チャプター2 火種の足音

フェイル9 フェイルの眼は甘くない

 それから、1週間後のフェイルグループ日本本社、トリニティタワー94階の執務室では、セレスら4人が仕事をしていた。

 専属執事であるミクリオ達は、騎士団員達と表の社員の動きを監視しながら93階以下のフロアで分かれて働いている。

 

 そんなある時、85階の会議室でシングが先導で騎士団員と表の社員と会議を開いて話し合いをしていた。


「で? 君? この土地の見込みは?」

「そうですね、見込みとしては40億の収益しか出ません。出来れば、他の港区などは、どうでしょう?」

「うんうん! それもありだね!」

「シング常務秘書。話聞いてます?」

「うん、聞いているよ!」

「はい、その顔は聞いてないですね」


 騎士団員が、ツッコミをすると次の案件に移った。


 その時、会議室の外のオフィスにて1人の40代ぐらい男が何やら仕事しながら様子を見ていた。男は、自然な感じでトイレ休憩という形で席をたった。


「おい、あのおっさん。トイレ近いのか?」

「病院に診てもらえばいいのに」


 近くにいた表の社員2人の男がひそひそ話をしているのを気にせずに、トイレへ向かう。それをシングか見逃すはずがない。


 トイレの個室に入り前に辺りを見渡し、問題が無いのを確認した男は、入るとポケットから、スマホを出し誰かに掛ける。


「もしもし、加藤です」

『どうだ? 何も無いか?』

「今日は何も無いでですが、収穫がありました」

『言ってみろ』

「94階のセレスらの執務室に近くにデータ管理センターがあるみたいです」

『管理センター?』

「えぇ、そこは高い権限を持った人間しか入れない部屋があるみたいです。それだけはありません。執務室や奴らのプライベートエリアにも機密情報があるみたいです。恐らく、イギリスで労災が起きたバーク鉄鋼の消えたデータのうえに、奴らの正体が分かるかもしれません」


 それを聞いた上司と思われる男は、確信を持ったのかこう言った。


『分かった。何としても入手しろ。奴らの心臓部に侵入できる隙があるはずだ』

「はい。何としても」


 加藤が電話を切り、用がしたくなったので足した後、個室から出て、洗面台で手を洗った。

 手を洗ったあと、鏡を見ると……


「!」


 すぐ背後にシングが、きらめいた表情で彼を見ていた。


「シング常務秘書! 驚かさないでくださいよ!」

「ごめんね!」

「会議は、終わったのですか?」

「うん! 方針が決まったからね! ところでさ? 電話で何を話していたの?」

「!」


 加藤は、一瞬表情が崩れたが何とか持ち直し、冷静を保つ。


「あぁ、友人と相談事があって、会話していたのです」

「でも? 君から、電話を掛けていたし? 何か「データ」とか「奴ら」とか聞こえていたけど?」


 シングは、両手で加藤を抱き着いて目を輝かせて言った。


「そ、それは、友人の会社でデータとかが破損していたみたいのですよ。そこで、「奴らが怪しいからどうすれば白状できる?」と相談を持ち掛けられたのです」

「そう。君は、友達想いなんだね!」

「ありがとうございます」


 その時、シングを上手くごまかした加藤は隙を突いて彼のポケットからカードキーを入手していた。 


 そして、時間が経ち夜の10時頃、社員が全員いなくなった社内で、加藤は忍び足で94階へ目指す。

 入手したカードキーで94階へ侵入した後、データ管理センターへ入る。

 その部屋は、12機のデータサーバーがあり、青い照明で照らされ冷却装置が幾つも置かれていた。


「確か、この辺りに……あった!」


 加藤は、目的の最後列の左から二番目のデータサーバーを発見。すぐさま、引き出しのパソコンを引き、USBメモリーを差しハッキングしてコピーを開始。その画面には、犯罪行為のデータが映し出された。


「やはり、バーク鉄鋼のデータがここにあったのだな。これは、ひどい! インサイダー、不正データ、それに暗殺!? どういうことだ?」

「それは、フェイル薔薇騎士団からよ?」

「!」


 なんと!至近距離の背後にレベッカが冷酷の表情で加藤を見ていた。


「あんた、なんでこんなところにいるの?」

「それは……」

「それはぁ?」


 レベッカがさらに顔を近づけて睨み、威圧する。


「くそ!」


 加藤は、レベッカを押し飛ばし、逃走を図る!しかし!


「逃がさないよ!」

「ぐわぁ!」


 潜んでいたイクスに顔面を蹴られ、ダウンするのも立ち上がり、逃げる!

 だが、無意味。行く手にセレス達に阻まれ、逃げ場を失う。


「君ら、確保しろ」

「「は!」」


 イクスに命令された騎士団員2人は、加藤を捕らえセレス達8人の前に座らせる。

 セレスは、さっそく尋問を始める。


「お前の素性を調べさせてもらいました。前職は、城田商事で務めていたらしいですけど、調べたところそんな会社はありませんでした。経歴もでたらめ。学歴もでたらめ。これで、何かの目的があるスパイだと判明しました。お前、何者だ?」

「……」


 セレスの質問に答えない加藤をミクリオが腹に蹴りを入れる。


「ぐふぉ!」

「質問に答えろ。我々は、そんなに気が長いほうじゃない」

「まぁまぁ、ミクリオ兄さん。落ち着いてよ」

「ルカ、質問を答えない人間は嫌いだからな」

「……」

「質問に答えろ。加藤。お前は何者ですか?」

「死んでも話すか!」


 その時、レベッカが自身の剣で、加藤の左太ももを刺した!加藤は、悲鳴を上げ、涙を流して苦しんでいた。


「なら、書け!」


 シェリーが、ボールペンと紙1枚を加藤の前へ投げて、彼は紙に書いた。

 イクスがそれを拾いあげる。


「警視庁捜査一課。潜入か、指示したのは上司?」

「はい、そうです! 警部に任された統括する総指揮の捜査一課課長の上司が、「入社の手続きをするから、調べてくれ」と」

「なんで、潜入した?」

「「不法取引の摘発」で、潜入して」

「何の不正取引ですか?」

「金融の不正取引などだよ! 捜査二課らと協力して」

「でも、おかしいな?」

「は?」


 シングの言葉にきょとんとする加藤。


「捜査一課の課長は、その課の人間しか指示できないはずなんだよな? それに、これって権力乱用に当たるし? それに、捜査指揮の統括には警部がするはずだよ? それに、捜査一課課長はの指揮がするはずけど?」

「お前! 嘘ついたな?」


 セレスの威圧に恐怖の表情に染まった加藤は、涙がさらに溢れて悲鳴をあげた。


「ホントだってぇ! 俺もおかしいと思った! でも! そういう話になったんだよ!」

「でも、セレス姉ちゃんと同じで、私らもそうだよ?」

「加藤さん。ホントにそう言ったのですか?」

「そうだ!」

「僕が見る限り、ホントみたいだね」

「イクス兄さん。僕は、どうしても嘘に見えるな?」


 ルカは、ケガしている加藤の左太ももを強く踏んだ。 

 とてつもない激痛に悶絶する加藤。


「ぎゃー!」

「ねぇ? 何か知ってるでしょう?」

「ルカ。何してるの!?」

「あ! 待て! 思い出した!」


 加藤は、ルカの足を必死に叩き、どかせた。


「「思い出した」って?」

「噂に聞いた話だが、捜査一課課長の捜査指揮の統括を任した警部の裏に警視総監の神田が関わっている噂だ」

「警視総監の神田? 確か、10年前に就任した男か?」

「そうだ! ミクリオ! 奴は、警部へ通じて捜査一課長に権限を与えたらしい」

「なんで、警視総監があたしらに?」

「それは、分からん! おそらく、お前の組織が関係してるじゃないか?」

「どうして、そんなことが言える?」


 加藤は、苦痛に耐えながら続けて言った。


「10年間、お前らのような組織を摘発する前、部下達に正体を教えずに捜査させたらしい。それも、必ず今言ったやり方で捜査指示をしているらしい」

「どうして、そんな噂が広まったのですか?」

「解決後には、組織の割にはあまりにもデカすぎるから不自然さが浮上していたのだ。捜査一課長には、なんもメリットないし、もしかしたら、警視総監が関係している疑惑が出ていたのだ。それもそうだ。何せ、東京都知事の赤坂と龍神会がつるんでいる噂も出ている!」

「レベッカ様、確かに過去10年間に摘発された犯罪組織は、我々に近い規模の組織ばかりです」

「……」

「詳しい話は、後で聞きます。貴方達、牢屋に連行しろ」

「「はっ!」」


 セレスの命令で、騎士団員達は、牢屋に連行した。


 これが、赤坂らとの戦いの火種になることになる。






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