第39話 夢を見る女

引越しの手伝いで娘の部屋に行った。

カレンダーの裏に書かれた、

娘の夢を見た。


つまらない、と思った。

こんなのが『夢』だなんて、あり得ないと思った。


『愛する人と結婚をする。

すぐに仕事を辞めて、子どもを三人産む。

かわいく、賢く育てる。

落ち着いたらパートの仕事をする。

ずっときれいで、だんなさんと仲良くする』


は?


こんなの、現実でしょう。

夢なんて言わせない。

ここに書いてあること全部、

地獄みたいなものでしょう・・・。


千切ったカレンダーの裏に、

書いてある言葉の貧乏たらしいことよ・・・。


夢っていうのはね、

たとえばこうでしょう。


『月に行って遊ぶ。

空飛ぶ車に乗って、世界旅行をする。

宇宙に行って別の星に住む』


とかさぁ・・・。


若い子らしい、妄想じみた、大きな夢がないの?


好きでもない男と結婚をした。

仕事を続けながら、たった一人の娘を産んだ。

離婚した。

娘は変わった子になった。

私は事業を大きくした。

独身時代よりも30キロも太り、気づいたらひとりぼっちだ。


あ、こんな私が反面教師になったってこと?

私の事業を継ぐとか、

もっと向こう側へ発展していこうなんていう

気概もなく、平凡以下の女になろうっていうわけね。


『ああ子どもなんか、産むんじゃなかった。

ああ子どもなんか、失望させるだけの存在だった』


って私も、カレンダーの裏に書いてみた。

ふと、涙が出た。

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