番外編(1)

※作者より :

昔のプロットを見つけたので置いておきます。よろしければ、お読みください。時間軸的には、アレックスがラシスと会った翌日の朝。この日の午後遅く、ラシスはバーンと海が見える展望台で再会し「一緒にご飯食べよう」と誘います。その直前の話になります。

2つのシリーズの主人公(弟バーンと兄アレックス)が会話する珍しい場面です。



翌朝。

バーンは、ベッドの上で目覚めた。

しんと静まりかえった自分の部屋で。

陽の光が彼の頬にあたっていた。

うっすらと両眼を開けた。

(・・・・)

ぼんやりとその光を見ながら、朝であることを認識して、意識を目覚めさせようとした。

自分の眼の前にあった手を握ってみた。

そのまま握りこぶしを見つめながら、あることに気がついた。

身体が冷えていないのだ。

(?)

握っていた手を広げて、背中に触れてみるとやわらかい毛布が掛けられてあった。

何も掛けずに眠っていたはずなのに、いつのまにか毛布が掛けられてあった。

そのことに驚いて飛び起きた。

誰かが、自分が眠ってしまってから家に入り込んだことになる。

その毛布を握りしめながら、不思議に思っていた。

(……誰が? 一体……)

ハウスキーパーのイザベルは午後からしか来ないはずだ。

もし、気が変わって彼女がここに来たとしてもこんな事をするはずがなかった。

あれこれと考えを巡らしてみても思いつかなかった。

耳をそばだててみる。

しかし、誰かがいるような物音はしなかった。

バーンはベッドから立ち上がるとその毛布をたたみ始めた。

それも終わるとベッドの上にきちんと置き、ドアを開けてダイニングを目指した。

階段を下りながら、考えられる可能性がもうひとつあったことに気がついた。

(もしかして……)

ダイニングからリビングへと歩いていくと、その答えがラブソファに横たわっていた。

長い足がソファーのアームレストからはみ出していた。

バーンはその姿を見てホッとした表情を浮かべた。

彼の兄アレックスだった。

ネクタイをだらしなくゆるめ、黒いコートを着たままの姿だった。

「……兄さん…」

思わずぽつりとつぶやいた。

その声にショットグラスを手に持ったまま、ソファーにひっくり返るように寝ていた人物が目を覚ました。

片目をつぶったまま、部屋を見回した。

ようやくバーンが側に立って、自分の方を見ていることに気がついた。

「Good morning. ようやく起きたか」

「………」

バーンは声を掛けられても動けなかった。

ソファーのそばのテーブルには、ほとんどなくなっているウィスキーの瓶が置いてあった。

きっと夕べ遅くに帰ってきて、そのまま酒を飲み、酔いつぶれてしまったのだろう。

「っと、やべ! 俺もいつの間にか眠っちまったか」

苦笑いをして持っていたグラスを落としそうになりながら、ゆっくり起き上がった。

それを瓶のそばに置くとぼさぼさの髪を手でかき上げ、胸ポケットから煙草を取り出して火をつけた。

ジッポオイルのにおいが鼻についた。

その煙で目を覚ますように、深く深く吸い込んではき出した。

窓から差し込む光が煙にあたって白く何層にも渦巻いているのが見えた。

「兄さん、何で急に?」

意外な兄の訪問に驚きを隠せなかった。

「NYにいたはずじゃないかって? かわいい弟に会いに来んのにいちいち理由がいるのかよ」

「………」

バーンは黙り込んでしまった。

「しかし、週末でよかったな。こんなにのんびり寝てたら、普通の日なら遅刻だぜ」

「………」

「まさか、普段からこんな生活してる訳じゃねぇだろうな?」

冗談のつもりで言ったのだが、バーンからの答えはなかった。

そんなことをしたら、休日に罰登校+即、彼のところに高校から連絡が入る。

今までにそんなことは一度もないので、バーンが真面目に高校へ行っていることだけは間違いなかった。

「………」

アレックスは煙草をくわえたまま、ソファーから立ち上がった。

「バ~カ、怒ってんじゃねぇよ」

そのままバーンのそばに来ると、指で彼の頭をすいっと押した。

にんまり笑って、コートとジャケットを脱ぎはじめた。

黒い革製のホルスターベルトが白いシャツにくっきりと交差しているのが見えた。

「!」

その中には鈍い銀色のリボルバーが収められていた。

銃を携帯するようになった兄の姿にバーンは驚いた。

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