第67話 わたしの仕事

わたしの仕事は、メモ用紙づくりとシュレッダーだ。

英子さんは上手いからって。


わたしは自分の仕事を恥じている。

誰にでもできる、こんな仕事が嫌だ。


誰もわたしがそんな仕事をしているなんて、知らない。

国立大学の職員として勤めている、というと、

『すごい』とみんなが言う。

なんの仕事をしているか、聞かれないのが、幸いだ。


わたしがしたい仕事は、創造的な仕事だ。

ポスターを創ったり、

壁の装飾を創ったり、

そう、愛子さんが担当している、

あの仕事がしたい。


だけど、課長は、わたしにシュレッダーと、

メモ用紙作りしか、命じない。


シュレッダーの仕事には、終わりがない。

どんどん捨てる書類はでてくる。

わたしが生まれるずっと前からため込まれ、

保存してきた書類は、果てしなくある。


シュレッダーのごみは、すぐにたまる。

だけど、その都度、ゴミ袋を交換したらいけない。

一回ゴミ袋を出したら、二回目は、ゴミ袋なしで、

シュレッダーをかけていき、

いっぱいになったら、

箱をひっり返して、外にあるゴミ袋に入れていく。

シュレッダーは、30分しか継続して使えない。

30分が経ったら、わたしはメモ用紙作りをする。

紙を同じ大きさに切っていき、二センチくらいになったら、

ノリをつけて、製本をする。


シュレッダーが休んだら、また始める。

そのくり返し。


ある日、ふと、シュレッダーのゴミを見ていたら、

声がきこえた。


『解放せよ』


その時に、わたしは、シュレッダーのゴミを、

雪みたいにばらまいたら、

どんなにみんなが喜ぶか、と思った。


だから、やってみた。

狂ったように、

事務所にぶちまけた。


おかしくて、たまらなかった。

みんなの精神をわたしは解放した。


ついでに、ビニール袋の中のゴミも、

ぶちまけた。


最高だった。


わたしはわたしを開放し、解放した。


もう、シュレッダーの仕事はやりたくない。

廃棄紙の使える部分をカッターで切って作る、

メモ用紙作りも、

もう、やりたくない。


やりたくない、と言えなかった。

だから、わたしは、そんな風に、

シュレッダーの紙を、

雪みたいに降らせることでしか、

気持ちを伝えられなかった。


愛子さん、自分ばかり楽しく、

花を創ったり、

ポスターを創ったり、

しているんじゃないわ。


拾いなさいよ。

片づけてみなさいよ。

みんなだってそう。

わたしがこの八年間、

どんな思いで、

シュレッダーとメモ用紙作りをしてきたか、

わかる?


もう、いやなのよ。


わたしは雪が積もった事務所を、

あとにした。

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