第61話 呼ばれなかった女

ラインの名前が、

突然変わった。


学生時代から同じだったスヌーピーのアイコンが、

ウエディングドレスの後ろ姿になっているわ。

浦安の結婚式場。

あたし、ここ、一度でいいから行ってみたかったのよ・・・。


あたしは一瞬、わぁー、おめでとうって思ったわ。

すぐにでも電話をしたいような、

嬉しい気分になった。

だって、中学からの親友なのよ。


だから・・・、

だからこそ、

あたしは次の瞬間に、闇に落ちたのよ。


(なんで知らせてくれないの。

なんで結婚式に呼んでくれなかったの。

何故あたしは呼ばれなかったの?)


でもね、呼ばれなかったとしても、

こうして気づいてしまったのだから、

こんな風にラインで送ろうかとも思ったのよ。


『晴香、もしかして、結婚したのかな?

山崎晴香ってなってたから・・・。

おめでとう、晴香』


でも送れなかった・・・。

悔しくて・・・。

呼ばれなかったのだもの。

気づいていないことにしてやるわ。


しばらくして、アイコンは、ふくらんだお腹になった。

あたしはこう送りたかった。


『それって、きもいから、やめなよ』


でも、送らなかった。

気づかないふりをしていることなんか、誰にもわからないもの。


それから、アイコンは目まぐるしく変わった。

新生児が夫婦の両手に乗っかっているアイコン、

お宮参り、

お食い初め、

一歳のドレス姿、

節分、ひな祭り、お花見、水遊び・・・。


(もういいから)


あたしはそう毒づきながら、

涙が頬を伝うのを感じていた。

そして、ほほ笑んでいた。


だって、赤ちゃん、あなたにそっくりなんだもの。

目がそっくり。

表情がそっくり。

不思議ねぇ・・・。


あたしは気づかないふりを続けながら、

この赤ん坊を愛し始めていた。



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