第38話 とてつもなくうざい女

彼女は25年も前に、新卒で入った商社の同期だ。

まだ勤めている子もいる。

私はとっくに辞めたが、

同期会は大好きでほぼ毎年参加する。

気が合う、好きな同期がたくさんいる。


しょっちゅう同期会で集まる、

7人のライングループがある。


そこに私が好きじゃない彼女が、

うざい投稿をする。

投稿っていわないか。

送信かな。


(インスタやれば)


私はいつも心で叫んでいる。


『SNSは興味ない』らしい。


いや、興味があるでしょうよ、こんなに送ってきて・・・。


『娘の成人式』

これはまぁ、みんな送りたいわね。

私も送りましたし。

一生一回だし、顔が似ているか見たいし、

まぁ、楽しめますよ。


どうでもいいのは

『パパとランチ』

『パパと旅行』

『パパとディナー』


パパの顔はない。

レストランや旅館のおいしいお料理の写真が、

喜ばれるのも、二回くらいまでだぞ、おい。


まぁ、いいとしましょう。

別に、いいです。


私が最もうざいのは、長文メッセージだ。


(ブログでもやれば)


そう言いたい。

まじでなんなの・・・。

うすうす気づいていたけれど、

やっぱ彼女、変だ。


昨日のラインはまじでうざすぎた。

私はいつもなら頑張れる返信を、

しないでおきたかった。

だけど、頑張って『いいね』というスタンプを押した。


内容はこうだ。


『実は・・・、私、今日お誕生日なのです。

朝からパパにダイヤモンドの指輪をはめてもらって、

思わずベッドで泣いてしまいました・・・。

ダイヤモンドは小ぶりの1カラット。

プラチナ950に埋め込んであるデザインです。

あとで写真送りますね!


昨夜は娘がサプライズでケーキを作ってくれていました。

まだ弁護士事務所で修行中で忙しいのに・・・。

ほんとうにありがとう・・・。

司法試験に合格したからって、

すぐに法廷に出られるわけじゃないんですねっ。

私はそういうの疎いから、全然わからない。

娘が法廷に立ったら、見に行くねって言っているのだけど・・・。

いつになるのかしら。

その時には、みんなも誘うね。

息子は相変わらず勉強ばっかりしていて、

むさくるしいの。

お姉ちゃんと同じ道を目指しているのはいいけど、

何も大学生時代に合格しなくてもいいと思うのだけど・・・。

まぁ、生まれた時にはみなさんにお祝いを頂いた

2人の子が、元気なのでご安心くださいね。

こんな幸せな毎日に、感謝しているのですが、

ひとつだけ、悩みもあります。

それは、前にも相談にのってもらったのだけど、

幸せをねたまれてしまうこと。

私が、地味なタイプなら、そんなこともないのでしょう。

ただ、私は父に似て、目鼻立ちがはっきりしているから、

余計に鼻につくんだよってパパが言うのね。

色んなママ友とか、近所の人に、

嫌なことを言われます。

ねたんでいるのでしょうね。

だけど、みんなはさすが元商社マン。

セレブ仲間だから、いくらでも自慢できちゃう。

だって、私よりみんな幸せだものね!

これからパパと食事に行ってきます。

あとで写真を送ります。

いつも本当にありがとう。

大好きな同期へ』


何がどううざいのか。

何故うざいのか。

考えるのも嫌だった。

とにかく私は彼女がうざい。


そして、プラチナとダイヤモンドの指輪のアップ写真が来た。


顔を見合わせる仲間がいないのはつまらないけど、

義理のスタンプで、みんなと顔を見合わせている。


今気づいたけど、

彼女のお誕生日って、

25年間、誰も知らなかったのだ。















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