絶望、悲嘆、そして……

 十月十九日。ケイは自殺しました。十九日の朝六時二十五分、母から電話がありました。朝早くに迷惑だなと思った事を記憶しています。その後にケイの死を知らされて、そんな気持ちは吹っ飛びましたが。

 ケイはベッドで眠ったまま冷たくなっていたそうです。枕元には睡眠薬や精神安定剤のカラが散らばっていたと聞きました。

 ああ、ケイはメンタルクリニックに通っていたんです。不安定になっているケイに薬の管理は任せられないので、母が持っていたはずなんですけど。隠してあったものをケイが探し当てたか、偶然見付けたか……。


 情けない話ですが、私はなかなか現実を受け止められず、信じられない気持ちで実家に帰りました。もしかしたら母の早とちりではないかと、ありえそうもない希望にすがっていました。

 実家に着いたのは正午前です。両親の私に対する第一声は謝罪で、それに私は大きな衝撃を受けました。何で謝るのかと最初は思いましたが……。責任を感じていたんでしょう。あの時にケイを一人にしてしまった事、そしてケイの自殺を止められなかった事。

 両親の謝罪で私はいよいよケイが死んだという事実を受け入れざるを得なくなっていました。私がケイはどこかと聞くと、母がケイの部屋のベッドに寝かせたままだと答えたので、確認しに行きました。

 ケイはパジャマのまま、安らかなほほ笑みを浮かべて眠っていました。私は悔しい気持ちでいっぱいでした。私は兄としてケイを守れなかったんです。ケイは私達と生きるより、死を選びました。そうする事でケイは安らぎを手に入れたのです。逆に言えば、そうしなければ安らげなかった……。


 夕方には葬儀屋さんが来て、お通夜の準備がはじまりました。本当は私がしっかりしなければいけないのですが、私はケイの遺体が運び出された後の誰もいない部屋で、ただ呆然としていました。

 私は何が悪かったのか、ずっと考えていました。あの時、私がもう少し、数分でも早く実家に帰っていれば、御座タクヤを止められたんじゃないのか。ケイのメンタルが不安定になっていると知っていながら、どうして仕事を優先して、側にいてやれなかったのか。そもそも事が起こる前に、ゴールデンウィークにケイを止める事はできなかったのか。あの葉書が実家に送られて来るより前にケイを探しに行けたんじゃないのか。もしかしたら、ケイを御座家から無理やり連れ帰ったのが悪かったのか。あそこでケイを連れ帰らなければ、ケイは最悪でも死にはしなかったのではないか。でも、御座家で生き続けることが幸せなのか……。

 今でも後悔は尽きません。何か一つ、どれか一つでも違っていたら、ケイは生きていたのではないか、死ななかったのではないかと、考えずにはいられないのです。



 葬儀は二十一日、火葬はその日の午後でした。御座家の者は来ませんでしたが、それでどうこう言うことはありません。来なくて良かったと思っています。どうせ来られても塩を投げつけるくらいしかできないので。

 私は葬儀の最中もずっと重苦しい気分でぼんやりしていましたが、火葬の後ケイの真っ白な遺骨を骨壺に納める時に、ふと思いました。

 ……御座家を許してはいけないと。

 そう思い切ると、まるで霧が晴れるように鬱屈した気分が抜けて、視界も思考もすっきりしました。そして私は復讐を決意したのです。タクヤだけでなく彼を育てた家も、同じ村の人達も、私はケイを苦しめた元凶である全てのものを憎みました。

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