第12話 薹《とう》が立った女 P27才

女は損だ。

可愛い時が短い。

可愛いのは、26才までだった。


27才になったとたん、頭の上に、にょきにょきなんか生えた。


なにこれ。


なによこれ。


あたしはそれを毎日切る。

なのにまた、寝て起きると、生える。

なにこれ。


ねぇ、なにこれ。


『さっさと食ってもらわねぇからよ』


あたし付きの化け物風天使が言った。


『おめぇは薹がたっちまった』


なによ、それ。


こんなに一生懸命やってきて、

周囲の期待に応じて、

言うことを聞いてきて、


それでなによ、この変な草は・・・。


つらいつらいつらい・・・。


可愛くないあたしなんか、生きていても意味がない・・・。


『みんなそうやって、ばばあになるんだ』


やだやだ、ばばあになるなんて、いやだ。


『だから、こねーだの駿くんと結婚すりゃえかったべ』


愛もないのに?


『愛なんかいらねぇや、どーせなくなるんだから』


そんなの嫌だ。

愛してもいない男に抱かれるなんて、いや。


『みんなそんなもんだわ』


あたしは嫌なの。


愛し合って、死ぬほど愛し愛されて、気絶しそうになった挙句、

妊娠して、その子の顔を見たいの。


『そんなやつ、どこにもいねぇや』


いるわよ。

あたしの親がそうじゃない。


アルバム見たでしょ。

あんなに愛し合って、

50を過ぎたって、あんなにいちゃいちゃして・・・。


『なのになんでおめーは、愛に恵まれねぇんだ』


うるさい、うるさい、うるさーい。

今はね、27なんてガキよ。

なによ、この草みたいなのは・・・。


『薹だわ。みんなこっそり切ってんだ、うちで』


嫌よ。

永久脱毛みたいの、ないの。


『その塔に関しては、ねぇな。何億払っても』


えーっ。


あたしは、今日も、草みたいな、薹を切る。


なんとか、可愛くなる。


もっと、もっと、まだ、まだ、可愛くいたい。

可愛くなりたい。


『あきらめろ。子ども産め。可愛いのは、ガキに譲れ』


嫌よ。


まだまだまだまだ、遊びたいのぉ。


愛する人を、見つけるの!


『その薹をよ、伸ばしてみたらどうだ』


いやだこんなみっともない。


『いや、薹を隠して、可愛くしている方が、変だ』


うるさい、うるさい、うるさーい。


『その薹をとことん伸ばしてみな。

案外、うめーんだよ、その薹も。薹の味のわかる

大人に食ってもらえ』


27才・・・。

まだ若いのに・・・。


そんな、そんな、そんな・・・。


あたしはずっと可愛くいたい。

薹を毎日切って、

18才の時と同じあたしでいる。


ずっとずっと可愛くいたい・・・。


『年だけは平等だ』


あたし付きの化け物は、笑うけど、

あたしは、ずっと可愛くいるつもり。



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