第4話 なんや、ふわっふわしたような会話しながら、辿り着いた音楽屋。

 なんや、ふわっふわしたような会話しながら、辿り着いた音楽屋。


「俺はいっつも一階の奥の方でコソコソやってる。」


 俺のバイト先でもある一階のギター売り場を目配せする。

 るーは若干キョロキョロしながら、俺の後について来る。


 …親鳥にでもなった気分やなあ。

 いちいち社会見学みたいなるーに、小さく笑うた。


「るーは何かせえへんの?」


 チケット売り場の三階に、階段で向かいながら問いかける。


「…え?」


「楽器。」


「……」


 少しの沈黙。

 まあ…あんまイメージないな。

 こう言うたら悪いが、リコーダー持ってる姿ぐらいしか浮かばへん。


「…昔はバイオリンやってたんですけど、今は何も。」


「バイオリン…」


 バイオリン!?


「…上流階級の匂いやな。」


 思いがけへん答えに、一瞬狼狽える。

 み…見た目、確かにお嬢…やもんな。


 二階のピアノ売り場。

 高級コーナーの壁に掲げてある、大きなポスター。

 今まで何回も目にした事あるやつ。

 …初めて、意識した。


武城たけしろ 桐子とうこ』て…書いてあるしー…



「……まさかな。」


 ポスターのピアニストを指差して、るーをチラリ見下ろす。


「この人、知り合い?」


「母です。」


「!!!!」


 マジか!!


 も一回、ポスターをマジマジと見る。

 るーのおかん…なんちゅう上品な…

 で、るーのおかんが弾いてるピアノの値段が…


「……」


 つい目を細めた。

 こ…こりゃ…すげー…


 るー…クッソお嬢様やん…!!

 

 取り巻きはケバイのばっかやし…

 クラスの普通女子は庶民やし…

 まあ、俺も庶民やけど…



 …なるほどな。

 るーは筋金入りのお嬢様っちゅう事やな。

 それで、初めてだらけ…と。




「あら、マノン今日休みじゃなかったっけ。」


「よお、マノン。」


「来たならついでに働いてけばー?」


 階段ですれ違う顔に、いちいちそう言われながら。


「客で来てんねん。気安く話しかけんな。」


 どれもを軽くかわして、三階に辿り着く。


 るーは控えめにキョロキョロしながら、俺がカウンターでチケット予約の紙を取り出すと、遠慮がちに隣に並んだ。



 …自分のライヴのチケット申し込みって、初めてやな。

 まあ、ワンマン自体初めてやねんから、当然っちゃー当然やけど。


 日付とバンド名、チケット枚数と金額を記入する。


「何人で来る?」


「よ…四人…です。」


「四人な。」


 4…て書いた所で。


「…これ、男二人女二人?」


 首を傾げて、るーに問いかける。


「はい。」


「……」


「?」


「ダブルデートみたいやん?」


「……はい?」


「男二人女二人で来るの、ダブルデートみたいやんか?」


「……あ…いえ…全然そんなんじゃ…」


「妬ける。」


「……」



 レコード売り場から、アイドルの歌が聴こえて来た。


 夏の扉を開けて、私をどこか連れて行って



 からこうたろ。

 そう思って、妬ける。言うたはずやのに。


 目が合うた瞬間、戸惑って瞬きを繰り返したるー。

 おもろそうに、頬杖ついて眺めるはず…やったのに…

 何でやろ。

 俺まで、何回も瞬きしてもうた。



 …好みちゃうで。

 全然。


 それやのに…



 …なんやろ。

 これ。

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