛んだ。



 …頼子ちゃんがロンドン行った後、俺…何してやれるんやろ。

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