第8話 「海さん、明日の天気、バッチリみたいよ?」

 〇二階堂 海


「海さん、明日の天気、バッチリみたいよ?」


 本部から直接桐生院に行くと、咲華さくかが嬉しそうな顔で言った。

 その足元で、リズがニコニコしながら俺を見上げてる。


「そうか。絶好のお出掛け日和か。」


 リズを抱えて頬を合わせると、リズは嬉しそうに手を叩いて喜んだ。



華音かのん紅美くみちゃんも誘ったんだけど…」


 二人を誘ってもいいか、と言ったのは、沙都さとだった。

 俺は構わないが…


 あまりにも近い所で複雑に気持ちが繋がってしまっただけに、マイナスな想いを持ってる者もいるのでは…と思ったが。

 意外と、咲華も華音もあっさりOKと言った。

 …が。


「紅美ちゃんが乗り気じゃないみたいで、華音が少し落ち込んでるの。」


 咲華が意外な事を言った。


「…紅美が乗り気じゃない?」


 首を傾げて聞き返すと。


「……」


 大部屋は無人だったが、風呂に入ってる華音が出て来る可能性もあるからか…

 咲華は俺の腕を引っ張って、広縁まで歩いた。


「華音がすごくしょげて帰って来たから、どうしたのかってしつこく聞いたら…ね?」


「ああ…」


「おまえ、酔っ払って海と結婚したんだよな。って、ひくーい声で言われて。」


「……それで?」


「酒飲んで状況判断が出来ねーとか…あり得ねーよな…って、すごく機嫌悪くて。」


「……」


 グサグサ。


 もう歓迎されたと思ってたが…

 何かあったのか?


「それで、しつこく問い詰めたら…」


「問い詰めたら?」


「夕べ、紅美ちゃんがルームで飲んで、沙都ちゃんと朝までそこにいた…って。」


「えっ。」


「何もなかったって言い張るわりに、紅美ちゃんがすごく狼狽えてるらしくて…」


「……」


「華音が素面であんな事あたしに話すなんて…よっぽど弱気になってるのかなって思った。」


 …確かに…

 華音は素面の時に、あまり弱音は吐かないと思う。

 付き合いは浅いが、かなり濃厚な時間を共有させてもらって。

 その性格は…十分解かったつもりではいる。


 そもそも…沙都と紅美が朝まで飲んでようが…

 いくら二人が付き合ってたとは言え、華音がいる今、妙な行動は起こさないはず。

 軽率だったとしても、二人の歴史や絆を思うと…許容範囲じゃないのか?



「後で華音と話してみようか。」


 首を傾げてそう言うと、俺の腕にいるリズが同じように首を傾げて、咲華と二人で笑ってしまった。


「ふふっ…うん…せっかく父さんと母さんが上手くいき始めたのに、華音が…なんて、ちょっとスッキリしないから…」


「…そうだな。」



 俺は三日後には渡米する。

 俺の拠点が日本じゃないだけに、俺が現場のたびに渡米すると…一緒に居る時間は少なくなってしまう。

 だが、咲華が常に家族のそばにいれば、安心出来る。

 俺としては…咲華とリズの安全をと思うし…

 こっちに居てもいいんだぞとは言ったが、咲華は向こうで俺の帰りを待ちたいと言ってくれた。


 …その言葉に、俺の欲が勝ってしまった。

 二人の安全を願う反面、そばに居て欲しい…と。

 その分、俺が必ず守ってみせるとの決意もより強くなった。


 咲華とリズは、沙都とトシの休暇が終わる来週、一緒に渡米予定。

 桐生院家のみんなには…少し後ろめたい。

 でも、いつでも咲華が帰れるような配慮はするつもりだ。



「…何考えてるの?」


 咲華が俺の目を覗き込む。


「…この幸せを、みんなに分ける事が出来るといいのになーって思ってた。」


 俺が小さく笑ってそう言うと。


「やだ、もう。海さんて可愛い。」


 咲華は俺の両耳を引っ張って。


「明日、すごく楽しみ。」


 最高の笑顔になった。




 〇桐生院華音


 あー…サッパリした…


 髪の毛をガシガシとタオルで拭きながら風呂から出ると。


「よ。一杯どうだ?」


 部屋の前で、海がビールを掲げて言った。


「……」


 咲華め。

 …いや、伝わるのが分かってて、言ったよな…俺も。


「…大部屋、誰かいんのか?」


「咲華とリズだけ。」


「じゃあ、あっちで。」


 俺がそう言うと、海が少し意外な顔をした。

 …ああ…もしかして俺、無意識に『らしくない』のかもしんねーな…。



「腹減ったー。」


 そう言いながら大部屋に入って、冷蔵庫を開ける。

 座ってテレビを見てたリズが振り返って。


「あっあっ。」


 俺を指差して咲華に何か訴える。


「もう…また何か食べたいって。」


 咲華は俺に目を細めた。


 …冷蔵庫を開けると食欲が沸くのか?

 どこの娘だよ。



「このサラダ食っていーの。」


 冷蔵庫にあるサラダを手にして言うと。


「いいわよ。お鍋にカレーとおでんもあるから。」


 カレーとおでん…

 一杯飲むならおでんだが…

 咲華のカレーは微妙に美味い。


「海も食うか?」


「ああ。サンキュ。」


 思いがけず義弟となった海の分のカレーも用意して、テーブルに運ぶ。

 案の定、リズがすごい勢いで近寄って来た。


「もー、リズはおしまい。」


 咲華がそう言ってリズの腰をガッチリ捕まえると。


「あーーーん!!」


 リズは号泣。


「泣いてもダメです。明日お出掛けなんだから、もう寝ようね?」


「ああああーーーー!!」


 リズにこんなに泣かれちゃあ…俺は一口でもやりたくなるが…


「リズ、明日キリンさんに会えるかな~?ゾウさんにも会えるかな~?」


 不意に、海があまりにも可愛くリズにそう言ったもんだから…


「……」


 俺は瞬きも忘れて海を見入った。


「もうねんねしような?」


 海は咲華の腕からリズを抱き取って。


「ちょっと寝かせて来る。」


 部屋に歩いて行った。


「……あいつ、可愛くなったな。」


 海の背中を見ながらそう言うと。


「ふふっ。何それ。」


 咲華は俺が海に用意したカレーを手にした。


「おまえ食ってないの。」


「うん。海さん待ってたから。」


「なのにそれ食うのかよ。」


「冷めちゃうでしょ?」


「……」


 まあ…いいけど。



 咲華はー…志麻と付き合ってる時より、ずっとずっと…咲華らしい気がする。

 嫌われたくないから~しない。って雰囲気が、まるで無くなった。

 それはそれで、もう少し海に気を使ってやれよ。って思わなくもないが…

 海は、こういう咲華だからこそ、好きなのかもしれない。



「あっ、せっかく華音が入れてくれた俺のカレーを…」


 咲華がカレーを食い始めてすぐ、海が戻って来た。


「えっ…リズ、もう寝ちゃったの?」


「ああ。返してくれ。」


「もうっ。新しいの入れるってば。」


「それがいい。」


「華音が入れてくれたのが、そんなにいいの?」


「久しぶりだからなー。」


「はいはい。」


 若干気持ち悪ささえ感じてしまう可愛らしい海が、咲華からカレーを戻してもらって。

 咲華がブツブツ言いながら、自分用のカレーを用意する。


「…寝かし付けが上手いな、パパ。」


 俺が小声でそう言うと。


「リズも咲華も、横になったらすぐに眠る。習慣だろ。」


 海はカレーを一口食べて、うん。と小さく頷いた。

 …こいつも咲華のカレーは好きらしい。


「何か寝かし付ける術でもあんじゃねーのか?二階堂。」


「あるか、そんなの。」


「それで咲華の事も…」


「バカ言うな。」


 海と小声で会話を続けてると。


「何々?何の話?」


 咲華がカレーとおでんを持ってやって来た。



「明日、どこで合流する?」


 咲華から話を聞いたであろう海が、真顔で言った。


「…行かねーかも。」


「なんで。」


「あいつが乗り気じゃねーから。」


「おまえは?」


「あ?」


「おまえは行きたくないのか?」


「俺はー…」


 こいつ、何言ってんだ?って顔をしたかもしれない。

 何が悲しくて、乗り気じゃない紅美と、もしくは紅美抜きで行く気にならなきゃなんねーんだ。

 それが顔に出てしまったのか…海は俺に少し顔を近付けて。


「動物園に水族館。絶対……」


 さらに真顔になった。


「…絶対…なんだよ。」


 少し…体を引いてしまった。

 そんな俺達を見ながら、咲華はおでんのおかわりを持って来た。


「絶対…」


「…絶対…?」


「リズが可愛い。」


「……」


「あいつ、はしゃぐだろうなあ。」


 少し浮かせてた腰を下ろして、海は咲華を見て笑った。

 咲華は首をすくめて俺を見て。


「海さん、親バカ丸出し。」


 小皿に牛すじと大根を取った。


「このチャンスを逃したら、次はいつ行けるか分からないからな。」


 海はそう言ってグラスを手にする。


 …確かに、そうだよな。

 海だけじゃない。

 もうすぐ、沙都と曽根も向こうに戻るし…咲華とリズも。

 みんなで出掛けるなんて、そうそう出来るもんじゃねー。


「…それなら、全員で行こうぜ。」


 急に、そんな気になった。

 紅美と俺の問題なんて、後回しだ。


「あ?」


「え?」


 二人がキョトンとして俺を見る。


「みんなで行けばいいんだ。海、おまえの身内にも連絡しろ。」


 俺がそう言ってスマホを取り出すと。


「いや…そんなに大事にしなくても…」


 海はそう言ったが。


「…ま、大勢の方が紅美と接しなくて済むかもしれないしね。」


 咲華は冷静に、そんな事を言った。


 …少し図星だったりする。



『明日、午前中に動物園、昼飯挟んで午後から水族館。参加者は海と咲華とリズと俺(俺は午後から)、沙都と曽根。参加希望者は早めに名乗り出るよう』


 まずは、家族のLINEに回すと…


 華月『午前中は取材( ノД`)シクシク…水族館は行きたーい!!』


 じーちゃん『それは是非行きたい…所だが、明日は無理だな。なぜ早く言わない!!』


 ばーちゃん『あーん。あたしも無理だー。ずるいよー( ノД`)シクシク…今度付き合ってね』


 親父『必ず行くから待っとけ(スタンプ)』


 母さん『必ず行くから待っとけ(スタンプ)』


 聖『ねーちゃんのスタンプwww明日の事を今言うとか。無理だし。写真たくさんよろしく。もうすぐ帰る』



「……」


「……」


「……」


 次々と返って来るLINEを三人で読んで。


「これって、母さん…ふふっ…父さんに打たされてるよね。」


「間違いねーな。」


「微笑ましいじゃないか…って…華音、紅美との事…」


 海が顔を上げて、それにつられて咲華も俺を見た。


「あー…バレてるよ。親父にも母さんにも。」


「そうなの?」


「ああ。ついでに、じーちゃんとばーちゃんにも。」


 つい、唇が尖ってしまった。

 俺はそんなに分かりやすいのか?

 じーちゃんとばーちゃんに限っては、紅美とこうなる前からバレてたもんな…


「…沙都とトシにも、さっきの連絡を転送したが…トシは一人で来るって言って、沙都は両親と甥っ子とで来るって。」


 海がスマホを見ながら言った。


「すげー人数になりそうだな…」


 この際、紅美とのどうのこうのは忘れて…家族の思い出作りだ。って切り替える事にした。

 こうなったら、何人でもいい。

 紅美が来なくても。

 海と咲華とリズが楽しめれば…それでいいんだ。





 〇桐生院知花


「まったく…華月のやつ…」


 ソファーであたしを抱きかかえたまま、千里がボヤいてる。


 今日…千里は、あたしに『らしくない格好』をさせて…

 自分も、すごく…すごくすごくすごく!!らしくない格好で事務所に行った。


 そりゃあ、家では…部屋着になるけど…

 それでも、モノトーンカラーが多い千里。

 それが今日は、オリーブ色のプルオーバーパーカー。(初めての色)

 胸の真ん中に、カナダの国旗みたいなゴールドのメイプルリーフ入り。(模様入りも初めて)

 それを嬉しそうに着てる千里見ると…ついついあたしも、千里に言われるがまま…。


 あたしはルームでみんなから恥ずかしいぐらいコメントをもらって…

 千里は、華月のインスタグラムにupされて…すごい数の『いいね』がついて、夕方のネットニュースでも話題になってたみたいで。

 華月のフォロワー数もさらに増えたり、昨日の今日で…千里にはファンも増えた。


 それから、華月はあたしとのツーショットも撮って、家族のLINEに回してて。


 咲華『ああ~幸せ~♡』


 聖『どこの双子かと思ったwww』


 華音『母さん…どした?てか、華月のインスタの親父…』


 母さん『やだー!!可愛いー!!あたしも咲華と同じ格好して撮りたいな♡』


 父さん『見たいけどやめとけよ…』


 母さん『えー!!』


 華音『やらしてやれよ…』


 千里『考え直したほうがいいと思う(スタンプ)』


 母さん『Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン』



 何だか…とても平和。

 そう思いながらスタジオに入って…

 今日はF'sが先に仕事が終わったのに。

 千里はあたしが終わるのを待っててくれたみたいで、スタジオが終わる少し前に…


『まってるにゃー(スタンプ)』


 って…LINEが来てた。


 …ロビーかな…それとも、うちでかな…

 って悩みながら。


『いま出ました(スタンプ)』って返した。


 らしくない格好だし、ロビーで待てるのかな…って思いながらも、エレベーターを降りてロビーを見渡すと…

 里中さんと笑いながら話してる千里、発見。



「…お待たせ…」


 小声で近寄ると。


「……えっ、知花ちゃん…」


 振り向いた里中さんに…二度見されてしまった。

 ああああ…今更だけど、やっぱり恥ずかしいー!!


「かわいーだろ。」


 千里が自慢そうにあたしの肩を抱き寄せる。


「一瞬、年齢を確かめそうに…」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


「いや、ほんと…二十代に見える…」


「惚れんなよ?」


「千里っ。」


「さくらさんも年相応に見えないけど…知花ちゃんも実は年取ってないんじゃ?」


「そんなわけないですよ……も…もう帰ろ?」


 あたしが千里を見上げて言うと。


「だな。じゃーな。」


 千里はゴキゲンな様子で、里中さんに手を振った。



 帰りに『トミヨシ』で買い物をして…

 帰ってすぐ、今夜は珍しく…まずは千里がシャワーに。

 その間、あたしが食事の支度をして…


「湯張っておいたから、おまえ風呂入って来いよ。」


 千里が…ビックリな事を言った。


 お湯を張ったのに…一人で入っていいの…!?

 別に一緒に入るのが嫌なわけじゃないけど、千里の気が変わらないうちに…と思って。


「じゃあ…お言葉に甘えて…」


 あたしは、一人でお風呂に。


 …だけど、意外にも…

 一緒に入りたかったなー…なんて思った。

 ここでは本当…誰にも遠慮なく、二人きりを満喫出来るだけに…

 あたしも、もっと積極的になっていいんじゃ…?


「……」


 ああ…ダメだ。

 考えると熱くなる。

 って…あたし、何しようとしてるのー!?


 あたしがお風呂から上がると、千里は…

 …キッチンで…


「…何を?」


 つい、立ち止まったまま聞いてしまった。


「何って…飯よそってる。」


「……」


 あたしのお茶碗、てんこ盛りのご飯…


「…ありがと…でも、ちょっと多いかな…」


「もっと食って、もう少し太れよ。」


「え…えっ?」


「もう少し胸が…」


「あっ…もう!!気にしてるのにー!!」


「あはは。嘘嘘。メディアに出始めると、体力勝負だぜ?」


「……」


「走りこんでるのは知ってるが、以前と同じように食って運動量だけ増やすのはいただけない。」


 ご飯をよそってくれてるだけでも驚いたのに…

 あたしの事、ちゃんと考えてくれてるのが…すごく嬉しかった。


「…うん。少しずつ増やしてみる。」


「そうしろ。参考までに、鶏肉や大豆、キャベツやチーズはバストアップに…」


「不満なのね…」


「冗談だっつーの。」


 冗談に聞こえない!!



 それから…一緒に食事をして…

 またまたビックリなんだけど…

 一緒に片付けをして…一緒にソファーでくつろいでると…


「華月のやつ…まだ詩生とルームにいやがる。」


 スマホを手にした千里が、眉間にしわを寄せて言った。

 それを覗き込むと…華月のインスタグラム。

 詩生ちゃんと頬寄せ合って…素敵な笑顔の二人。


 ふふっ。

 可愛い。


「…いいんじゃないの?華月だって、もう子供じゃないんだから…」


「子供だ。」


 千里はそう言いながら、華月にLINEしてる。


 もう…


『わかってんだろうなぁ(スタンプ)』


 千里がそう送ると、華月から…


『なにそれ(スタンプ)』


 って返って来た。


『あー…そーゆーこと言う?(スタンプ)』


『諦めて寝ろ。(スタンプ)』


「…千里、怒らない怒らない…」


「遅い。」


 千里はスマホを操作して電話をかけ始めた。


「あ、早乙女?おまえ、まだ事務所か?ああ……詩生と華月がまだルームにいる。早く帰れって言ってくれ。」


 …相手は、セン。

 そしてそれを切って。


『必ず行くから待っとけ。(スタンプ)』


「どうしてルームだって分かったの?」


 千里の胸に寄り掛かったまま問いかけると。


「彰のギターが後ろに写ってた。」


 千里は真顔。

 あー…もう。

 機嫌悪くなっちゃった。


「…あたしは16歳で結婚した。」


「……それが?」


「桐生院の父さんは、あたしがあたしでいられるならって、結婚を許してくれた。」


「……」


「千里、頑固過ぎない?華月が結婚出来なくなったら、千里のせいになっちゃうわよ?」


 あたしは千里の胸から離れると、自分のスマホを手にして。


「あ、華月?詩生ちゃんと一緒?うん…あ、そう。いいのいいの。明日の仕事に差し支えないよう、楽しんでね。」


 華月に電話した。


「おい。」


 千里があたしの腕を取ったけど。


「華月に『父さん嫌い』って言われたいの?」


 咲華に言われた時のショックを思い出したのか…


「…おまえ…えぐりやがったな…」


 あたしの肩に頭を乗せて、唇を尖らせた。


「……」


 拗ねた顔が可愛く思えて…


 チュッ。


 あたしからキスすると…


「…アンコール。」


 千里が、あたしを見上げて言った。


「…お願いだから、見守ってやって?」


「…それとこれとは別。」


「じゃあアンコールなし。」


「……」


「もっと…すごい事もしたかったのに…」


「……(ゴクン)」


「二人きりだから…あたしだって、たまには…その…積極的に…って…」


 ああ…赤くなってるのが分かる。

 だけど…ここは華月のため!!


「尊敬される…父親でいて欲しいの…」


 千里の頬に手をあてて…恥ずかしいけど…耳を甘噛みした。


「はっ…」


 うわあー……千里が可愛い声出しちゃった…

 調子に乗ったあたしは、千里の耳元に小さく音を立てながらキスをして。


「…ね?華月と詩生ちゃんの事…もっと…信用して…?」


「………努力…………す…」


 千里がとろけそうな声になってるーーー!!


「ほん」


「してくれ。アンコール。早く。」


「……」


 もうっ!!

 せっかち!!

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