第60話 もう行くね

二人でうずくまっていた。

どうにもこうにも変わらない奥まった

牢屋みたいなところで、

ずーっと二人でぼろを着て、

草を食い、

冷たい手足をさすっていた。


痛みを痛みと感じないように麻痺させて、

他人をけなして笑っていた。

輝く人を馬鹿にして喜んでいた。

それはそれは、なんともいえない心地よさだった。


人が作ったものをただ鑑賞し、

人の人生をただ眺めて、

片っ端からダメ出しをして、

『本来は』とか

『そもそも』とか

大物アーティストにでもなったように、

二人で語り合うのだもの。


それなのに、あなたは突然立ち上がった。

なんの前触れもなく、

『あたしはもう、ここにはいたくないんだ』


そう言って、光の世界へ出ていくと言う。


『もう行くね』


あたしはどうしたらいいの


『もう行くね。あなたも、行けばいいのよ』


あたしは・・・

あたしは・・・


外の光は怖いんだ。

どうしたら、あなたを出ていかせないで済むの?


『二人で外に行って、今度は作る側に、生きる側に回るのよ』


あなたは言う。


『嫌だ、嫌だ。

ここにいようよ。

あたしたちなんか、どうせ、何をやったって、うまくいきっこないのだから、

ずっと、ここにいようよ』


『もう行くね』


あなたの輝いた背中を、

あたしはこのナイフで刺さずにいられるだろうか、

ねえ、どうしたらいい。

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