第8話 やっぱり自虐男子

 さっきの金田朋美かねだともみの言葉に何故だろう。女性陣が空中で火花を散らしているようにも思えるのは、俺だけだろうか?


「なぁ皆で、あっちのベンチでゆっくり話そうぜ?」


 優しくかけたつもりの言葉でさえ、飯村佳子いいむらよしこは不服そうに言い返した。


「ねぇ増山くん、ビール足りないんじゃい?あっちで一緒に探さない?」

「えっ!?」

「ああ!もう!食べ物美味しいから取ってきて一緒に食べようよ」


 今度は財田優希さいだゆきが言い返す。


 何なんだ?この状況は。しかし金田はひとり俺から距離を取り始め、手を振り行ってらっしゃいと言わんばかりの態度。おっ、俺は金田と話したい。中学の頃と変わらなく細くてスタイルの良い高身長。今なら俺とはちゃんと釣り合いが取れる丁度良い高さの金田が、笑顔になり手を振っている。


 何故だ。俺のことが嫌いになったのか!? 何故だ。飯村と財田に腕を掴まれ、バルコニーから室内へと連れて行かれそうになる。俺の意思とは無関係に、引っ張られる腕の感触は心地良いものではない……。


「俺は金田と話したい!」


 引っ張られていた腕の力が緩まり、飯村と財田が惚けた。その瞬間「ごめん、俺はやっぱりあの頃から好きだった金田と話したい」はっきりと自分の意思表示をすることが出来た。手を振っていた金田の元へ戻っていく俺を見ると首を傾げて俺の顔を片目を瞑り、「いいの?モテキだよ?」とホッペを膨らませた。


 その言葉に俺は、首を横に振り「中学時代から思いを寄せていたこと知ってた?今更だけど、俺は金田しか今は見えない」と真面目に答えた。

 すると金田は、斜め上の夜空を見ながら言う。


「マッジメ! いいの? 私を乗りこなせる? 結構荒っぽい運転する車よ?」

「事故車じゃなければそれでいいんです。てか、再会にまずは乾杯しようや?」

「今日は長い夜になりそうね?」

「ああ、いっぱい乾杯しないと!このホテルでも泊まろっか?」

「ああ! ヤダヤダッ! 引くわそんな言葉! もっとロマンティックだと思った!」


 そう言いながら、口元を歪ませて、俺の立ち位置からスッと逃げていく金田。バルコニーを抜けて室内へと入っていく。

 失敗した。やばい。どうしよう。折角気に入ってくれたと思ったのに……。


 所詮俺の魅力はそんなものか……。否、俺が悪いのか?そんなことはあるまい!どうせ俺はモテないんだ……。そう思い首を垂れた。逃げていく金田を追いかけずにいると、しばらくしてグラスを片手に戻って来た。そしてグラスの水を俺に掛けて一言。

「好きなんじゃないの? 何で追いかけて来ないのよ! 馬鹿!」


 ほぉら! やっぱり俺は女に馬鹿にされてる……。グスンッ損な人生だわ……。

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モテない男子の自虐的日記 北条むつき @seiji_mutsuki

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