第5話 「……なんや?」

「……なんや?」


 リビングでギター弾いてたら、いつの間にかナッキーが近くにおって。

 変な顔して、俺を見てた。


 ナッキーは、変な顔でもカッコええんやけどな。



「いや…おまえがこんなに弾いてるの、久しぶりに見るなと思って。」


 ナッキーは小さく笑いながら、手にしてた袋から思い出したようにビールを取り出した。



「いっつも弾いてるやん。」


「そうか?じゃあ、何かいい事でもあったのか?」


「は?」


「弾き方に熱がある。」


「……」



 ええ事…



 先週に引き続き…るーを待ち伏せして、公園のベンチで話した。

 けど、話の内容言うたら…


 るーの幼馴染が生徒会長な話とか…

 どの授業が好きかとか…

 星高より日野原の方が、若干はよ授業が終わるとか…

 星高の七不思議みたいな話とか…


 …ぶっちゃけ、どうでもええもんばっかや。



 けど、何やろ。

 取り巻きやマリとは、バンドや音楽の話しかせえへんからか…

 …新鮮やなー。思う。


 そうそう。

 こういう、茶漬けみたいな感じ…?

 俺が望んでたのは、こういうのやねん…って。


 なんとなーく。

 その空気感に納得してる俺がおる。


 けど。



「…そら、ワンマン控えてるし、熱も入るやん?」


「それもそうだな。」


「……」



 ギターを弾くのをやめて、ナッキーが買うて冷蔵庫に入れたビールを取り出すと。


「なあ、マリと付き合う前って、何人付き合うた?」


 ソファーに座って問いかけた。



「……」


 ナッキーは晩飯作る気なんか、包丁とまな板を出して…少し考えた後。


「恋人って関係になったのは、二人か…三人か…」


 覚えてないよ。って小声で付けたした。


 意外と真面目やな~…って言いかけて、気付いてやめた。

 恋人になったのは、二人か三人。

 それ以外は、一度きりの関係とか…寝るだけの女…て事やな。


 まあ…俺もめっちゃ好きになって付き合うた女は…ゼロかもなあ…

 声かけられて、すぐ寝たり…

 …そんなんばっかや。



「何だよ。女でも出来たのか?」


 南国風の飯屋でバイトしてるナッキー。

 料理が出来て、極上の歌が歌えて、人当たりもええし頼れる男。


 …俺が女なら、Deep Redのメンバーの中ではナッキー…


 いやー…モテ過ぎて心配になりそやから…

 嫉妬や心配なんかせんでええ、ゼブラでも選ぶか…



「…付き合うてはないで?」


「付き合ってはないけど、好きな女が出来たのか?」


「好き…?」


 それについては、ちと首を傾げた。


「違うのか?」


「好き…っちゅーか、落としてみたいー…って感じ?」


「おいおい。あまり悪さをするなよ?」


「悪さなんかできひんよ。お嬢様やからな。まだ、なーんも知らへん無垢な16歳。」


「……」


 ナッキーは包丁を持ったまま目を細めて。


「そういう女ほど、後腐れが悪いぞ。やめとけ。」


 釘を刺すような口調。


「なんもかも初めてって、俺と目合わすんも死ぬ勢い。おもろいやん?そんなん、今まで見た事ないで。」


「どこで知り合ったんだよ。」


 トントントントンと、小気味いい音。

 ナッキーは包丁使いが上手い。


「あれや…ダリアのライヴで…」


「もしかして、『おもろい女がいた』ってやつか。」


「そ。次の日、公園でバッタリ。」


「で?それ以降ずっと会ってる…と。」


「ずっとやないけどー…まあ、初めてのタイプが珍しゅうて。」


 ナッキーは料理を進めながら俺の話を聞いて、途中で何回か首をすくめた。



 半分飲んだビールをテーブルに置いて、ギターを手にする。


「その子、ワンマン見に来るって?」


 フライパンで何か炒め始めたナッキーが、ちいとだけ俺を振り向いて言うた。


「ああ。友達と四人で来る言うてた。」


「…ふーん…」


「なんや。」


「いや?それで張り切ってるのかなと思って。」


「……」


 張り切ってる?


「まあ…ワンマンやし?」


「そういう事にしといてやるよ。」


「いや、ホンマやって。」


 ギターを立てかけて、ナッキーの後ろに立つ。


「翔さんも言うてたやん?今度のワンマン成功したら、デビューへの足掛かりになるかもって。」


「そうだな。だから頑張ってもらわなきゃ困る。その子には感謝しないといけないな。」


「だーかーらー、ちゃうって。」


 ナッキーの脇腹を突く。


「うはっ!!何すんだよ。」


 くすぐったがったナッキーは、すぐに俺に仕返し。


「ぐえっ!!やったな~?」


 フライパンで炒め物してる最中や言うのに。

 俺とナッキーが取っ組み合ってじゃれとると…


「…何してるの…」


 出掛けてたマリが帰って来て。

 胡散臭そうな顔をした。



 ―――――――――――――

 ふふ。

 可愛いな。

 この二人♡

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