第5話 忘れっぽい女 和歌子 64才 

なんてかして、ここにとどまりたいみたいだ。

ここ、とは、地球だ。


けっこうもうみんな、トランスポートしているみたいだ。


隣の奥さんも、裏のおばあちゃんも、いつのまにか、

いなくなっている。


お向かいのお嬢さんは、今朝、異常な量のごみを出していた。


『準備』なのだろう。


だから和歌子は、毎朝ヨガをやるたびに、決心をする。


『今夜、逝く』


『孫の顔も見た。もう、なにも思い残すことはない』


遺言を書き残し、部屋も片付けた。


なのに、ヨガマットをたたんだ瞬間、


決心なんか、忘れてしまう。


和歌子はまだまだここで、欲と、エゴと、病とに、まみれて過ごしていたいみたいだ。


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