燃え盛る殺意

 決行の日を十一月一日に定めて、私は周到に準備をしました。だいたいは刑事さんに話した通りですから、ジャーナリストの方なら今更の情報かも知れませんが。


 私は十月二十三日に会社に休職願を出して、慎重に計画を練りました。ケイの初七日もすっぽかして、W村の地理を入念に調べ上げて。

 そしたら貯金を使い果たすつもりで灯油とガソリンをまとめ買いしました。いくつものスタンドを回ってね。もう寒くなる時期でしたから、全く怪しまれませんでしたよ。それで村の近くの林に隠し置いて。

 決行の三日前には会社に退職願を出して、身辺整理を終えました。

 前日も追加で灯油とガソリンをまとめ買いして、車のトランクいっぱいに、後部座席にまで積み込み、人が寝静まる深夜を待ちました。


 数日晴天続きだったので、決行当日は乾いた風が吹く、絶好の放火日和でした。事前に村を通る水道管をぶっ壊して、消火栓も使えないように破壊しました。

 それから私は村中に灯油とガソリンを撒き、火を放ちました。誰も逃がさないように、それぞれの家を囲むように。特に御座家には念入りに。木造の家は、よく燃えるでしょう。たちまち真っ赤な炎が村全体を覆って、激しく燃え上がりました。


 私はすぐに村から離れ、一つの村が燃え落ちる様を遠くから眺めました。何とも言えない心持ちでした。腹の底から暗い感情と笑いが込み上げて、狂ったように笑いました。心は冷めきっていて、何も面白くなんかなかったのに……。心と体がバラバラで、まるで誰かに体を乗っ取られているような気分でした。

 私は燃える村を見ながら、火葬場の炎を思い浮かべていました。ケイの遺体を焼いた炎です。私は村の全てがケイと同じように、灰色の燃えカスになるように呪っていました。そして泣きながら笑い続けました。

 泣いたんです。ケイの死後も、葬儀の時も、ずっと落ち込んだ気分でしたが、涙は出ませんでした。それが復讐を果たして、ようやく泣けたんです。


 二時間後ぐらいに消防車が到着しましたが、もう間に合いません。私は炎が収まるまで、ただ立ち尽くして見守っていました。

 夜が明けて火が収まる頃には、変な笑いも収まって、もう何もない空っぽの気分でした。

 一日の午前中に、私は警察に自首して全てを話しました。私が全部一人でやったと言っても、なかなか信じてもらえませんでしたけどね……。

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