Scene:10「作戦」

 陽の光が枝葉を通り抜けて森の中に降り注ぐ。

 青々とした命の世界。そんな世界の中をゆっくりと蠢く影の姿があった。

 数は六人。その正体はこの一帯を根城にしている強盗団だった。

 結成からそれ程、日は経っていない彼らだが仲間の中には結成前から似たような事をしていた経験者が何人かいる。だから、強盗団を作れば食いつなぐ事くらいならできるだろうと高を括っていた彼らはしかし、捕食者に狙われたえもののように息を殺し身を隠していた。

 原因は数分前に彼らが起こした襲撃に起因している。見張りから車両が森に入ったと報告を聞いた彼らは獲物を狩るために通過予定の道路の周囲に隠れ布陣した。

 手順としては道路を木々で封鎖し止まった所で銃弾の雨を浴びせる。そうして運転手を殺した後、荷物を奪うという流れだ。

 殺すのは反撃を受けないため。大抵こういう集落から集落へと移動する車両は抵抗手段を持っているものである。

 だから、脅す事はせず手の内を使われる前に殺す。そうする事で彼らは自身の安全を確保しつつ生きるための糧を手に入れていた。

 けれども、今回の獲物はそれまでの獲物とは違う対応を見せた。

 どういうカラクリかはわからないが隠れていた彼らを見つけて先制攻撃を仕掛けてきたのだ。

 それで仲間二人が瞬く間に蜂の巣となった。

 当然、彼らも即座に反撃に出ようとしたのだが、それよりも先に相手の新たな手の方が早かった。

 スモークグレネードの投擲。それで獲物の姿は白煙の中に消えた。けれども、獲物からの攻撃は止むことなくまるで見えているかのように正確に強盗達を仕留めていく。

 完全に一方的な展開。流石に彼らもこれは不味いと気付いて撤退を選択。現場から離れたのだが、予想外だったのは獲物が追ってきたという点だ。

 恐ろしい事に相手は発砲音が微かに聞こえる程度でそれ以外は全く音がしない。

 自分達が僅かに出してしまう草木をかき分ける音も全くしないというのはどういう事なのか。

 一人また一人と狙い撃たれ倒れていく仲間達。そうして現在、その数は六人にまで減ってしまった。

 側面からの射撃。また一人仲間が死体へと成り果てる。

 即座に反撃を見舞う彼らであったが、やはりというべきか当たった手応えがない。

 そのまま確認もせずに先を急ぐ。確認をしないのは最初にそれをした時に反撃を受けたからだ。当たっていないと確信している以上、死ににいきたいと思う奴は誰もいない。

 さらに付け加えて言えば彼らは別に闇雲に逃げている訳でもなかった。

 目的地は彼らの根城。彼らが寝起きに利用している洞窟だ。

 出入り口は一つのみ。入ってしまえば逃げ道を失う事になるが、逆に言えばそれは敵が来る方を限定できるという事でもあった。

 流石の彼らも音のしない奇妙さから相手が異能者だと見当をつけている。

 どういう原理なのかはわからないが、敵の場所がわからないならわかるようにすればいい。そのためにこの場所を目指して逃げてきたのだ。

 洞窟の中へと転がり込み奥へと目指す。そして壁際に辿り着くと同時に反転。全員が銃器を構える。

 視界に映る出入り口の向こうに広がるのは森と開けた空。その光景の前に何かが通り過ぎようものなら彼らは即座にその引き金を引くだろう。

 そうして今か今かと待ち構え、一秒、二秒……


――中々追っ手は姿を現さない。


 警戒しているのか? あるいは逃げたか? 彼らがそう思ったのは待ち構えてから一分が経った頃だろうか。

 だがその時、洞窟の中に何かが飛び込んできた。

 すぐさま彼らは反応を示したがおかしい。飛び込んできたものが小さすぎるのだ。それも数が複数ときている。

 だから、彼らはその正体を見極めようと目を凝らし――結果、その正体が手榴弾だと知って青ざめた。

 手榴弾はそれぞれ壁を反射しながら転がっていき強盗達へと迫っていく。

 距離が縮まるにつれ顔を引きつらせていく強盗達。

 そうして一際大きな爆発が洞窟内にこだましたのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「――着いたぞ」

「あー、やっとか」

「お疲れさまです」


 ストラへと到着と同時に声を上げて伸びをするロブ。

 黒人特有の黒い肌のせいか、熱をもった身体からはいくつも汗が吹き出している。

 加えてによる疲れもあるのだろう。実際、到着まで助手席でバテて倒れ込んでいた。

 そんな彼と運転席で車両を運転していた白人イェンにシュウは労いの挨拶を投げ掛ける。

 時間としては昼と夕方の間頃、まだ空が熱を持っている時間帯だ。


「おう、お前もお疲れさん」

「報告の方は俺の方で済ませてくる。君はもう帰ってなさい」

「わかりました。それではお先に失礼します」


 そうして車両を降り、自宅へと向かうシュウ。

 ここは最近、彼らは強盗討伐のため、頻繁に外出を繰り返していた。

 強盗の出現等別に珍しくもない話なのだが、問題なのはこの短期間に一気に数が増えた事。おかげで定期巡回している商隊等が被害を受けて物資の入手にいろいろと支障をきたしはじめているのだ。

 そこでストラを初めとした近隣の小勢力は話し合いの末、合同で近隣の強盗退治に取り組む事となった。

 手間ではあるが付近に誕生した強盗団を放っておけば徐々に力をつけて後々討伐できない戦力にまで膨れる恐れがある。それを避けたいなら早期に叩くほかない。

 やり方はそれぞれの勢力に任されているが、ストラは巡回要員を増やして襲撃を警戒したり、捜索部隊を結成して強盗団の根城を探したりしている。

 シュウ達の部隊は捜索部隊の方。正確には捜索担当の部隊が発見した強盗団の根城に襲撃をかけて壊滅する役割だ。

 だが、強盗団の数が多い。今日も三箇所も周ってその全てを壊滅してきた所なのだ。

 そのまま車両を停めていた駐車場を後にしたシュウだったが、ふと駐車場の方を振り返る。停まっている車両の中に見慣れない、けれども知っている車両があったからだ。

 車種自体はよくあるもの。だが、運転席のバックミラーに垂れ下がっている謎のキャラクターキーホルダーには覚えがある。

 あれは確かフォルンの車両だったはずだ。


(誰かフォルンから来てるのか?)


 別に不思議な事ではない。強盗に対する合同作戦や情報交換等やり取りする事はいろいろある。なら、そのために誰かが来るのは当然の事だ。

 気になったのは誰が来たのか。

 知らない人かもしれないが、意外にオルクスが直に来ることも珍しくはない。最も、その場合高い確率でフィアも着いてくるのだが……


(今、あいつがくるのは面倒だなぁ……)


 どう考えてもノエルの件をダシにからかってくる図が想像できる。

 彼らが来ているとは限らないが、面倒は避けるに限る。

 少し歩くペースを早める。しばらくすると家が見えてきた。

 とりあえずこの後は来客の正体を確かめ、その中にフィアがいたならノエルの所に向かって彼女をフィアと合わせないようにする。

 フィアの方に行かないのは下手な誘導や牽制では見抜かれてノエルの存在に気が付かれてしまうからだ。それに加えて彼女と会うのが面倒くさいと思ったのもある。


「ただいま」


 家のドアを開けて中に入ったシュウ。そうしてリビングへと向かった彼が目にしたのは――


「おかえり」

「シュウ。おかえりー」

「お邪魔してます」

「…………」


 リーネとノエル、それにニヤニヤ顔を浮かべたフィアの三人の姿であった。

 フィアとノエルはテーブルの席についており、リーネは何かおやつを作っているのかキッチンで作業中のようである。

 想定した中でも一番最悪の事態に思わず天を仰いでしまうシュウ。しかし、既に出会ってしまった以上、どうあっても手遅れだ。ならば覚悟を決めるしかない。


「――とりあえずフィアがここにいるのは何でだ?」

「オルクスの付き添いみたいよ」

「はい。それで話し合いの間、知り合いと交流してきなさいと言われて、こちらに顔を覗かせました」


 オルクスとしては気を利かせたつもりなのだろうがシュウにとっては余計な気遣いである。

 後の流れは大体わかった。リーネの会って会話に花を咲かせれば自然とノエルの話題が出てくるだろう。

 いつもからかっている相手が同じ屋根の下で歳の近い女の子と暮らしている。その話題にフィアが食いつかないはずがない

 新たなおもちゃを見つけた子供ののように根掘り葉掘り尋ねてくる姿が容易に頭に思い浮かんだ。


「それでノエルと会って話をしていたと」

「その……病院のお手伝いを終えて帰ったら彼女がいて……」

「いろいろとお話を聞いていました」


 『一体、何の話を聞いていたんだか』と衝動的に言いたくなったが、言えば真面目に返しておちょくるのが目に見えている。

 故にシュウはそれをなんとか堪えて、そもそもの疑問を尋ねる事にしたのだった。


「そもそもオルクスは何の用でストラにきたんだ?」

「ベリルの偵察ためにシュウを連れていきたいんだそうです」

「……ベリルへ偵察にいく理由は?」

「再集結している強盗団の壊滅だそうです」


 その返事にシュウは『なるほど』と返す。

 現在、ベリルが収めていた地は空白地帯と化していた。

 理由は言うまでもなくベリルがフォルンに仕掛けた戦いの結果だ。

 強盗達が増えているのもそれに関係しており、事実、捕縛に成功した強盗達を調べてみると皆、ベリルの元住民である事が判明した。

 彼らの話を総括すると作戦の失敗以降、徐々に人々の間で作戦の失敗と食料危機の噂が蔓延し始めたと言う。

 ベリル側はこれを否定したが、噂は消えるどころか寧ろ新たな情報がどんどん出回るようになったそうだ。

 そうしてベリルの指示に従わない者達が徐々に増えていき、最終的には暴動が発生。それを契機に多くの人達がベリルから逃げ出した。

 決着は暴動側が勝利し、それまでベリルを支配していた幹部連中を処刑したそうだが、それでベリルの危機がなくなる訳ではない。

 寧ろ、何の計画プランもなくただ感情の赴くままに暴れただけの連中が支配者側となったのだ。最早、助かる道はどこにも存在しない。

 暴動を起こした連中が自分達がした事が何の意味もない事に気が付いたのは処刑を終えて数日後。その頃にはほとんどの住民がベリルからいなくなっていた。

 残っているのは暴動に参加していた連中かどこにも行き場のない連中のみ。最早奪いたくても奪える相手もいないという有様だ。

 こうなればこんな場所にいる意味はどこにもない。そうして最後に残っていた連中もまたそれぞれ徒党を組み強盗団となってベリルを後にしたという話だった。

 ただ、最近になってそこに強盗団が戻り始めているらしい。

 報告されている情報だと数は複数。同じ住民だったためか強盗団同士で縄張り争いをし合う様子はなく寧ろ協力関係を築いているそうだ。

 こうなってくると付近の勢力としては放っておけない。噂を耳にしたシュウも本当であれば近々大規模な討伐作戦が組まれるだろうなとは予感していた。


「向こうの規模とこちらの戦力は?」

「相手は五グループで推定人数四十人くらい。こっちは周辺の勢力からかき集めて三十人ぐらいの見積もりですね。あ、当然私とオルクスも参加します」

「……盗賊団の方が数は多いとは言え向こうの大半はただの素人。加えて異能者はなしか。こっち側は俺達以外の異能者はいるのか?」

「現状は不明。まあ、保有してもそうそう投入したがる勢力はいないでしょう」


 ストラがフォルンに積極的に協力するのは長年親しい付き合いをしていたため。だが他の勢力はそうではない。となれば虎の子の異能者を投入する可能性は確かに低いだろう。


「作戦は?」

「シュウが来てくれるなら撹乱作戦になると思います」

「まあ、そうなるよな」


 オルクスは身体強化を活かして味方を率いて正面から突撃。一方、索敵と隠密が可能なシュウと変則的な攻撃が可能なフィアは少数の味方と共に敵の目から逃れながら敵を奇襲していく。

 奇襲部隊によって敵部隊を混乱させ正面部隊を戦いやすくさせたり、逆に正面部隊を囮に奇襲部隊が敵の本陣を狙うのがこの作戦の基本な立ち回り方。シュウやフィアにとっては慣れたやり方だ。


「――はい。そこまで」


 と、そこへリーネが話し合いのストップをかけてきた。

 室内に響いた手拍子の音。その音に反応してシュウ達はリーネの方へと視線を向ける。


「物騒な話は作戦会議の時にでもして頂戴。どうしてここに来てまでそんな話をするのよ。ほら、ノエルだって困ってるじゃない」

「「――あ、ごめん(なさい)」」


 その指摘で二人は呆然としているノエルに気が付き慌てて謝った。


「えっと……気にしないでください――ですけど、シュウもそうでしたがノエルさんも現地の方に協力的なんですね。それはやはり今いる場所が良い所だからでしょうか?」

「――んー、まあそうですね」


 少し考える素振りをした後、そう答えるフィア。

 悩んだのは本当の動機――オルクスに一目惚れした事――を話すか迷ったためだろう。

 正直、その事を告げてみたい気持ちがシュウにない訳ではなかったが、その瞬間泥沼の言い合いが始まる事も予想できたので大人しく黙っている事にした――半目の視線だけは彼女に投げ掛けたが。


「私はシュウと違って今いる勢力に助けられ、そのままフォルンに居着いています。ただ、そのままお世話になりっぱなしなのも悪いと思いましたので、この異能を使って協力したいと申し出ました」

「そうなんですか」


 意外という顔を浮かべるノエル。一方、沈黙を保っていたシュウは『なるほど、そういう建前で交渉したのか』と関心顔だ。


「別に善意だけという訳ではないんですよ。だって、そうしておかないといざ余裕のなくなった時、最初に切り捨てられるのが私になってしまいますから」

「!! フィアさん!?」


 その言葉にノエルは目を見開き、慌ててリーネの方に視線を向ける。

 けれども、当のリーネはノエルの言葉に驚きも怒りもなく、ただ苦笑した表情を浮かべて黙々と作業を続けている。

 その反応に困惑するノエル。そこへシュウがフォローを入れる。


「気にしなくていい。別にフィアは皮肉でそう言っている訳じゃないから」

「それに私達は使っている側だから、仮に皮肉でもそれくらいは受け止めて上げないと――だしね」


 それに続いて発せられたリーネの台詞。けれども、その声が若干沈んでいる。

 そんな彼女の様子に気が付いたシュウは無言のままフィアを睨む。


「――とは言え不躾でしたね。すみません」

「フィアさんも気にしないで――と、できました」


 と、丁度おやつが出来上がったようだ。

 盛り付けを終わらせてテーブルへと持ってきた皿の上にあったのはビスケットとジャム。

 ビスケットは保管されているのを見た覚えがあるのでどうやら先程までやっていたのはジャム作りだったようだ。食べ方としてはビスケットにジャムを付けるかスプーン等ですくって乗せる形となるだろう。

 皿が置かれると同時に手を伸ばすフィア。その後に遠慮して遅れたノエルが続く。

 その間にリーネはお茶の準備。そちらの手伝いをしようと思ったシュウだったが、リーネに視線で断られたので仕方なく席につく事にした。

 ビスケットにジャムを乗せてさらにビスケットを重ねてサンドイッチにする。

 そのまま口に放り込み噛みしめると香ばしいビスケットの味に溢れ出たジャムの味が絡み、そのまま口の中全体に広がった。

 その余韻に浸りながらシュウは先程と同様の食べ方を続ける。

 そこへお茶を持ってくるリーネ。

 彼女はシュウ達の傍にお茶の入ったカップを置くとそのまま自身も席に着いておやつを食し始める。


「――うん、いい出来ね」

「はい。とっても美味しいですよ」


 満足げなリーネに相槌を打つフィア。ノエルも頷きシュウも笑みを零して同様である事を知らせる。

 和やかな時間。そうして四人はそんな時間を満喫した。

 話題は事欠かない。何せまだ良く知っていない人物がいるのだ。自然と話題はノエルに関する事が多くなる。

 質問の中心はやはり初対面のフィアで彼女の質問にノエルは丁寧に応えていく。

 けれども、その他人行儀な態度に思う所があったのか、唐突にフィアは彼女に呼び捨ての許可と丁寧語の禁止を告げた。

 最初こそ戸惑ったノエルだったが、だったらと自身もまた同様で構わないとフィアへと返答する。

 これにフィアも了承を返し、そこへリーネも乗っかり、さらにはシュウも巻き込んで――そうして女性三人は親睦を深めたのであった。


 翌日。町長室への呼び出しを受けたシュウは旧ベリルにたむろする強盗団を討伐するフォルンの作戦への参加を命じられる。

 作戦の決行は四日後。

 こうして彼の次の戦いの場が決まったのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 岩の谷間から車両が一台、姿を表す。

 乗っているのはオルクスとフィア、それと数名の連れ。用事を終えた彼らはストラを後にしている最中なのだ。

 谷間の上には見張りの兵達。

 彼らは思い思いに手を振り、オルクス達を見送っていた。


 そんな彼らを者がいる。

 一同が気が付かないのは無理もない。なにせその者は遥か彼方遠く離れた場所から彼らを監視していたのだから。

 カテゴリーとしては遠視系、あるいは身体強化系になるだろうか。何故ならその異能の内容というのが『遥か遠くのものまで肉眼で視認する事ができる』というものだからだ。

 遮蔽物がある場所では効果を十分に発揮できないが、幸いここは砂漠。岩壁の所まで視界を阻むものは何一つ存在しない。

 異能の使い手は少女。黒い肌と黒髪のポニーテールが特徴的で今はそれがフードの中に隠れている。

 乾いたような黄色い瞳は今もまだ車両へと向けられていた。


「フォルンの車両。ストラから離れていきます。敵は無警戒。狙撃しますか?」


 無機質な声でそう報告する少女。そこに人を襲う高揚感もなければ忌避感もない。ただただ平坦。人の命を奪うことに楽しさも恐ろしさも感じていないようである。

 傍には狙撃銃。ボルトアクション式の使い古されたものだが、それ故に少女はこの武器に全幅の信頼を寄せている。

 ただ本来、スコープが装着されている部分には何もなく、代わりに照準用と思われる突起物がそこには装着されていた。


「いや、必要ない。このまま追い掛ける。お前はそのまま車両を見張ってるんだ」


 彼女の問いに答えたのは傍にいた少年。こちらも肌黒で短く刈り上げられた黒髪が特徴的だ。

 少年は少女にそう命じて背後、砂山に隠した車両の方を見やる。

 丁度、その方向からは一人の青年がやってくるところだった。


「どうだ?」

「丁度、出てきた所だ。恐らくあの強盗団の討伐の相談をしたんだろう」

「なら、こちらの予定通りになりそうだな。よかったじゃないか、奴らをしたかいがあったってもんだろ?」

「そうだな」


 その言葉に笑みで答える少年。


「ともかく追い掛けるぞ。そうして向こうがベリルへと向かうようだったら先回りして準備をする」

「了解」

「はいよ。大将。なら、車を


 その言葉の直後、青年の周囲に動きがあった。周囲の砂がいくつか盛り上がったのだ。

 盛り上がった砂は柱のように高く伸びるとやがて、形を変えていき最後には人の形へと変化する。

 数は全部で八体。そうして生まれたばかりの八体の砂の人形は砂山の向こう、隠した車両の元へ向かっていく。少しすれば車両を担いでやってくるだろう。

 その図が予想できた少年は最早車両の方を見ない。彼の視線は遥か遠く自身には見ることのできない車両とその車両が立ち寄っていた岩壁へと向けられている。


「さて、見せてもらおう。彼らの実力を……」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Scene:10「作戦」:完

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