御座託家再び

 十月十二日、私は二週間ぶりに実家に帰りました。ケイが元気になって、毎週実家に帰って様子を見なくても大丈夫そうだと思ったので。

 しかし、その日、実家の前の道路には、見慣れない一台の中型バイクが停めてありました。私はとても嫌な予感がして、その場で車を路肩に停め、実家に駆け込みました。そして……玄関前で私はタクヤと鉢合わせました。そう御座タクヤです。

 御座家のタクヤがW村から出て来たという事実に、私は恐怖を感じていました。W村からケイを連れ出して、もう縁は切れたものだと思っていましたから……。私の考えが甘かったのです。


 玄関の戸は少し開いていました。私はカッとなって、タクヤに掴みかかり、何をしていたのか問い詰めました。彼は抵抗せず、「ケイに会いに来た、もう帰る所だ」と言いました。私は彼を突き飛ばし、二度と来るなと言いました。それなのに彼はさわやかな笑顔で私に、「あんた、良い人だ。俺にもあんたみたいな兄貴がいたらなあ」と。

 私は寒気を感じて震えました。バカにするとか挑発するとかいう風ではなく、心の底からそう願っているような……。今思えば、彼は私がケイに向ける愛情、家族愛を羨んでいたんでしょう。何か証拠があるわけではないのですが、そうなんじゃないかと思います。

 ……いや、私の勝手な推測ですよ。全く行動が理解できない人間を見て、何とか彼の心理を理解しようと、納得できる理由を探してしまうんですね。自分自身を落ち着かせるために。何か理由があったに違いない。事情があったに違いないと。何を思っても今更なんですけど、性分なんでしょうか。つまらない人間です。


 彼は私に不気味な笑顔を向けたまま、バイクに乗って去っていきました。彼が去ったのを見届けた私は、すぐに家の中に入りました。

 ケイは……。ケイは二階の部屋の隅で、小さくなって震えていました。私に怯えた顔を向けて……。私はケイを抱き締めて、「もう大丈夫、あいつは帰った。怖いものは何もない」と言って、宥めました。安心したのかケイは泣き出して。

 両親は外出していたそうです。タクヤはその隙を狙って来たんでしょう。偶然では片付けられません。彼は家の場所を分かっていて、機会を窺っていたんです。

 どこまで彼の計算通りかは知りませんが、最悪のタイミングでした。ケイは恐怖で再び引き篭もるようになり、食事も取らなくなってしまいました。最初は家族といっしょに食べようとしていたんですけど、一度吐き戻してしまって……。それからは全然……。

 そして……。

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