魂の蝶

肉体を失った魂が行き着く先はどこでしょう?


透明な羽を羽ばたかせ

月夜に輝く鱗粉をふりまいて

軽々と 軽々と 飛んでいく


寂れた洋館の 広い広いお庭

妖しい花の香りに誘われて

魂の蝶は ふらふらと吸い寄せられ


だんだんと だんだんと

分からなくなっていく

自分が何者で

何処から来て

何処へ向かって

飛んできたのか


鱗粉は 想い出の欠片

生きてきた間に 経験したもの

覚えてきたもの 培ってきたもの

知らず知らず 飛ぶうちに剥がれて

夜の風に消えていく


からっぽにされた 魂の蝶は

何者かの手に 捕えられ

羽も 手足も 毟られて

知らぬ女の胎内に押し込まれ

再利用されて また産まれる


もう嫌だと言ったのに

この世界は地獄だから

もう産まれたくないと

あれだけ訴えたのに!


再び認識した音

脳を揺るがすような騒音

それは赤ん坊の泣き声

自分の奥底から 発せられたもの ―――




そんな 夢をみた



私が蝶になったのなら

殺虫剤で撃ち落として

殺してしまってほしい


完全に

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捨てられぬ遺書、消えぬ傷跡 山居 藍 @nyan817

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