第24話 ノリスの過去②
預けられた施設は壮絶な場所だった。
僕が住んでたところの近所にいた子供たちとは明らかに様子の違った子供たちがたくさんいた。
みんなどこか怯えていて、それと同時にとても威圧的な目をしていた。
ちょっとしたことで怒ったり、自分が迫害されている、攻撃されていると勘違いしては牙をむいた。
最初の頃、僕はそんな子たちによく殴られた。
施設の大人に相談しても、
「お前が悪い、弱いくせに他人を刺激するからだ」
と、取り合ってくれなかった。
そこでは強さが全てだった。
喧嘩の弱い子はご飯のオカズもおいしいやつはとられちゃうし、いじめられても誰も助けてはくれなかった。
しばらくはそんな環境で虐げられながらも僕は我慢していたんだけど、少ないご飯と押しつけられた労働で僕の心は疲弊していた。
「――お母さん、……ごめんね」
僕はついに、人を殴った。
腕っ節には自信がなかったから、とにかくいきなり、とにかく強く殴った。
何度負けても、何度殴られても、相手があきらめるまで何度も殴った。
母さんの教えを破って人を傷つけたのに、結局負けちゃったらそれは本当によくないことだと思ったから、そんなになるくらいなら死んだ方がマシだって思った。
やがて施設の子供たちは、誰も僕に逆らわなくなった。
施設の大人も僕に気を使うようになった。
ご飯の時もオカズを多めに装ってくれるようになった。
だけど僕の気持ちは全く晴れなかった。
大人の人はなんだか僕によそよそしいし、子供たちは僕と目が合うだけでうつむいてしまう。
陰でこっそり、
「あいつ気味わりぃよ、あいつと関わってたらそのうち殺されちまうよ」
なんて言っていたのが聞こえてきたこともある。
なんだか僕がそこにいるだけでみんなを傷つけているみたいで、僕なんかいない方がいいんじゃないかって、そう思った。
☆
「……うぅー、……ノリくん、辛かったんやねぇ」
話を聞いていた祐菜は上擦った鼻声で言う。
「――腹立つなぁ、シバきましょ、ディーンシバきましょ!」
自らの拳を何度も手のひらに叩きつけながら拓朗が言う。
「ごめんね、こんな暗い話、……長いし」
申し訳なさそうに言うノリスに祐菜は目をくわっと見開き、
「あかーん! 謝ったらあかん! ノリくんのママも、ノリくんもなんも悪ないねんから、謝ったら、……あかんやんかぁ」
見開かれた目に涙を滲ませながら叫ぶ祐菜を、ノリスは懐かしげな表情で眺める。
「ありがとう、そう言ってもらえると、なんだか嬉しいよ」
「僕、力なりますわ! ちょっと今からディーンシバいて来ますわ!」
言いながら立ち上がろうとする拓朗の方を和夫が掴む。
「待て待て、お前ちゃんと話し聞いてたか? 別にディーンのせいで生活狂ったわけちゃうやろ」
「いーやディーンのせいっすわ! あいつがいらんこと言わんかったらノリっさんはそんなんせんで済んだっしょ? だいたい僕はそ~いう奴嫌いなんすよ」
「ほならそれは只の私怨やんけ」
「ちゃうっす、ノリっさんは、……ノリっさんは」
「……ノリくん」
「ほんでお前らのそのノリスの呼び方なんやねん、なんでそんなノリオ感ハンパないねん」
「いいよいいよ、好きに呼んでくれて」
ノリスは小さくほほえみながら言う。話を聞いてくれて、親身になってくれて、気安く接してくれて、ノリスは久しぶりに暖かさを感じていた。
「すまんの、ほなまあ続き話してくれや」
「うん、ありがとう、それでね……」
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