希望の絆

 翌日のことだった。


「……もうここには来ないんじゃなかったのか本城」

「ウザいなもー、ほんとお前ウザい」

「俺のことはいいけど、ッ師匠に迷惑掛ける真似だけは止せよ!」


 本城さんを説得できたと思った矢先、犬猿の仲が早速衝突している。

 ため息しか出ない。


 二人が言い争っている最中、俺は宰子ちゃんと若子ちゃんの傍に寄った。


「ごめんな二人とも、これじゃあ集中出来ないよな」

「うん」

「でもさぁ三浦くん」


 鈴木多羅の愛娘である若子ちゃんは何か言いたそうだ。

 たおやかな声色で、でもって? と聞いてみれば。


「若い年頃のあの二人が、どっちも言い負けないで意見をぶつけてるのはとても有意義なことじゃないかな。鳴門兄ぃも口軽い本城姉ぇにようやく真っ向から立ち向かえてるようだし、あの二人は今日を境に何かしらの成長を見せるよ。って私は思うけど三浦くんは?」


「……」


 若子ちゃんは、もしかしたらこの教室に居る誰よりも大人だった。

 俺は若子ちゃんの何倍もの年齢なのに、人生経験がとんと足りてないな。


「若子ちゃん、良ければ俺の師匠になってくれない?」

「ブー! 正気か三浦くん」

「父さん……」


 俺の師匠は、学校の恩師ぐらいしかいなかったし。


 何しろこれで、俺も四人の弟子を持つ身になった。


 ……思えば、彼女たちを弟子に取るまでの俺はそこはかとなく絶望していた。


 目が覚めた後はウミンの重荷になるような余生の過ごし方しか、考えられなかったし。病室のベッドで寝ている間に、裏切るよう結婚された彼女と先輩に不快感を覚えていた。


「本城テメエ死なすぞ!!」

「はいはい、やって見せろよキモデブ! そんな根性テメエにねぇだろ!」


「……」

 今は殺伐とした弟子たちだが、それでも弟子たちは俺の希望の象徴だよ。


 生憎師匠を持ったことのない俺は、弟子の気持ちが判らないけど。


 四人の弟子を持った師匠としての感慨は、希望に満ちている。


 それが俺が思う師弟のカルチャー。


 人はなぜ師を持ち、弟子を取るのか。


 それは師弟の間で繋いだ希望の絆の証だったのだろう。

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