第27話 なんなんシツレーやなぁ

「なんかごめんね、荷物持ちなんかしてもらっちゃって」


「何言うてんねん、これからしばらく泊めてもらうねんからそんなんは当たり前やろ」


「え? これからしばらく?」


「え? あかん?」


「……まあいいけどね」


 ノリスは小さく嘆息しながらも、どこか嬉しそうに零す。


 ノリスの身の上話から一夜明け、ノリス、和夫、祐奈、拓郎の四人は市場に昼食の材料を買いに来ていた。


 ノリスと和夫が先頭を歩き、その後ろでは祐奈は様々な露店に視線をキョロキョロと移ろわせ、拓郎は大量の食材が入った袋を両手にぶら下げながら不機嫌そうに歩く。


「なんでほとんど僕が持っとんすか」


「まあええやんけ、お前好きやろ? 筋力使うん。すぐ人シバきたがるし」


「ちゃいますし! 腹立つ奴おるんが悪いんすよ、僕が暴力的みたいに言うんやめてくれます?」


「あたしが持ったろか?」


「いや、祐奈さんに持ってもらうんはなんかええっすわ、落としそうやし」


 拓郎は努めてぶっきらぼうに答える。


 女に対するそういった姿勢が日本の男の平均的な童貞卒業年齢を著しく引き上げているが、女に荷物を持たせるのはなんか嫌だけど身近な人間を女性扱いすることはまだ少し照れ臭い、そんな微妙な年ごろを考えればそれも致し方ない。


「なんなんシツレーやなぁ、可愛いおねーさんに荷物持たしたらあかんぐらいいいーやぁ、モテへんで?」


「モテてますし、去年三回コクられましたし」


 プリプリと苦言を呈する祐奈に拓郎は口を尖らせる。知りあった頃よりも年相応な可愛らしい態度を見せる拓郎に祐奈は口元をニヤニヤとゆがませる。


「へ~、じゃあ今彼女おるんや?」


「え? あ~、いやぁ~、ほら? その、好きでもない子にコクられたから付き合うゆーのもなんかかっこ悪いというか……」


「童貞くっさいのぉ、そんなもん付き合ってからめっちゃ好きんなることもあんねんしチャンス与えたらな逆にその子がかわいそうやろ」


 和夫はここぞとばかりにドヤ顔で胸を張り先輩風を吹かせる。


「……そーっすけどぉ」


「気にしたらあかんでぇ~、カズくんなんか偉そうなこと言うてはるけど、カズくん全然モテへんからな」


「でしょーね」


 間髪入れず同調する拓郎に和夫はムッとする。


「いやいやお前、俺はあれやぞ、トータルでみるとそれなりにやな……」


「あー、あれ? 中学ん時可愛い子ぉに嘘でコクられて、『私あれやねん、和夫くんのこと好きやけどチ●コの形がええ感じの人としか付き合われへんねん」って言われて渡り廊下やのに速攻でズボンとパ……」


「ちょぉ! それはやめろや!」


「え~、あれめっちゃおもろかったのにぃ」


「……あとで和夫くんおらん時に教えてください」


「ええよ~」


 そんな三人の下らない会話を、ノリスは微笑ましく眺めていた。


「おう、なんかすまんな、ノリスほっといてしょーもない話ばっかしてよ?」


 申し訳なさそうに言う和夫に向かってノリスは小さく微笑む。


「ううん、なんか,、……楽しいよ。……今までこういうことって、なかったから」


「そらこんなアホンダラどもそうそうおらんやろからな。こんな奴らばっかりやったら世界は速攻で滅びてるで」


「そういうことじゃないんだけどなぁ……」


「いやいやこいつらの頭の悪さは尋常ではないやろ、俺はちゃうけどやな。なあ拓郎、おい、拓郎?」


 和夫が振り返ると拓郎は何やらするどい視線で一点を凝視していた。

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