Scene:11「潜入」

 暗闇に覆われた廃墟が合った。

 朽ちたドア、生い茂った植物、そして崩れた壁。

 かつては生活のために人々が行き来していたビル郡はしかし現在その面影はどこにもない。

 人を失い熱気を失い、そうして最後に残されたのは人がいたという痕跡のみ。

 吹く風が虚しく人無き道を駆け巡り、そして去っていく。

 しかし、そんな場所にも僅かながら人の集っている場所があった。

 かつては都市の中心であった場所。商業ビルが立ち並び、そこに人を運ぶための車両やバスが入り乱れていたその場所は廃墟となった今、複数の強盗団が寝泊まりするための拠点となっている。

 それぞれの強盗団は別々の建物を利用しており、夕食後の時間である今、見張り以外の連中はそれぞれ思い思いに就寝までの暇を潰していた。

 既に眠る者、酒を飲む者、遊ぶ者。その日の疲れやストレスを吹き飛ばすように気を緩めて短い自由の時間を謳歌する。

 それは心地よい時間であり、しかし同時に一番警戒の緩い時間帯でもあった。

 そんな拠点の死角となる外側を密やかに動く者達がいる。

 数は三人。見咎められる事を避けるように周囲を警戒する彼らの正体はシュウとフィア、それと見知らぬ女性の三人であった。

 女性の正体はフォルンが強盗団を調べるために事前に送り込んだスパイである。


「こちらへ」


 女性の名前はフレイ・クルス。フォルンの出身で主に密偵や偵察等の情報収集関連の役割を任せれているという話だ。

 動きやすさを重視した銀色のシニヨンの髪。澄んだ青い瞳は月明かりを反射して幻想的な色を映し出している。

 俗に言う美人に該当する人種であるのだが、真面目な性格のせいか常にいかめしい表情を浮かべており、フォルン内の女性として評判は今ひとつという話だ。

 フィアも『愛想を覚えればいろいろと役得なのに勿体ない』と言っていたが、本人としては変える気がないらしい。まあ、本人がそれでいいなら問題ないだろうと週も思う。

 三人の目的は単純だ。オルクス率いる本体が仕掛ける前に敵の数を削るだけ削る事。

 手段は何でもありだ。建物を崩せるほどではないが、爆弾も持ち込んでいるし、毒物も少量ではあるが用意もしている。

 オルクス達は現在、強盗団に発見されないギリギリの位置で待機しており、三〇分経過するか、あるいは爆弾等の派手な動きがあった場合に動き出すという算段になっていた。


「角を右に曲がった先に二人」


 と、シュウの耳が異能によって増幅された足音を拾う。

 異なる足音が二つ。こちらへと近づいてきている。

 同時に聞こえる音の中から見るに片方は銃器を、もう一人はホルスターに拳銃を下げているようだ。甲高い音がするのはガラスだろうか。どうやら酒瓶をもっているらしい。


「――私が気を引きますのでその間にお二人はそのまま真っすぐ向こうの建物まで向かって下さい」


 シュウの報告を受けたフレイはそう応えると一人丁字路の角の向こうへと消えていく。

 シュウが音の方へと意識を向けると、丁度フレイに気付いた二人が声を掛ける所だった。

 どうやら今日の仕事で手に入れた戦利品の酒を無断で持ち出して飲む気らしい。

 フレイもどうかと誘われたが、彼女は悩む素振りを見せている。どうやらそれで時間稼ぐつもりらしい。

 そうして考える仕草をしながらそのまま自然な動きで彼らの後ろへと回り込む。当然、二人の視線は後ろへと回る。つまり、今シュウ達のいる方向に背中を見せる訳だ。

 それを確認し、二人は一気に走り出す。当然ながら足音をたてる愚は犯さない。シュウは異能で消しているし、そもそも足音を出さない走り方など訓練で学んでいる。それはフィアも同様だ。

 故に二人は相手に見つかる事なくあっさりと丁字路を通過する事ができた。

 そのまま二人はフレイに言われた通り建物へと向かう。

 彼女が示した建物は元はマンションのようだ。エントランスに入ると崩れた天井と割れた窓ガラスから差し込む月明かりが二人を出迎える。

 元は高級な場所だったのだろう。広々とした空間に装飾の凝らされた調度品が己を主張しすぎず寄り添うように置かれていた――最も現在は時の流れによって多くが朽ちてしまっていたが――。

 後はここで待つだけだが怪しまれないように会話を終えるなら多少時間が掛かるだろう。なので、シュウは少し建物の内を探索する事にした。


「ちょっと、回ってくる」

「廃墟探検をしたいなんて子供ねー」

「大人のつもりならもうちょっと寛容に答えろよ」


 そんな軽口の応酬を掛け合った後シュウは二階へと上がる。

 異能で足音を超音波に変えて周囲を索敵。そうして返ってきた音を元に戻して解析。

 やはりというかあちこち崩れ落ちているようだ。割れた窓、ひびが入り崩れた壁、そしてポッカリと穴の空いた床。中には部屋どころかその空間そのものが空洞となってしまっている場所まである。

 しかし、そんな所であっても部屋としてまだ使える場所もいくつかあった。

 その内の一つに人型の形状反応が返ってくる。

 数は二つ。呼吸音はないので生きている人という事はない。だが、気になったシュウはその部屋へと向かうことにした。

 ドアノブを回してみると引っかかるような感触が手元に返ってくる。どうやら鍵が掛かっているようだ。壊して強引に入る事もできるが、派手な音が外に響くかもしれないし、何よりも疲れる。

 結局、シュウは隣の開いた部屋からベランダ伝いに侵入する事にした。

 手すりを足場に隣のベランダに移ると件の部屋の窓ガラスは割れておらず、止むえずシュウは侵入用の道具を使って窓ガラスに穴を開けて窓の鍵を開ける事にした。

 部屋にいた人型の正体は予想した通り、死体だった。

 歳はシュウよりも二歳程年下だろう。よく似た双子で着ている衣装も瓜二つだ。

 二人共壁に体を預けて寄り添うように倒れている。外傷の形跡はなし。そもそもこの部屋は先程まで密室だった。他殺の線は薄いだろう。


(――自殺でもないとなると衰弱死か?)


 ありえない事ではない。多くの人々はベリルから離れていったが、中には行く宛もない故に残った連中だっていたはずだ。

 この二人がどういう事情の人間だったかはわからないが、年齢を考えると自力で生きていく術があったとは思えない。と、なれば待っているのは食料を失い、痩せ細って弱っていく衰弱死だ。

 救いがあるとすれば二人共近いタイミングで死が訪れた事だろうか。

 正直、このままにしておくのは忍びない状態だが、生憎と弔ってあげるだけの時間もない。

 手を合わせて冥福を祈る。ただの自己満足でしかないが、何もしないよりはマシだ。

 ふと、脳裏をよぎったのは彼女達がこのような結果になったのは自分達が原因でないかという可能性だ。

 自分達がベリルの連中を殺さずに解決できていれば、ベリルはこのような結果にならず彼女達も死ななかったかもしれない。

 だが、その『もしも』をシュウは即座に否定した。そもそも襲ってきた連中を撃退するのは当然の選択だし、戦力的に手を抜く事もできない。捕虜にした所で返せば再び牙を向いてくる可能性の方が高い。

 結局の所、あの結果は当然の帰結だった。であるなら他の可能性を考えても、それが実現した可能性は皆無である以上考えても仕方がない。そもそもシュウ自身が己の選択を後悔していないのだ。仮にやり直しができた所で同じ選択肢を選ぶだけだろう。


――と、シュウの耳が増幅されたフレイの足音を拾う。どうやら話を終え、こちらに向かっているようだ。足音の間隔が短いので小走りでもしているらしい

 鍵を開けて扉から部屋の外に出る。一階のエントランスに降りると、丁度フレイが出入り口から入ってくる所だった。


「お待たせしました」

「いえ、お構いなく」

「連れは暇を潰せたようですので」


 最後のフィアの台詞。その言葉にシュウは睨みつけるような視線を彼女に送るが、本人はどこ吹く風。

 そんな彼女の態度に腹立たしい思いに駆られるが、どうせ省みはしないのでこれ以上は何もしない。ただその代わりに『どこかで転びますように』と心の中で祈っておくが……

 そんな二人のやり取りを可笑しそう眺めているフレイ。


「もう時期、バルガトの拠点です。見張りは三人。見つからないよう気を付けて下さい」

「「了解」」


 二人同時の返事。その事に両者は互いをにらみ合いムッとするが、話の腰をおるわけにもいかない。

 そのまま三人は建物を後にしたのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 バルガトは構成員七人の強盗団である。頭数は旧ベリルにたむろする強盗団の中では少ない方だが、付き合いが良く他の強盗団と協力して動く事が多いそうだ。

 そのため、他の強盗団に信頼され揉め事が起こるとバルガトがその間にたってトラブルを解決してくれるというケースが多々あるらしい。言わば強盗団間の仲立ち兼裁定役だ。

 故に強盗団が協力して動くにはバルガトの存在が不可欠となる。そしてそれを実際に行っているのはバルガトのボスだ。


「――つまり、バルガトのボスを黙らせれば強盗団間の連携をとれなくなるという事でしょうか?」

「その通りです。故にお二人にはバルガトのボスを暗殺してもらいます」

「わかりました。それでバルガトの拠点の情報について聞いても?」


 その問いに頷くフレイ。

 彼女の説明によるとバルガトの拠点は高級ホテル跡らしい。

 大きな背の高いビルだが、実際に使用しているのは一番低い客室階の三~四階部分のみ。

 地下の駐車場跡は大半を戦利品を保管する倉庫として使っているそうだ。


「ボスの私室は?」

「聞いた話だと四階だと思われます。ただ、残念ながら詳細な場所まではわかりませんでした」


 と、なれば自力で探すしかない。


「わかりました。潜入の方に関しては?」

「バルガトは夜間、三人体制の見張りを敷いてます。サイクルは一定時間毎に一人ずつ交代するサイクル。配置は正面入口、駐車場、二階ですね。備え付けのセキュリティーは死んでいます」

「出入り口は?」

「正面出入り口と地下の駐車場、それと裏口の三ヶ所ありますが、裏口の方は物理的に塞がれていて入る事ができません」

「見張りの数が追いつかないから通れないようにしたって訳ですか。考えてますね」


 感心した声で相手を褒めるフィア。


「――なので地下の方から潜入してください。正面出入り口は見張りが立ちっぱなしの上に二階の見張りのフォローがありますが、地下は一人な上に駐車場内を巡回しているようです。見張りを避けて入る事は十分可能かと」

「了解しました。そちらのルートで潜入を試みます」

「フィアさんと私は迎えの建物で待機し、万が一のフォローに周ります」

「わかりました。それではいってきます」


 そうしてフレイ達と別れ、シュウは一人ホテル跡へと向かう。

 地下駐車場への入口は正面出入り口の死角、側面側にあった。

 異能を用いながら中を伺う。

 電気が通っていない地下の駐車場は真っ暗闇に包まれており、何も見えない。

――否、よく見ると動いている小さな光が見える。恐らくあれが見張りだろう。異能で拾った音も光の方から足音が聞こえているのでまず間違いない。

 それに見咎められないよう異能で足音を消しながら一気に出入り口を駆け下りるシュウ。

 そうして柱の影に隠れて一息。後は鉢合わせしないように見張りとは違うルートで駐車場内を進んでいく。

 そうして階段へ。音がしないようにゆっくりと扉を開けて中へと入る。

 そのまま一気に四階まで上がるシュウ。

 扉を開けて廊下に出ると異能を使って周囲を伺う。

――足音は……なし。物音らしい物音もなく、聞こえるとしたら割れた窓から入り込む夜風の音くらい。

 その音に耳を澄ませながら廊下を静かに進んでいくシュウ。まずは各扉に耳を当てて中の様子を伺う。

 扉を通じて響く聞こえないくらい小さくなった音を異能で増幅。対象が寝ているというのなら室内からは寝息ぐらいは聞こえてくるはず。それを探すことにした。

 しばらくして、それは見つかった。

 角部屋。鍵はオートロック式でそれ故に今は作動してないようだが、代わりにチェーンが掛けられている。裏口の物理封鎖といいしっかりと警戒はしているようだ。

 一旦、その扉から離れ隣の部屋へと向かうシュウ。そちらの扉はすんなりと開いた。

 そのままベランダへと出て隣室――つまり件のボスの部屋のベランダを伺う。

 ベランダは手すりで三方を囲んでおり、隣のベランダとは少しばかりの隙間で隔絶されている。

 手すりの高さはシュウの身長ほどあるが、登る事事態は難しい事ではない。問題はただのジャンプでは隙間を飛び越える事が難しいくらい離れている事。

 助走をつければいける気はするが、ベランダを駆けた所で手すりを飛び越える事はできない。

――となれば……

 溜め息を一つ。それで覚悟を決めるとシュウは手すりに手をかけその上に立つ。

 そうして軽く前後に歩いてバランスと歩幅を確かめると手すりの端まで後退。

 後はそのまま一気に手すりの上を駆け出し、跳躍。そうして隣のベランダへと飛び移ったのだった。

 着地の音は異能で消し、即座に窓の方を確認。

 窓はカーテンで遮られており中は見えないが、耳をあて異能で音量を上げると寝息が聞こえてくる。どうやら気付かれていないようだ。

 窓の鍵は掛かっているが、シュウにはあの道具がある。

 窓に穴を開け、そこから窓の鍵を開けるとそのまま中に侵入。ベッドで眠るバルガトのボスへと近づくと、迷う事なくその喉元に向けて短剣を突き立てた。

 それでボスは絶命。ベッドがおびただしい血で染まっていく。

 目的を果たしたシュウは先程とは逆のルートで廊下へと戻っていく。鍵を開けて扉から出なかったのは掛かっていた方が都合が良いからだ。ボスの死の露見は伸ばせるだけ伸ばしておきたい。

 その足で今度は三階へ。今度は就寝している連中の始末。ただその前に確認しておく事がある。

 目的のものは階段から廊下へと出た時にすぐに見つけた。

 見張りのシフト表。必ずどこかに張り出されているとは思っていた。

 シフト表によると次の見張りの交代は五分後。で、あるならそれを待ってから動いた方が良いだろう。

 程なくして個室から強盗が一人ノソリと姿を現した。

 眠たげに欠伸をした彼は軽くを屈伸を行い、それを終えると階段へと進んでいく。

 その後を追うシュウ。やがて彼は二階へと降りると、二階の窓辺に立っていた見張りに交代の時間だと告げて見張りを交代した。告げられた彼を喜び、その場を後にする。

 物影でやり過ごしたシュウは今度はその交代した強盗の後をつける。やがて彼が三階の個室に戻ったのを確認すると、ボスの時と同じ要領でそれぞれの個室に侵入。眠っていた者達を次々に始末していった。

 彼らの始末を終えたシュウはそのまま地下駐車場経由で脱出。フィア達と合流を果たしたのだった。


「ボスと就寝中だった連中は始末した」

「これで目的は果たしましたね」

「それでは移動しましょう」


 その言葉に頷きを返すシュウとフィア。そうして三人はその場を後にしたのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 乾いた風が黒の海を駆け抜ける。

 砂混じりの湿っけのない風が砂漠の中を行く者達から熱と体力を奪い取っていく。奪い取られた者達はやがて砂漠に埋もれ、その景色の一部となるだろう。

 そんな砂漠の中、一際大きな起伏の影に現在、オルクス達の姿はあった。

 周囲には仲間達と車両。皆、その時がくるのを今か今かと待ち構えている。


「――開始時間だ」


 やがて、眺めていた時計が定刻を告げた。

 それを合図に彼は車両へと乗り込み、車両は出発。他の車両を引き連れベリルへと侵入していく。

 砂埃を上げ迫ってくる車両群は夜に染まった砂漠の中でもさぞ目立つだろう。

 当然ながら、強盗団達もこれにはすぐに気が付いた。

 たまたま近くにいた強盗が自身の強盗団に車両の接近を報告すると強盗団はすぐさまに対応に動き出す。

 仲間を起こし呼び集める者、他の強盗団に知らせる者、武器を引っ張り出し迎撃の準備を整える者。

 後は一丸となって外敵を排除するのがこれまでの彼らであったのだが、今回は今までとは動きが違った。

 いつもは強盗団間の仲立ちをしてくれていたバルガトに動きがないからだ。

 これにはそれぞれの強盗団も不審を得た。

 程なくしてバルガトのメンバーから連絡が返ってくる。ボスと寝ていた仲間は既に殺害されていたという報告と共に……

 それで彼らは既に別の侵入者が内部にいる事に気が付いた。

 やってきた連中の対応しつつ何名かをその侵入者の捜索へと割り振る。

 だが、彼らは侵入者を見つけ出す事ができなかった。

 理由の一つとしては自分達の味方の中にスパイがいる事に気が付いていない事。おかげで通信で大まかな動きが筒抜けであった。

 もう一つはその侵入者が異能者だと思っていない事。相手が異能者であるなら、それに適した対応をとる必要があるからだ。故にその可能性に至っていない時点でディスアドバンテージを得ているに等しい。

実際、索敵や隠密面で負けている上、異能による変声を使った偽報告で捜索部隊が各個撃破を受けているという有様だ。

 結果、本来四十人近くいるはずの強盗団側は二十五人近くにまで数を減らし劣勢に立たされる事となっていた。加えてバルガトを失った事で強盗団間で連携もとれていない。これでは勝つという方が難しいというものだろう。

 オルクス達の攻勢は凄まじく、特に身体強化の異能を振るうオルクスの快進撃が止まらない。

 強盗達も彼を止めようと牽制の射撃を放っているのだが、オルクスはそれを容易に潜り抜けて接近すると両手に持った大剣を一気に振り下ろす。

 異能によって高まった身体能力によって振るわれる大剣の破壊力は壮絶の一言に尽きる。

 瓦礫が、壁が壊れるよう断たれ、その度にその影に隠れていた誰かが絶命する。

 その様相を目撃する度に後ずさる強盗達。そんな彼らをボスが通信機越しに叱咤するのだが、戦況は変わらない。寧ろ、徐々に悪化の一途を辿っていた。

 と、そこへ今度は爆発。盾にしていた車が爆発した事でその影に隠れていた強盗が飲み込まれたのだ。全身に破片が深々と突き刺さりその怪我が元で彼は死に至る。

 すると、今度は別の場所でも爆発。今度は細道に置かれたゴミ箱からだ。その近くに隠れていた強盗がその爆発に巻き込まれる。

 爆発の正体はシュウ達が仕込んだ爆弾。別箇所から戦闘の推移を観察し、この一帯にまで戦線が後退すると予想した彼らは到着前にやってきて事前に仕込んでおいたのだ。

 後はオルクス達からの通信で強盗達の位置を把握し、付近の爆弾をリモコンで起爆。そうして彼らに負傷と混乱を与えたという訳である。

 不意を突いた爆発騒ぎに強盗達の不安はピークに達する。

 不安が高まれば彼らに湧き上がる選択肢はただ一つ。

 その選択肢とは即ち逃走である。

 一人目が逃げ出した。それに釣られるように二人目、三人目と背を向け走り出す。こうなれば後は連鎖的だ。

 居残った所で負担が増えて最後は死ぬだけ。それなら残る意味などもうどこにもない。

 気がつけば通信機の向こうの声も止んでいた。起爆の傍らシュウ達が各ボスの位置を特定して襲撃をかけているからだ。

 最早、逃げ出す者を止める声もない。

 そんな彼らをオルクス率いる面々は冷徹に狩っていく。

 投降者こそ拘束しているが、基本逃げ出した者達は背後からでも射殺するという徹底ぶりだ。

 絶対に逃さない。そんな気持ちが彼らの顔には現れている。

 逃せば再び犯罪を犯す事が予想される以上、それを許すわけにはいかない。だからこそ、徹底的に殺す。

 仮に生き延びた者が出たとしても、この時の恐怖によって犯罪に手を出す事を恐れる可能性だってあり得る。故に徹底的に行う訳だ。

 その様相が強盗達をさらに逃走へと駆り立てる。

 拠点に残っている車両に乗ってベリルから逃げ出そうとする者、ただ本能のままに襲撃者から離れようとする者、逃げ切れるビジョンが浮かばず自殺する者、僅かな可能性に賭けて武器を降ろす者。

 様々な選択を選ぶ強盗達。そうしてその多くがベリルから離れる事を選んだ。

 先頭の逃走者がもう時期、ベリルの境へと辿り着く。そこまでいけばもう振り切れる。

 逃走者はそう思っただろう。これで命だけは助かった考えたはずだ。


――けれども、その希望はさらなる襲撃者の到来によって摘み取られてしまったのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Scene:11「潜入」:完

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